2 四天聖剣VS白光の魔王剣
「アイラさん、キーラさん、あなたたちは絶対に手出しをしないでください」
セルジュの表情は険しい。
「お言葉ですが、セルジュ様。あたしやキーラは第二階位の勇者です。四天聖剣には及ばずとも、ともに戦うことはできるはず──」
「いいえ、無理です」
抗弁するアイラに、セルジュはそっけなく告げた。
「……お願いします」
だが、そのそっけなさは冷淡さとは違う。
案じているのだ。
アイラやキーラのことを。
やはり、それほどの敵──ということか。
「……分かりました。まずは援護します」
「僕も、同じく」
アイラに続き、キーラもうなずいた。
「万が一のときには、勇者ギルドへの連絡をお願いしますね」
セルジュはつばの広い帽子をくいっと上げ、進み出た。
X字型をした独特のフォルムの弓を構える。
神が人間に与えた聖なる武具──『奇蹟兵装』の中で最強を誇る一つ。
熾天使級奇蹟兵装『ラファエル』だ。
「『風』の四天聖剣、セルジュ・ティノドーラです」
セルジュが凛と告げた。
「ほう、人類最強戦力『四天聖剣』か」
「今までの私たちなら勝てなかったかもしれません。ですが、この剣を得た今なら──」
「むしろ、この剣の『真の特性』を使うまでもなく勝ててしまいそうだねぇ」
「違いありませんわ」
ランブルとラシーダが自信ありげに顔を見合わせ、笑う。
彼我の距離は二十メートルほど。
大気が今にも爆裂しそうなほどの、強烈な緊張感が張り詰めていた。
──先に仕掛けたのは、超魔戦刃たちだった。
魔剣を掲げて叫ぶ。
「【雷皇魔帝剣】!」
二本の剣から純白の稲妻がほとばしった。
「【最大装弾精密連射】」
すかさずセルジュは迎撃の矢を放つ。
奇蹟兵装『ラファエル』の最大装弾数である777本の矢を、いっせいに。
中空を突き進む白い稲妻と光の矢群。
ひときわまばゆい閃光が弾けた。
白い稲妻は、セルジュの矢群によって跡形もなく消し飛ぶ。
「ほう……模造品とはいえ、魔王の剣の力を相殺するとはねぇ」
「さすがは人類最強の一人、といったところですか」
うなる超魔戦刃たち。
「だが、なぜ君のような者がこの戦場に出てきたのかねぇ?」
ランブルが不快げな表情を浮かべた。
「勇者が世俗の争いに加担していいのかねぇ」
「あなた方の敵はあくまでも魔族でしょう? 国家間の戦争になぜ手を出すのですか?」
と、ラシーダ。
「勇者にも事情があるのですよ。色々と……ね」
セルジュは飄々とした口調で答えた。
「大局を見れば──この戦いは、勇者としてのそれです。皇帝の手駒にすぎないあなた方には決して分からないことでしょうけれど」
言って、セルジュがふたたび弓を構える。
「わたくしはギルドの上層部を信じます。思うところもありますが……彼らは結局のところ、魔から人類を守ることを第一に考えておられる。たとえ過程がどうあろうと、最終的に──彼らの判断が世界を救う、と」
「……ふん、どうかねぇ」
「世界を救うのは勇者ギルドなどではなく、我らが皇帝陛下ですわ」
二体の超魔戦刃がうそぶく。
「あなた方は侵略者ですよ。どこまで行っても……ね」
「ならば、排除してみるかねぇ? 力でもって」
「ですが、そう簡単にはいきませんことよ」
「どれだけの困難であろうと、どれほどの強敵であろうと、わたくしの矢はすべてを射抜き、打ち倒します。四天聖剣の名にかけて、必ず──」
セルジュの弓から無数の光矢が放たれる。
その数は、先ほどと同じく777本。
避けようのない物量攻撃が、二体の超魔戦刃を射抜いた。
「ぐっ……うううっ……」
「きゃああっ……」
悲鳴を上げて後退するランブルとラシーダ。
「おのれ──」
と、純白の剣を手に、反撃に出ようとする。
「させません!」
それを許すほどセルジュは甘くない。
文字通り、矢継ぎ早に矢を放ち、二体が体勢を整える隙さえも与えない。
やがて体中を光の矢に貫かれ、ランブルとラシーダは倒れ伏した。
「つ、強い──強すぎる……!」
その戦いぶりを、アイラは呆然と見つめる。
以前にリオネスの戦いを見たときと同じ感覚だった。
自分がどれだけ修業を積んでも、彼らの領域には到底たどり着けない。
そんな絶望感にも似た畏怖を──。
「……ふむ、思った以上ですねぇ」
「ならば、こちらもアレを使わせていただきますわね」
二体の超魔戦刃がゆっくりと立ち上がる。
手にした純白の剣から黒紫色のオーラが立ち上った。
「『白光の魔王剣』の、真の特性を──」





