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3 真の特性

「さあ、見せてあげようかねぇ」

「この剣の、真の力──とくとご覧あれ」


 二体の超魔戦刃が純白の魔剣を掲げる。


 刹那、アイラの全身に悪寒が走り抜けた。


「いけない──」


 彼女は反射的に駆けだした。


「姉さん、戻って!」


 キーラが叫ぶ。


 分かっているのだ。

 ここを離れるなと命じられたことは。


 分かっているのだ。

 自分が行っても足手まといになるかもしれないことも。


 だが──彼女の中の何かが告げていた。


 今行かなければ、取り返しのつかないことになると。


 セルジュが、殺される──と。


「無駄なことを。何度やっても、同じことです」


 そのセルジュはまったく動じていないようだ。


 決して慢心からの言葉ではない。

 彼我の戦力を冷静に見極めたうえでの分析なのだろう。


 実際、アイラもそう思う。


 セルジュと超魔戦刃たちの戦いは、基本的に中距離での撃ち合い。

 そして威力でも手数でも、セルジュが超魔戦刃たちを圧倒的に上回っていた。


 敵の勝機は、ゼロと言っていい。


「なのに、どうして──」


 この異様なまでの胸騒ぎは、なんなのか。


 アイラは息を切らし、走った。

 走り続けた。


「『白光の魔王剣(ネガ・ラーディス)』──封印解除(リミッターオフ)


 ランブルとラシーダの声が唱和する。

 掲げた魔剣から天に向かって黒紫色の光が伸びた。


「【魔軍強化】!」


 その光が無数の流星のように降り注ぐ。


 彼らの背後に陣取る魔族兵たちの頭上に。


「何を……!?」


 セルジュが戸惑いの声を上げた。

 次の瞬間、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 魔族兵がいっせいに叫んだ。


「みなぎるうううううううううううううううううううううううううううううっ!」

「っ……!」


 アイラはハッと顔をこわばらせた。


 感じる。

 魔族兵たちから膨大な魔力が立ち上るのを。


「『バレット』!」


 彼らがいっせいに魔力弾を放った。


「下級魔族が何千発撃ってこようと──」


 すかさず迎撃の矢を放つセルジュ。

 だが、


「何……っ!?」


 彼は初めて狼狽の声を上げた。


 超魔戦刃たちの魔剣の稲妻すら消し飛ばした『ラファエル』の矢が──。


 下級魔族たちの魔力弾によって、あっさり吹き散らされる!


「わたくしの矢群を、下級魔族の魔力弾が上回った……そんな!?」


 爆光とともに、セルジュは大きく吹き飛ばされた。


「セルジュ様が撃ち負けた──」


 アイラは呆然とその光景を見つめる。

 魔族兵団は、スケルトンやダークブレイダーなどの下級魔族で構成されている。


 それが、どうやら中級並か、それ以上にパワーアップしている。


 おそらく、あの魔剣は魔族の能力値をおおむねワンランクほどアップさせるのではないだろうか。


 だとすれば──下級魔族主体の兵団が、中級か、それ以上の恐るべき集団へとなり替わる。


 一体一体ならセルジュはもちろん、アイラとてなんなく倒せる相手とはいえ、数の力はやはり恐ろしい。


 アイラは全速力で駆けた。


「ご無事ですか、セルジュ様!」

「アイラさん……」


 呆然とした顔のセルジュ。


「申し訳ありません。ご命令に背きました」

「……いえ、謝るのはわたくしの方です。見立てが甘かったようで……このざまです」


 セルジュはすまなさそうに頭を下げた。


「ですが、せめてあなた方や兵たちだけでも逃がさなくては、ね」

「セルジュ様は、これから先の魔王軍との戦いで必要な人材です。ですから、ここは──」


 構えた『アスカロン』から激しい稲妻がほとばしる。


「あたしが食い止めます」


 決死の、覚悟だった。

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