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9 闇の剣士VS虚空の封環1

「レッスンツーって気楽に言うけど、殺されたらどうするんだよ?」


 なにせ俺自身の戦闘能力は底辺冒険者のそれである。

 あくまでも【ブラックホール】が本来のスキル効果を発揮してこそ、無双の力を発揮できるのだ。


「随分と弱気じゃねーか。『最強』の権化ともあろう者が、よ」


 ルネがどう猛に笑う。


 口調とは裏腹に、挑発するような感じではなかった。

 俺を見つめる青い瞳は、驚くほど澄んでいる。


 ……不思議な奴だな。

 俺は内心でつぶやく


 魔族ではあるけど、あまり邪悪な雰囲気がない。

 どちらかというと、強さを求める求道者に近い感じ。


 むしろ同じ人間(といっても、改造人間だが)のラグディアのほうが数段不気味である。


「おかしいなー。皇帝陛下は世界征服戦争において、君を最大の脅威だとみなしていたし、僕もそう思うよ」


 ラグディアがニヤニヤと笑う。


「君のスキルなら問答無用で僕たちを排除できるでしょ? ほら、やってみてよ」


 こっちはルネとは対照的に、露骨なまでに挑発的だった。


「王の力をもってすれば、あなたたちなど瞬殺されますよ。あまり無礼な口はおやめくださいね」


 丁寧な口調ながら、フレアの目はまったく笑っていない。

 正直、ちょっと怖い。


「ですが、今はまず実戦訓練といきましょう。さあ、王よ。限定解放したスキルで、かの者を無力化してください」

「無力化……か」


 といっても、吸いこんで倒してしまったら訓練にならない。


 俺が求める力は、相手を殺さず、その戦闘力だけを奪う力である。


 ルネは、ある程度の力を持った魔族のようだ。

 そんな彼を殺さずに無力化できたら、ヴェルフ帝国との争いでも、兵士たちを殺さずに制圧できるかもしれない。


 そのためには──どうするか。




 ──なあ、こいつとの戦いでスキルの『設定』を変えられないかな?




 ふと思いついて、スキルに語りかけてみる。


 訓練ということ以上に、なんとなくルネを殺したくない気持ちが片隅に会った。

 魔族を相手に加減することを考えるのは、やはり変だろうか。


 でも、なぜかルネに対して、敵対心が湧かない。

 ルネの、俺に対する憧れのようなまなざしがそう思わせるんだろうか。




『詳細設定モードを開始します』




 前方の空間に文字が浮かんだ。


「えっ……?」

「あら、ようやくスキルと意思疎通ができましたね」


 フレアが微笑んだ。


「まだ、ほんの少しですが──通じ合い始めたみたいですよ。王と【虚空の封環(ブラックホール)】は」




『機能限定モード:ON』

『吸収範囲:前方直線状』

『射程距離:1000メートル』




 と、いくつもの項目が並んでいる。


『設定変更は術者が文字に触れることで行えます』


 説明が出る。


「文字に……触れる?」


 試しに『射程距離』という項目に手を伸ばした。


 指先で引っかくように触れると、『1000メートル』という表示が『900メートル』に減った。

 さらに800……700……と、どんどん減っていく。


「なるほど、確かに設定を変えられるみたいだ」


 今度は指先で弾くように触れる。


 すると、射程距離が700……800……900……と数字が増えていった。

 指先の動きだけで射程を延ばしたり縮めたり、と設定変更できるわけか。


 ただし、最大射程の1000メートルを超えた数値にはできないようだった。

 あくまでも最大値までの範囲内で弄ることが可能、ということだろう。


「なあ、ルネと戦う前に【ブラックホール】の設定を弄ってもいいか?」


 俺はフレアにたずねた。


「それは王のご自由に。私が【ブラックホール】を限定解放状態にしたのは、あくまでも王にスキルの制御や調整能力を身に着けていただきたかったからです。詳細設定を覚えた以上、もはや今までの限定解放状態にこだわる理由はありません」


 と、フレア。


 これまでのスキルは直線範囲しか吸引できなかった。

 だからフレアのように俺を圧倒する動きを持つ相手には、通用しなかった。


 だけど、設定を変えれば──。


「見たところ、ルネ・ラーシェルの能力はおそらく高位魔族並です」


 フレアが言った。


「下級魔族のダークブレイダーとしては信じられない戦闘力ですね。なんらかの強化術式でも施されているのか、あるいは突然変異の超天才なのか──」

「要は、あいつは強いってことだな」

「ええ。訓練相手としては申し分ないでしょう。彼を相手に、殺さず無力化できるようなら、王の求める力は得られたも同然です」


 ──よし、やってみるか。


 俺はあらためて詳細設定の文字群を見つめた。

 これを弄って、ルネに対抗できるだけのスキルにしてみせる──。

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