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10 皇帝と魔王の策動

 ザイラス流剣術奥義、雷閃龍牙刃(らいせんりゅうがじん)──。


 それはおそらく何百何千という剣閃だったのだろう。


 合体ラウルはリオネスの連続斬撃によって、まさしく粉微塵になるまで切り裂かれ──。

 淡雪に似た無数の光の粒子と化して、消滅した。


「す、すごい……」


 キャロルは隣のエルザとともに呆然とその光景を見つめる。


「いや、お前たちこそ見事だった。エルザ・クゥエル、キャロル・キール」


 リオネスが振り返って告げる。

 初めて見せる、かすかな微笑みとともに。


「それに冒険者たちよ。お前たち全員の助力があったからこそ、奴らを倒せた。礼を言う」

「どういたしましてなのです」

「ふふ、私だって少しはやるでしょ」


 キャロルとエルザが見つめ合い、にっこり笑う。


「ふん、あんたもすごかったぜ、リオネスの旦那」

「っていうか、やっとデレたね。ツンデレさんだねっ」


 クルーガーが親指を立ててうなずき、レイアがはしゃぐ。


「つんでれ……? なんだ、それは?」


 戸惑ったようなリオネス。

 そんな様子を見て、キャロルはクスリと微笑んだ。




 その後、これからの方針を決めることになった。


「しかし奴らが待ち伏せしていたということは、俺たちの潜入はバレてるってことだよな」


 腕組みをしてつぶやくクルーガー。


「んー、どうしよっか?」


 レイアがたずねた。


「……基本的な方針は継続すべきだと考える。たとえ我らの行動が皇帝に感知されていても、正面切って突撃するわけにもいくまい」


 と、リオネス。


「隠蔽魔法も引き続き使ってくれ。他に帝国の目から逃れて潜入できるような魔法があれば、試してほしい」

「他の隠蔽手段か……」


 クルーガーがうなる。


「マグナさんがいてくれれば……」


 キャロルは思わずといった感じでつぶやいた。


「そうよね。彼がいれば二手に分かれて、多少なりとも帝国の目をごまかすとか……他の手段も使えるもの」


 うなずくエルザ。


「早く戻ってきてほしいのです、マグナさん──」


 キャロルはエルザと顔を見合わせ、ともにため息をついた。


    ※


 ヴェルフ帝国、皇城の最奥。


超魔戦刃(イクシードソード)ラウルとラーバスが……殺されたか」


 皇帝は苦々しい顔でうめいた。


 超魔戦刃は全部で八体。

 先の戦闘ですでに三体を失い、今また二体を撃破された。


 新たな力を得るために温存しているラグディアを除き、残るは二体。

 その二体は少し前、ラエルギアやシルカとの最前線に送り出したところだった。


 報告によれば、彼らの戦いぶりはまさに鬼神のごとし。

 敵国を寄せつけない強さを発揮しているようだが──。


「油断は、できんな」


 超魔戦刃は皇帝の超絶的な魔導技術と魔力をもってしても製造に数か月はかかる。

 これ以上失うことは避けたい。


 とはいえ、勇者ベアトリーチェを奪い返されるわけにはいかないし、ラエルギアやシルカとの戦線も今後の世界侵攻を見据えると絶対に落とせない。

 ここが、正念場である。

 と、


「私が与えた魔導技術を破る者が現れるとは」


 どこからともなく声が響いた。


「──エストラーム陛下」


 皇帝は慌ててその場に跪き、頭を下げた。


「陛下より賜った魔導技術──そのうちの一つ、融合合体機能(フュージョンシステム)を組みこんだ超魔戦刃が倒された模様でございます」


 と、報告する。


「ふむ……人間の中にも恐るべき使い手がいるようだ。並の戦士はもちろん、勇者の中で最強と称される四天聖剣とすら渡り合えるだけの技術だと踏んでいたのだが」


 魔王がうなった。


「私の見立てが甘かったか、あるいは彼らが予想以上に力をつけているのか。人間はか弱き存在ではあるが、その成長速度は侮れぬからな」

「陛下……」

「そう、我が弟子である君のように」

「──もったいなきお言葉」


 皇帝はふたたび深々と頭を下げた。


「ですが、ご安心を。陛下より賜ったもう一つの魔導技術──『白光の魔王剣(ネガ・ラーディス)』を装備させた二体の超魔戦刃は、ラエルギアやシルカとの戦線において猛威を振るっております。向かうところ敵なしといった様子」

「ほう」


 魔王の声は満足げだった。


「歴代魔王に受け継がれし宝剣『煉獄魔王剣(ラーディス)』──その模造品であり、限定的ではあるが魔王剣と同等の機能を備えた『白光の魔王剣』は、人間に打ち破れる代物ではあるまい。たとえ四天聖剣やSSSランク冒険者とやらが相手でも、な」

「我ら帝国の攻勢はここからです。どうか心安んじて見守っていただきたく存じます」


 半ば自分に言い聞かせるように告げる、皇帝。


 本心を言えば、不安はある。

 だがそれを表に出せば、魔王から授かった魔導技術への不満や不信と受け取られるかもしれない。


「うむ。人間界の覇権は君たちの国に任せる。恐怖と絶望が支配する帝国で世界を総べてみせよ。そのときこそ、この世界から人間どもの神への信仰が消え失せるとき。そして、そのときこそ……くくく」


 そんな皇帝の内心を知ってか知らずか、魔王が哄笑する。


「我が魔軍が人間界の君臨し、神の世界をも蹂躙する」

「すべては、魔王様の御心のままに」

「君には期待している、ヴェルフ皇帝よ。この世界の覇権を握った暁には──我が右腕として、魔軍長をも凌ぐ最高の地位を与えよう。君は人間でありながら、私に次ぐ地位を持つ魔族となろう」

「ありがたき……お言葉!」


 皇帝は全身を震わせ、うなずいた。


 体中の血がたぎるようだった。

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