9 勇者と冒険者4
「──よくやったぞ、エルザ・クゥエル」
リオネスが進み出る。
「お前が──いや、お前たちが食い止めてくれたおかげで、そいつの弱点を分析できた」
構えた長剣が大剣へと変形し、刃に青い輝きをまとう。
「ここから先は私がやろう。お前たちに、そして冒険者たちの戦いぶりに報いるために──そして四天聖剣の誇りにかけて」
輝く切っ先を、合体ラウルへと向けるリオネス。
「奴は、私が倒す」
「倒す? この俺を?」
合体ラウルが嘲笑する。
「確かに、そいつの盾は硬い。簡単には突破できない……そいつは認める。だが、いくら防御しても──それだけで、この俺を倒すことなどできまい? 違うか」
「防御は彼女たちの仕事。私の仕事は──」
リオネスが剣を構え直した。
「お前を斬ることだ」
「リオネスさん……?」
「勝てる見込みがあるのです?」
「──ああ」
エルザとキャロルにうなずくリオネス。
「この俺は地上最強の兵士! 弱点なんてものがあるなら攻めてこいよ! まあ、単なるハッタリだろうが」
「言われずとも」
リオネスが突進した。
左右へのフェイントを交えつつの、刺突。
「ザイラス流剣術、基本動作『雷襲』──」
つぶやきとともに、鋭い切っ先が合体ラウルへと迫る。
「いくらフェイントをかけようが無駄だ! お前の動きを全部見た後で動いても、俺の方が速い!」
嘲笑とともに、雷撃のような刺突を避ける合体ラウル。
「俺にフェイントは効かないんだよ!」
「ならばこれで──」
リオネスの動きが一転して緩やかなものに変わった。
「──ザイラス流剣術、基本動作『水瞬』」
緩慢な動きから一転、突然スピードを上げて斬りかかる。
「無駄だ、無駄無駄」
すさまじいまでの緩急にも、やはり合体ラウルは対応してみせる。
反射速度の次元が、違う。
「ふん、四天聖剣──お前は超一流の剣士なんだろう。そこは認めてやる。だが、この俺の反射速度なら余裕で対応できるんだよ! どれだけ技をこらしても無駄ってことだ!」
「確かに、お前の基本スペックは驚異的だ。パワーもスピードも反応も。だが」
高速攻撃も緩急をつけた攻めもまるで通用しないにもかかわらず、リオネスの態度には余裕があった。
「戦いにおいては素人だ。先ほどからずっと違和感を覚えていた。お前は──急激にパワーアップした身体スペックに、お前自身の反応がついていけない」
「だからどうした!」
吠えて拳を繰り出す合体ラウル。
その一撃を、リオネスは紙一重で避け、
「それがお前の敗因だ」
ふたたび加速する。
「がっ!?」
そして──青く輝く斬撃が、初めて合体ラウルを捕らえた。
「こ、こいつ……っ!?」
胸元を浅く切り裂かれ、驚いたように後退する超魔戦刃。
「どうした? お前の方がパワーもスピードも上──だが、動きの癖はすでに覚えた。先ほどのエルザたちの防御の間に、な」
「全部見切ったっていうのかよ、まさか──」
「お前の動きは素直すぎる。圧倒的なパワーやスピードにお前自身が振り回され、単調な攻撃を繰り出すことしかできない。戦いの駆け引きを知らない。剣術や体術の基礎すら知らない」
リオネスが打ちかかる。
合体ラウルが迎撃する。
それを避けたリオネスが、カウンター気味に斬撃を叩きこんだ。
今度は合体ラウルの脇腹が切り裂かれる。
「な、なんでだ……かわせねぇ……!?」
「今言ったとおりだ。お前は戦いの基礎ができていない。動きも常に直線的。だからこそ動きを簡単に読める。そして、先が読めれば──どれだけパワーやスピードに優れていても対応するすべはある」
「く、くそっ!」
合体ラウルは苛立ったように蹴りを繰り出した。
それもリオネスはあっさりと避け、カウンターの斬撃をみたび浴びせる。
「あ、がっ!?」
「攻撃直後には一瞬の硬直状態が発生する。お前とて例外ではない」
リオネスが剣を振り上げる。
「お前の身体能力なら、限りなくゼロに近い時間の硬直──だがゼロではない」
よたび、勇者の剣が超魔戦刃を切り裂いた。
「て、てめぇ……!」
「そしてゼロでなければ、その一瞬に私の剣を打ちこめる」
五度、六度、七度、八度──。
リオネスが合体ラウルに斬りこんでいく。
「ふっざけるなぁぁぁぁっ! この俺が地上最強だ! 皇帝陛下に新たな装備をいただき、他の超魔戦刃をぶっちぎりで超越した、この俺こそがぁぁぁっ!」
「簡単に逆上する。それでは戦場で長生きできんぞ」
拳を、蹴りを、手刀を、体当たりを、頭突きを──。
合体ラウルの怒りの連撃をやすやすと避け、リオネスが大剣を旋回させた。
「終わりだ──ザイラス流剣術奥義『雷閃龍牙刃』」
無数の青く輝く軌跡は、リオネスが目にも止まらぬ速さで繰り出した斬撃群。
「がっ……あぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!」
合体ラウルはその輝きに飲みこまれるように──バラバラに切り裂かれた。
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