11 闇の剣士と超魔戦刃2
「飢えてる……だと」
ルネがポルカをにらんだ。
「最強になった者の宿命だね。僕がその気になれば、魔王エストラーム様にだって勝てる自信があるよ」
「っ……!」
不遜極まりない台詞だった。
魔王に勝てる──そんな言葉を一言でも口にしようものなら、千年続く苦痛を与えられ、永遠に牢獄で幽閉されるだろう。
だが──ポルカだけは許される。
ルネは聞いたことがあった。
鳳炎帝ポルカはいかなるものにも縛られない。
そう、魔界の法でさえも。
魔王エストラームが直々に彼に与えた特権だ。
噂ではポルカを魔軍長に引き入れるために──ということだが。
目の前の少年には、魔王が特権を与えるほどの価値があるということか。
そして、それだけの強さが。
「だから、ハンデを上げるよ。僕に一撃でも当てられれば、君たちの勝ちだ」
「君……たち?」
「二対一さ。これもハンデだね」
楽しげなポルカ。
「マグナ・クラウドっていう人間がすごいスキルを持ってるらしいんだけどね。いきなり戦って、すぐに殺しちゃったら、楽しみがなくなるでしょ? だから、先にここまで来たんだ」
ポルカがニヤリとする。
「君たちくらいなら、ほどよく楽しめそうだ。ほら、あれだよ。マグナくんがメインなら、君たちは前菜ってとこ」
「面白え」
ルネはどう猛にうなった。
「まずは10%の力で遊んであげよう。さあ、どうぞ」
「へっ、10%で足りるのか?」
告げて、床を蹴るルネ。
防御を考えない攻撃特化の動き──得意とする捨て身の突進だ。
「へえ……」
ポルカの目がわずかに細まった。
「僕もお忘れなくっ」
さらに逆方向からはラグディアが背中の触手を伸ばす。
まるで刃のように尖った数本の触手を、
「無駄だよ」
魔軍長最強の少年は、手刀でなんなく両断する。
「……? この触手は」
何かに気付いたかのように、眉を寄せるポルカ。
「スキルが……進化しかけている……!?」
「ボーっとしてんじゃねーよ!」
その隙にルネが距離を詰めた。
全体重を乗せ、大剣を突き出す。
亜音速に達した剣先が大気を切り裂き、ポルカに迫る。
「ふーん……?」
その一撃を、鳳炎帝は指先一本で止めてみせた。
「くっ……!?」
ルネは剣を突き出した姿勢のまま、硬直した。
ビクともしない。
自分の全力が、ポルカの指一本にも及ばない──。
「足りないどころか、10%でも余りそうだね」
中性的な美貌に薄い笑みが浮かんだ。
嘲笑──ではない。
あまりの力の差を憐れむような笑み。
嘲笑以上に屈辱的な、笑み。
「もっと減らそうか? 実力の5%程度でも、君たち相手なら十分だ」
「てめえ……」
ルネは、ぎりっ、と奥歯を噛みしめた。
「ちょっと期待外れだなぁ。やっぱりここに寄らずに、直接マグナくんの元へ向かった方がよかったか──」
笑顔のままで、鳳炎帝はすさまじいプレッシャーを放出する。
以前、四天聖剣のリオネスと対峙したときに、その威圧感に竜のような映像を幻視した。
対して、ポルカのそれは鳳凰のイメージ。
全身を押しつぶすような、すさまじい畏怖。
「けど──今さら恐れるつもりはねーよ」
退くつもりも、ない。
「最強だろうが、天才だろうが、関係ねぇっ!」
ルネは床を蹴破る勢いで踏みこみ、跳び上がった。
「俺を──舐めるなぁっ!」
体を大きくしならせ、全力の打ちおろしを繰り出す。
封神斬術、戦牙刃だ。
「無駄だって……ふうっ」
ポルカは、今度は指どころか、吐息一つでルネを吹き飛ばした。
「無駄じゃねえっ!」
空中で器用に体勢を立て直すと、ルネは大剣を投げつける。
「武器を手放してどうするのさ?」
手刀であっさりとそれを弾き返すポルカ。
着地したルネは、
「武器ならあるさ──」
切断されて地面に転がっているラグディアの触手をつかんだ。
右手と左手に、一本ずつ。
「二刀流!?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ふたたび捨て身の突進を敢行しつつ、以前に戦ったSSSランク冒険者ヴルムの二刀流剣技を思い出し、自分なりに再現する。
右手に持った触手は、ポルカの指先に止められる。
左手に持った触手は、ポルカの吐息に弾き飛ばされる。
「やっぱり無駄──」
「言ったはずだ、舐めるなって──な!」
ルネはさらに踏みこんだ。
「!? がっ……!」
そのまま、渾身の頭突きを食らわせる。
華奢な少年魔族はよろめき、数歩後ずさった。
「はあ、はあ、はあ……」
一方のルネは、それ以上動けない。
体の限界をはるかに超える高速機動を連続したせいだ。
四肢が軋むように痛む。
「頭突きとはね……ちょっと虚を衝かれちゃったよ」
苦笑するポルカ。
「最初から狙ってたの?」
「へっ、体が勝手に動いただけだ」
ルネは吐き捨てた。
「今のは僕の負けだね」
「……全力の一割しか出してない奴に一発当てたくらいで勝ち誇るつもりはねーよ」
「いや、勝負は勝負さ。君、すごいねぇ」
ポルカは目を輝かせた。
「しかも、まだまだ伸び代が無限に見える。いずれは、僕よりも強くなるかもね──楽しみだ」
次回から第11章「決戦開始編」になります。
四週間ほどお休みさせていただき、3月19日(火)から更新再開予定です。
確定申告やら文章仕事やらで多少立て込んでいるので、少し期間が空きますが、気長にお待ちいただけましたら幸いです。
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