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7 スキルとの語らい

 俺のスキル【虚空の封環(ブラックホール)】には独自の意志がある──。


 スキル内の世界『虚空の領域(ウォルドゥーム)』の管理者フレアは、そう言った。

 そしてスキルの意志を汲み取ることで、より精密なスキル制御ができるはずだ、と。


 その果てに──。

 スキルの最終段階、真の無敵の能力が発現する、と。




 ──教えてくれ。

 ──【ブラックホール(おまえ)】の意志を。

 ──お前は何をしたい?

 ──お前は何を求める?

 ──お前は。




 あれから一週間。

 俺はずっとスキルに向かって語りかけている。


 といっても、『スキル』という実体がないものに対し、どう語りかければいいのか。

 とりあえず心の中で念じるようにして話しているけど、この方法で正しいのか。


 まったく分からない。


「雲をつかむような話だよなー……」


 ため息をついた。


「そろそろ諦めますか、王よ?」


 フレアが話しかけてきた。

 狐耳の美女だ。


 そして、このスキル内世界の管理者でもある。


 本当の名前は【虚空の焔(ドゥームフレア)】。

 本人の希望もあり、俺は彼女をフレアと呼んでいる。


「まさか」

「では、一息入れてくださいませ」


 と、紅茶を差し出す。

 どこから持ってきたんだ、これ?


 疑問に思いつつも、ありがたく受け取っておいた。


「ふう」


 紅茶を飲んでリフレッシュ。

 ちなみに味はすごく美味しかった。

 ……素材が若干きになるけど。


「さあ、続きだ」


 俺は気を取り直し、語りかけを続行する。


 ヴ……ン!


 その思いが通じたのか、【ブラックホール】の──黒い魔方陣が鳴動し、紋様の輝きが増した。


 紋様のデザインは、正方形を互い違いに重ね合わせたような感じで、中央には八角の星が刻まれている。


 その星の中心部には同心円があり、それはどこか人間の瞳を思わせた。

 まるで俺を見ているような。

 俺を見透かしているような、そんな瞳。


「スキルはなかなか応えてくれませんね」


 フレアが話しかけてきた。


「紋様が輝きを増しているのは、ある程度まであなたを──王を認めている証。ですが、スキルを使いこなすには、『その先』へ行く必要があります」

「その先……?」


 たずねた瞬間だった。




 ──ふいに、世界が揺れた──




「これは──」


 もしかして、スキルが俺の語らいになんらかのリアクションを起こしてくれたのか。


「いえ、違います!」


 フレアが叫ぶ。

 切迫した声で。


「逃げてください、王よ!」

「逃げる……?」


 俺がたずねた次の瞬間、爆光があたり一面で弾けた。


「あれ? どこだろ、ここは?」

「おいおい、さっきまで城の中にいたはずだぜ……?」


 前方から声が響く。


 中年らしき男の声。

 そしてまだ若い男の声。


 光の向こうから歩いてきたのは、二人の人物だった。


 一人は飄々とした雰囲気の中年男。

 以前にも一度会ったことがある。

 帝国の改造兵士──『超魔戦刃(イクシードソード)』のラグディアだ。


 もう一人は初めて見る顔だった。

 金髪に浅黒い肌をした、野性的な青年。

 全身甲冑を着た黒騎士だった。


「まさか、こんな形で出会えるとはな──」


 黒騎士の青年が俺を見てハッとした顔になった。

 口元に浮かぶ、喜びの笑み。


「俺が目指す『最強』──その具現者。マグナ・クラウド」

「……俺を知っているのか?」

「ああ」


 うなずいた黒騎士はニヤリと笑みを深めた。


「俺はルネ・ラーシェル。いずれ最強の魔族になる男だ。覚えておけ」

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