4 潜入作戦開始
日間ランキング上昇中なので、ちょっと調子に乗ってもう1話投稿ですw
魔法王国ラエルギアの王城、その正門前。
今日は帝国に捕らわれた勇者ベアトリーチェ奪還作戦の決行日である。
「マグナさん、戻ってきませんでしたね」
「まだ【ブラックホール】の内部世界にいるのかしら……」
キャロルはエルザと顔を見合わせた。
普段は、ぴょこっ、と元気よく動く狐耳と尻尾もうなだれてしまっていた。
これから帝国への潜入作戦が始まるのだ。
マグナ抜きでの作戦は、やはり不安だった。
と、前方から勇者リオネスとSSSランク冒険者のクルーガー、レイアがやって来る。
彼ら三人とキャロル、エルザが今回の作戦メンバーである。
マグナも、もちろんそのメンバーだったのだが……。
「潜入作戦を始める」
リオネスが宣言した。
勇者の中で最強と称される四天聖剣の一人であり、『剣聖』と称されるザイラス・メルティラートの孫でもある。
まさしく最強を継ぐ血統といっていい男だった。
作戦については、先日すでに説明を受けている。
目的地は、ベアトリーチェが捕らわれている皇帝の居城。
クルーガーの隠蔽魔法で極秘裏に帝国に潜入し、彼女の奪還に向かう。
また、陽動として国境線での戦いに注力して、帝国の目を引きつけることになっていた。
そちらには四天聖剣のセルジュとアイラ、キーラがラエルギアやシルカの軍に加わり、戦う予定だ。
「待ってほしいのです。実はマグナさんが、その……」
キャロルはエルザとともに簡単な事情を説明した。
「うーん……要は修業に行ったまま、戻ってこないってことか?」
腕組みをしてうなったのは、筋骨たくましい大男。
戦士と見まがうような外見だが、その実、超一流の魔法使い──SSSランク冒険者のクルーガーだ。
「マグナ・クラウドの離脱は痛いが、仕方がない」
リオネスが淡々と告げた。
「少しでも早くベアトリーチェを奪還したい。作戦は予定通り行う」
「……ちょっと焦ってねーか、四天聖剣さんよ」
クルーガーが眉を寄せる。
「マグナのスキルは強力無比だ。あいつが戻るのを待った方がいい」
「いつ戻ってくるかの保証もない。愚図愚図してはいられない」
リオネスが言った。
「危険が増すような作戦に乗るわけにはいかねーな」
「せめて急ぐ理由くらいは教えてほしいなー」
と、こちらはレイア。
クルーガーと同じSSSランク冒険者の、武闘家少女である。
「……『神託』があったのだ」
リオネスがため息まじりに言った。
「一刻も早くベアトリーチェを取り戻せ、と。でなければ、帝国は──人知を超えた力を得るであろう。その力は、帝国と他国全体との戦いにすら影響を与えるほど大きい、と──」
「なんだよ、そりゃ」
「私も詳しくは知らされていない。最新の神託だし、分析はこれからだろう」
リオネスが首を左右に振る。
「ただ、神託が外れることはない。神の予言だからな。百パーセント的中する」
「マグナ・クラウドが来られないなら、あんたたちもここに残ってもいいんだぜ? 作戦には俺とレイアが加わる」
と、クルーガーが言った。
戦力的に、エルザやキャロルは他のメンバーに大きく劣る。
その辺りを思いやってのことだろう。
が、
「いや、エルザ……だったか、彼女はそれなりの戦力になる」
反対したのはリオネスだった。
「攻撃力には乏しいが、防御能力はかなりのものだ。第二階位勇者のアイラ・ルセラがそう評していた」
「アイラが……」
「ふん、同期のよしみなのかもしれんが、随分とお前を買っているようだ、彼女は」
「……エルザ・クゥエルです。同行させていただきます」
エルザがリオネスを見つめた。
「いい目だ。少なくとも足手まといになる心配はなさそうだな」
リオネスがかすかに笑う。
「エルザさんが行くなら、あたしも行くのです」
キャロルが身を乗り出した。
彼女だけを危険な任務に就かせるわけにはいかない。
マグナがいない今、自分がエルザの側にいなければ。
「……危険よ」
「だからこそ、なのです。エルザさんが怪我をしたときにあたしが治すのです」
自分だけ安全な場所に留まるつもりはない。
もちろん不安や恐怖はあるが。
「それに──マグナさんだって、すぐに追いついてきてくれるのです」
「? 何か理由でもあるのか」
「ただのカンなのですっ」
リオネスの問いに、キャロルが力説する。
そう、ただのカンだ。
だが、それは野生の直感。
獣人である彼女にとって、信じるべき理由だった。
そして──この場にいる全員で、帝国への潜入作戦が開始された。
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