6 今、真の勇者の道へ2
アイラが決死の覚悟で放った雷撃は、しかし二体の超魔戦刃の魔剣によってあっさり吹き散らされる。
「これでも……通用しないの」
呆然とうめく。
心のありようで出力が変わる奇蹟兵装にこれだけの覚悟を乗せてなお──彼らには届かない。
まるで、届かない。
「見上げた決意だねぇ。まあ、言葉面だけは」
「勇者など、権威をかさに着たり、強大な力を私利私欲に使う俗物ばかり──しょせんあなたの決意もポーズだけでしょう?」
嘲笑するランブルとラシーダ。
「……確かにそんな勇者がいることは知っているわ」
アイラは『アスカロン』を掲げた。
どれだけ打ちのめされても諦めない。
諦めずに戦う友と──エルザとともに戦った記憶を思い起こす。
(そうだ、あたしも──)
細剣の刀身からスパークが散った。
一人で敵わないなら、別の手立てだってある。
「だけど、そうじゃない者もいる。真の勇者と呼べる人たちを、あたしは知っている。だから、あたしも同じ道を行く! 胸を張って、勇者を名乗れるように!」
轟っ!
視界の端に、赤い炎が見えた。
巨大な火柱。
あれは、キーラが放った『レーヴァテイン』のものだ。
先ほど、アイコンタクトすらせずに交わした作戦──その合図だった。
(チャージは終わったみたいね)
アイラはあらためて二体を見据える。
ここで捨て駒になる覚悟さえ決めていたが、勝機が出てきた。
あとは、仕上げを残すのみ。
「スキル威力増幅──【雷撃乱舞・紅花】!」
アイラは奇蹟兵装から稲妻を放った。
「同じ攻撃を何度繰り返すのかねぇ」
「無駄ですわよ」
「いいえ、今度の攻撃は同じじゃない──」
稲妻の軌道が、途中で変わった。
二体へ向かうコースから、まっすぐ上空へと。
空高く、稲妻が弾ける。
刹那。
周囲を、閃光が満たした。
「これは──!?」
四方から無数の魔力弾が飛んでくる。
さらにおびただしい数の矢も。
同時に、アイラが第二撃を放つ。
「いくらその剣が強大でも、魔法戦団の精鋭たちがたっぷりチャージした魔力弾をすべて凌ぎきれるかしら?」
さらにアイラの雷撃と矢も同時に襲いかかるのだ。
単純な物量で相手の魔剣の迎撃能力を超過させる──。
いわゆる飽和攻撃だった。
「魔族兵、私たちを守りなさい!」
「だ、だめ、間に合わな──」
二体は魔剣を振り回し、無数の魔力弾を、矢を、そしてアイラの雷撃を切り払う。
だが、斬り散らしきれない攻撃が次々にランブルとラシーダに着弾し──。
すさまじい大爆発が二体を吹き飛ばした。
──相手が四天聖剣のセルジュなら相手も警戒して『いざとなれば魔族兵の援護を受ける』という前提で戦うだろう。
しかし、それより数段戦闘力が劣るアイラが相手なら、彼らも気を抜く。
魔族兵の援護が必要な状況など想定していないはずだ。
アイラが打ちのめされても打ちのめされても立ち向かっていったおかげで、彼らの思考をそう誘導できた。
最初からすべてを意図していたわけではなく、無我夢中で戦っていった結果の話ではあるが──。
こちらの集中攻撃に対し、超魔戦刃たちは魔族兵の援護を受けるタイミングを逸した。
「やって……くれたねぇ……」
「くっ、不覚ですわ……」
爆光が収まると、そこには傷だらけの二体の姿があった。
形勢は完全に逆転だ。
「姉さん!」
アイラの元にキーラが駆け寄ってくる。
「ありがとう、キーラ。あたしの考えを読み取ってくれて」
「双子なんだから、これくらいはね」
爽やかに笑うキーラ。
「さ、後は仕上げよ。あなたとあたしで」
「だね」
ダメージを負った今のランブルとラシーダなら、アイラとキーラのコンビで戦い、魔法戦団やシルカの弓兵団などの援護を受ければ、押し切れる。
「……大したものですね。あなたは。いえ、あなた方は」
セルジュが背後で微笑んでいた。
「圧倒的な戦力差にもくじけず、諦めず──最後まで折れない意志で戦い続けた。そして勝機を見出した」
「いえ、あたしは……」
本当は、何度も折れかけた。
怖かったし、逃げ出したいとも思った。
作戦が上手くいったのも、半ば以上偶然や運に助けられただけ。
「そんなに強くありません。力も、心も」
「強さとは、自身の弱さと向き合うことから始まります。あなたは自分自身を認め、受け入れ、そのうえで前へ踏み出した──それこそが勇者にとってもっとも大切な資質──」
セルジュの笑みが濃くなった。
「あなたこそ、真の勇者です」
主人公置いてけぼりが続きましたが、次回からマグナ視点に戻ります。





