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1 国境戦線

 現在、魔法王国ラエルギアの国境地帯にヴェルフ帝国軍が攻めこんでいる。


 それを迎撃するために、勇者アイラ・ルセラは双子の弟キーラや四天聖剣セルジュ・ティノドーラとともにやって来た。


 そこで目にしたのは──ラエルギアの魔法戦団や同盟軍であるシルカの兵団の前に立ちはだかる、帝国と魔族の兵団。

 そして、その最前列に立つ、二人の兵士だった。


「弱いねぇ……実に弱い、君たち人間は」


 黒い夜会服を着た中年紳士が笑う。


「私の一振りで消えてくださいませ」


 東部大陸風の着物を身に着けた若い美女がほほ笑んだ。


 ともに、ただの人間ではない。


 超魔戦刃(イクシードソード)

 ヴェルフ皇帝が作り上げた、究極ともいえる魔導生体兵器である。


「超魔戦刃、試作四号ランブルだ」

「同じく試作七号ラシーダですわ」


 名乗った二人が、剣を掲げた。


 真珠を思わせる純白の刀身。

 金の装飾がされた美しい(つば)と柄。


「『白光の魔王剣(ネガ・ラーディス)』──起動」


 ヴ……ン!

 剣全体がうなるような音を立てて鳴動した。


「【雷皇魔帝剣(ライトニングラグナ)】」


 呪言とともに放たれる、純白の稲妻──。

 それは四方に広がり、魔法戦団が生み出した障壁をやすやすと打ち破り、数百の兵士を一撃で薙ぎ払う。


「ぐああああああああああああああっ……!」


 戦場に、無数の苦鳴と悲鳴が響き渡った。


「なんて威力なの──」


 アイラが呆然とうめく。

 猛烈な爆風が、肩のところで切りそろえた金髪を激しくなびかせた。


 おなじ雷属性である彼女の奇蹟兵装『アスカロン』と比べても、軽く数倍以上の威力だろう。

 あるいは、最強の熾天使(セラフ)級奇蹟兵装に匹敵する攻撃力かもしれない。


「超魔戦刃は確かに強い。だけど、ここまでデタラメな火力は持っていなかったはず……!」


 隣でキーラがうめいた。


「どうやら新兵器のようですね。彼らの持つ剣から、すさまじい魔力を感じます」


 告げたのはセルジュだ。


「これ以上は、やらせない!」


 アイラはたまりかねて飛び出した。


 戦術的な視点でいえば、未知の敵を相手に、もう少し力を見極めるべきなのかもしれない。


 アイラは、自軍の中では最上位戦力の一つ。

 軽々しく行動すべきではない。


「だけど一方的にやられている味方を見て──仲間を見て、平気でいられるわけがない!」


 腰の細剣を抜き放ち、叫ぶ。


「奇蹟兵装アスカロン──【雷襲(らいしゅう)の陣】!」


 その刀身から無数の稲妻がほとばしった。

 並の魔族なら触れただけで爆散する威力の雷が、二体に向かって突き進み、


 ばぢぃっ!


 彼らの持つ純白の魔剣の一振りで、跡形もなく消し飛ばされる。


「ん? 今、何かしましたか」

「もしかして攻撃のつもりだった?」


 二体はアイラを見て、肩をすくめた。

 口元に浮かぶ嘲笑が、彼女のプライドを刺激する。


「馬鹿にしないでよね──」


 勝ち気な性格をむき出しに、アイラが第二撃を放とうと細剣を掲げた。


「待ってください、アイラさん」


 背後から制止の声がかかる。


「わたくしが出ます」


 セルジュが進み出た。


「いえ、まずはあたしが──」

「殺されますよ……!」


 抗弁したアイラに、セルジュが珍しく厳しい口調で言った。


「あなたたちの腕では。確実に」


 普段の温和な雰囲気が薄れている。


 二体の強さが、セルジュから余裕をなくしている──?

 アイラは驚いて『風』の四天聖剣を見つめる。


「アイラさん、キーラさん、あなたたちは援護に徹してください。決して前に出ないように」

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