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8 勇者と冒険者3

「エルザさん、危険なのです!」

「戦闘に危険は付き物でしょ。それにパーティの前面に立って、敵の攻撃から仲間を守るのは盾使い(シールダー)の基本だし」


 キャロルの言葉にエルザは不敵な笑みを返した。

 それから表情をフッと和らげ、


「心配してくれてありがと」

「エルザさん……」

「本当に凌げるのか?」


 リオネスがたずねた。


「お前が持っているのは第四階位の奇蹟兵装『アイギス』だな。防御能力だけなら奇蹟兵装の中でもトップクラス──ただし、それは兵装の性能を引き出せれば、の話だ」


 勇者の武具『奇蹟兵装』は持ち主の精神力によって起動し、精神の強さによって出力や効果が上下する。


 要はエルザの精神力(こころ)が強ければ強いほど、『アイギス』はより強固な防御力を発揮するということだ。


 そのあたりのことはキャロルも以前にエルザから聞いたことがある。


 そして、エルザは──心が弱いわけでは決してないが、とにかく精神の好不調の波が激しいのだ。

 ノッているときは自分の能力以上のものを発揮することもあるが、逆に心が不調なら実力以下のものしか出せない。


 今のエルザは、果たしてどちらだろうか。


「おーっほっほっほ! この私を誰だと思っているの! エルザ・クゥエルの盾に防げないものんてないわ! 安心して後ろで見ていなさい!」


 ビキニアーマーの豊かな胸元を揺らしながら、絶好調の高笑いをするエルザ。


 だが、キャロルは見逃さなかった。


 彼女の顔がわずかに青ざめているのを。

 彼女の声がわずかに震えているのを。


 やはり──不安なのだ。


「エルザさん……」

「心配しないで、キャロル」


 キャロルが声をかけると、エルザはふふんと鼻を鳴らした。


「私だって役に立たなきゃ。あなたやマグナに出会うまでは最底辺の勇者だった私が、第四階位までランクアップして──先へ進むことができたの。これから先も、もっと──」


 その声音は、もう震えていない。


「だから、ここは私がやるの。いいえ、やらせてほしい」


 凛とした口調で宣言し、エルザが進み出た。

 八角形型の盾──『奇蹟兵装アイギス』を構える。


「なんだ、いきなり盾なんて出して? この俺の攻撃を防ごうっていうのか?」


 合体ラウルは嘲笑を浮かべた。


「勇者だろうが冒険者だろうが、防げねーよ! 今この状態の俺は──地上最強の戦士だ!」


 吠えて突進する超魔戦刃。


「奇蹟兵装アイギス──【輝きの盾】!」


 エルザは黄金に輝く八角形の盾をかざした。


 周囲にまばゆい輝きが広がり、場の全員を守る障壁と化す。

 合体ラウルが繰り出した拳は、その障壁に阻まれ、跳ね返された。


「……ほう。時限無敵防御か。一定時間、無敵の防御フィールドを張るタイプの奇蹟兵装──確かに厄介だ。しかし」


 ふんと鼻で笑い、合体ラウルがふたたび突進する。


「奇蹟兵装の原理は神の力の一部をこの世界に具現化し、力を発揮するというもの。対極にある魔の力なら対抗できる。いや、破ることも可能だ。こんなふうに!」


 超魔戦刃の全身から黒いオーラがたちのぼった。


融合合体(フュージョン)を果たした超魔戦刃の切り札──魔気烈破導(デモンオーラバースト)。魔の力を召喚し、それをまとって攻撃を繰り出す術式だ」


 拳や手刀、蹴り、体当たり、頭突き──嵐のような格闘連撃が、エルザの防御フィールドを襲った。


 すさまじい破壊エネルギーが連続して弾ける。

 周囲が激しく揺れる。


「ひえええ、す、すごいのです……!」


 キャロルは思わず息を飲んだ。

 まるで地震だった。


「アイギスの防御フィールドが……!」


 エルザがうめいた。


 周囲に展開されている黄金の結界に亀裂が走っていた。

 合体ラウルの言うとおり、魔の力を込めた攻撃が、聖なる障壁の防御力を上回り、破壊し始めているのか。


 このままでは破られてしまう──。


「まだよ!」


 エルザが叫んだ。


「耐えて、私の奇蹟兵装!」


 アイギスからあふれる輝きが、光量を増していく。


「もっと強く──もっと! すべてを守る力を、私に!」


 エルザが叫ぶ。


 自らを鼓舞するように。

 自らの意志を示すように。


「エルザさん──」


 キャロルの胸が熱くなる。


 彼女が戦っているのは、あるいは自分自身なのかもしれない。

 自分の弱さを乗り越え、自分の強さを磨き続ける。


 それがエルザ・クゥエルという勇者なのだと。

 見ていると、勇気が湧いてくる。


「そうだ、あたしも自分にできることを──やるのです!」


 キャロルの狐耳と尻尾が、ぴょこん、と跳ねた。


 体内の魔力を集中する。


「『治癒の輝き』!」


 呪言とともに、彼女の尾から鮮烈な光があふれた。


 その光が、エルザの盾が発する光に重なり──。


 防御フィールドは元の姿を取り戻す。


「修復した、だと……!?」


 合体ラウルが驚きの声を上げた。


 奇蹟兵装の展開していた光の盾は、すでに亀裂だらけだったのだが──それがキャロルの治癒術によって完全に元通りになったのだ。


「ありがと、キャロル! これならまだまだ防げるっ」


 エルザが叫ぶ。


 盾からあふれる輝きが、どこまでも光量を増していく。


「ちいっ! ならば何度でも破壊するまでだ!」


 合体ラウルの攻撃がふたたびフィールドに亀裂を走らせるが、その都度、キャロルが修復する。


 それはまさに、キャロルの治癒とエルザの防御の連携技──。

 名づけるなら、『無限再生防盾(リバイブリアクト)』とでもいったところか。


「くそっ、なんなんだよ、これ!? 壊しても壊してもキリがねぇ!」


 合体ラウルが初めて焦ったような声を上げた。

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