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5 地下遺跡

 帝国内に入って、三日が過ぎた。


 キャロルたちは地下道を進んでいる。


 ヴェルフ帝国の地下には、古代遺跡が点在しているのだという。

 その中には発掘途中で放棄されているものもあり、それらの中を通りながら、少しずつ帝都へ近づいていた。


 遺跡内に入る際には、クルーガーが全員に隠蔽魔法をかけて帝国の人間に発見されないようにしている。

 また、あらかじめ連絡してあった間者たちに手伝ってもらい、なるべく人目につかないルートを選定している。


「いくら隠蔽魔法ったって限度があるからな。それだけで帝国の帝都深くまで潜入できるほど甘くねぇ」


 と、クルーガー。


「帝国内に潜ませているラエルギアやシルカの間者の手引きあればこそ、だ」

 ともあれ、今のところは敵兵に発見されることもなく、順調に帝都へ近づいていた。

 と、


「ねえ、あれ──」


 エルザが前方を指さした。


 巨大な壁画がある。

 三面六臂の魔王や側近の魔族と天使や勇者たちの戦いを描いているようだ。


「ヴェルファーだ」


 リオネスが言った。


「ヴェルファー……これが」


 エルザはごくりと息を飲む。


「それって『始まりの魔王』なのです?」

「ああ。魔界の初代魔王にして史上最強と称される魔王──天軍との苛烈な戦いの果てに、討たれたという」


 リオネスが説明する。


「神話の戦い、か。聞いたことがあるな」


 と、クルーガー。


「ヴェルフ帝国はその魔王の信奉者たちによって建国されたんだよな、確か」

「っていうか、神話とか歴史とか別に興味ないし~。それより、ボクお腹すいたー」


 緊張感のない感想をもらしたのは、武闘家少女のレイアだ。




 ──ということで、昼食休憩になった。


「おべんと、おべんと」


 レイアがにっこり笑顔ではしゃいでいる。


「ご機嫌ですねー、レイアさん」

「うん、ボク食べるの大好き」

「あたしもなのです。食べてると幸せな気分になるのです」

「ねー」


 にっこりとうなずき合うキャロルとレイア。


「……ピクニックではないんだぞ」


 リオネスが憮然とした顔で言った。


「まあ、ずっと緊張しっぱなしだと士気にも影響するし、ここらで休息ってことでいいんじゃねーの、リオネスの旦那」


 とりなすクルーガー。


「……まったく」


 リオネスはため息をつくと、糧食を取り出して食べ始めた。

 ペーストのような保存食である。


「え、それだけ? ボクのお弁当も少し食べる?」

「不要だ。必要な分の栄養はこれで摂取した」


 レイアの申し出に、リオネスは首を左右に振った。


「私は戦いに来ているので、な。そら、お出ましだ」


 言って、立ち上がる。


「えっ?」


 キャロルはハッと気づいて周囲に気を配った。


 かすかに漂う、人と獣の混じりあったような匂い。

 かすかに感じる、禍々しい瘴気と魔力の混合エネルギー。


 まさか、これは──。


 キャロルは前方に目をこらした。

 人間よりもはるかに優れた獣人の視力が、それを捉える。


 いつからそこにいたのか。

 通路の前方に二つの人影があった。


「侵入者はっけーん」


 十歳くらいの少年が無邪気に笑う。


「ここから先は通行止めだ」


 いかめしい顔つきをした男が、腕組みをして告げる。


超魔戦刃(イクシードソード)、か」


 リオネスがうなった。


「わざわざのお出迎え、痛み入る」


 皮肉げに言って、腰の長剣──『奇蹟兵装ガブリエル』を抜き放つ。


「礼代わりに叩き斬ってやろう。私は、お前たちなどにかかわっている暇はない」

「自信たっぷりだねぇ。だけど、そう簡単にはいかないよー」

「俺たちは皇帝陛下によって最新の改造を施された『超魔戦刃・改イクシードソード・カスタム』ともいうべき存在。たとえ人類最強の四天聖剣だろうと敵じゃない」


 言い放つ二人組。


「やってみろ。できるものならな──」


 リオネスの手にした剣が、激しい水流を放った。

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