4 決意のアイラ
「おやめください、アイラさん! 犠牲になるつもりですか……?」
セルジュが悲痛な表情で叫ぶ。
アイラは微笑み交じりに首を振った。
「あたしはそんなに殊勝じゃありません。あんな奴ら、あたし一人で十分だという自信があるだけです」
もちろん、強がりだ。
四天聖剣のセルジュでさえ勝てなかった超魔戦刃と強化された魔族兵団の連携に、アイラが勝てるはずがない。
だけど、彼女は振り返らなかった。
まっすぐに進み出る。
「姉さん!」
背後から、キーラの声がした。
ようやく追い付いてきたのだろう。
それでもアイラは止まらない。
「あなたはあなたの役目を果たして、キーラ」
「姉さん……?」
「あたしが奴らを食い止めている間に、逃げられる者は逃がして」
「──でも」
「あたしの考えていることくらい、分かるでしょ? 双子なんだから」
アイラはさらに進む。
アイコンタクトすら必要ない。
それに余計な仕草は、敵に『狙い』を感づかれる恐れがある。
だから、前方にたたずむ二体の敵と、その背後の魔族兵団だけを見据えていた。
「……分かった」
キーラはうなずき、去っていった。
それで、いい。
アイラは超魔戦刃たちの前に正対した。
「次は君が相手をする気か」
「無駄に命を落とすだけですわよ」
ランブルとラシーダが嘲笑した。
先ほどのわずかな攻防だけで、アイラでは彼らの敵にはならないことを悟っているのだろう。
「あたしは──最強の勇者になりたかった。どんなに強い魔族が襲ってきても、人々を守ることができる勇者に」
手にした細剣──『アスカロン』が帯電し、まばゆく輝く。
「確かにあなたたちは強い。あたしの力では敵わない。届かない──」
刀身からほとばしる稲妻が、輝きを増した。
彼女の意志の高まりに応じて、さらに──。
「だけど、前へ進むという意思は捨てない。あたしは諦めない。現時点のあたしでは届かないなら──」
稲妻の輝きが最大限にまで高まり、弾けた。
刀身だけでなく、アイラの全身からスパークがほとばしる。
「今ここで、強くなる! 今の自分を超えてみせる!」
雷をまとった少女勇者は凛と叫んだ。
「殊勝な心がけだねぇ」
「ですが、心ひとつで打開できるほど甘くありませんわよ。戦いは」
「いいえ、打開できるわ。だって、あたしたち勇者が使う武器は──」
アイラが疾走した。
「『奇蹟兵装』は、心の力を強さへと変換する武器──あたしの心が高まれば、『アスカロン』は応えてくれる! より強い力で!」
超魔戦刃たちに向かって『アスカロン』を突き出す。
「スキル【雷撃乱舞】!」
剣先からほとばしる紫色の稲妻。
「その程度の雷撃では、我らの剣の雷撃には届かないねぇ」
「蹴散らしてあげますわ」
ランブルとラシーダが白い魔剣から稲妻を放つ。
アイラの稲妻はあっさりと吹き散らされ──、
「あたしは折れない! くじけない!」
なおもひるまない彼女の闘志に応え、奇蹟兵装が激しく鳴動する。
「スキル威力増幅──【雷撃乱舞・紅花】!」
刹那、紫から赤へと変化したアイラの稲妻が、魔剣の稲妻を押し返した。
「威力が急激に上がった──!?」
「これは──!?」
そのまま押し切り、突き進んだ赤い稲妻が超魔戦刃たちを襲う。
「やらせるか!」
二体の背後から無数の魔力弾が飛来し、アイラの稲妻を相殺した。
魔族兵たちの攻撃だ。
「ふうっ、少しだけ驚かされたねぇ」
ランブルがポケットからハンカチを取り出し、額の汗をぬぐう。
「正直、危なかったですわ」
その隣でラシーダが青ざめた顔をしていた。
「察するところ、彼女は第二か第三階位程度の勇者でしょう。けれど、今の一撃は──四天聖剣級に近い威力でした」
「不思議なものだねぇ。心の高まりが、これほど戦闘力に影響を与えるのかねぇ」
「勇者……やはり侮れないかもしれませんわね」
「うむ」
うなずき合った二体の顔つきが変わった。
アイラを見下す雰囲気がなくなり、隙も消える。
先ほどの攻防で完全に慢心がなくなったのだろう。
「……ここからが、本当の戦いね」
アイラは、ふうっ、と息を吐き出し、細剣を構え直した。





