12 発現
「……ほう。あれが『運命を超越せし者』の片鱗を宿す者、か」
虚空から声が響いた。
同時に、皇帝の側に金色のローブをまとった人影が出現する。
魔界の王エストラーム。
正確には、その意志の一部を投影した映像だ。
いわば、通信端末といったところか。
「君から報告は受けていたが、じっくり見るのは初めてだ。実に興味深い」
魔王の端末は、皇帝が中空に作り出した映像を見つめ、告げた。
「はっ。あの魔族との模擬戦を繰り返し、飛躍的に力を増しています」
答える皇帝。
「ルネ・ラーシェル。あの者にも私は期待している。まるで前魔王ヴリゼーラ陛下を彷彿とさせる剣腕だ。無論、現時点でヴリゼーラ陛下と彼の間には天地の差があるが……成長を続けていけば、いずれは──」
「随分と高く買ってらっしゃるのですね。あの者は下級魔族では?」
「然り。だが、ごくまれに……下級や中級魔族の中に、その能力限界値を突破する者が現れる」
説明する魔王。
「たとえば私の師であり、最強最古の魔族の一人──ジュダ・ルギスもその類だ。元は下級魔族『闇の魔術師』でありながら、歴代魔王を凌ぐほどの魔力を持っている」
「魔王様の、師が……」
「気まぐれなお方ゆえ、我が軍に加わってもらうことは叶わなかったが……な」
魔王が苦笑する。
「つまりあのルネも限界突破型の魔族だと?」
「可能性はある」
エストラームが言った。
「だが、それだけで勝てるほどマグナ・クラウドの『ブラックホール』は甘くないはずだ。かの者こそ真の『運命を超越せし者』。片鱗を見せた程度のラグディアでは、いくら鍛えても歯が立つまい」
「確かにラグディアだけでは……無理でしょうな」
皇帝がうなる。
「ですが、ご安心を。陛下にお教えいただいたあの術式を併用すれば、『ブラックホール』に立ち向かうことも不可能ではないかと」
「上手くいきそうか?」
「少しずつですが……完成に近づいております」
たずねる魔王に皇帝は恭しく答えた。
「『空間操作』の力を持つ勇者、か」
「御意。かの者の力とラグディアのスキルを組み合わせ、マグナ・クラウドを制して御覧に入れましょう」
皇帝は爛々と目を輝かせる。
「さすれば、もはや我が帝国を止められる戦力はこの世からいなくなる──」
そのとき、周囲をまばゆい閃光が満たした。
「これは──」
「まさか……!?」
皇帝が、そして魔王までもが驚きの声を上げる。
映像の中で、ルネと模擬戦を繰り広げているラグディアの全身が発光していた。
いや、正確には光輝くオーラに包まれているのだ。
ラグディアの背から伸びる触手がすべて砕け散る。
「くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ラグディアが、吠える。
すさまじいエネルギーがほとばしっているのが分かる。
「空間歪曲──いや、因果そのものが歪みを発している……!」
皇帝は息を飲んだ。
この世のすべての存在は因果律──運命に支配される。
人はもちろん、神や魔でさえも。
だが、その理から脱し、超越する力の持ち主がまれに誕生する。
たとえば、あのマグナ・クラウドのような。
「ついに発現したか」
皇帝の口元に笑みが広がる。
「『触手』スキルが規定階層まで到達したことで発現するEXスキル……運命をも超越するスキル……!」
その名は──。
次回から第12章『乱戦突入編』になります。明日更新予定です。





