7 作戦会議
帝国にさらわれた勇者ベアトリーチェ・ディレイドの奪還ミッション──。
ラエルギア王城の一室で、その作戦会議が始まった。
メンバーは俺とキャロル、エルザ。
勇者側からは、四天聖剣のリオネスとセルジュ、双子勇者のアイラとキーラ。
冒険者側からはSSSランク冒険者のクルーガーとレイアだ。
「なあ、【ブラックホール】を展開して俺が帝国陣内を突っ切っていく、って作戦はどうかな?」
俺は以前に思いついたことを提案してみた。
身もふたもない戦術だけど、一番手っ取り早い気がする。
何せ【ブラックホール】の前には、帝国の切り札である『超魔獣兵』や『超魔戦刃』さえ瞬殺だからな。
たぶん対抗できる戦力はないだろう。
無敵モードでベアトリーチェの元まで突っ切る──。
シンプルこの上ない作戦だ。
「肝心のベアトリーチェを人質に取られたらどうする?」
「確かにマグナさんは無敵かもしれませんが、あくまでも今回の作戦は『攻撃』ではなく『潜入』ですので……」
冷静な意見で反論したのは、リオネスとセルジュだった。
「う、確かに……」
思わず言葉に詰まる俺。
……って、そういえば俺自身も前にこのことを考えて、同じような結論に至ったんだった。
やっぱり、そう簡単にはいかないよな。
「あ、それなら、あたしにいい考えがあるのです」
ひょこっと手を挙げたのはキャロルだ。
「マグナさんのスキルで帝国地下の土をどんどん吸いこんで進む、というのはどうでしょう? こう、ずーっとトンネルを掘っていく感じで」
「キャロル、天才だな」
俺は思わずうなった。
「えへへ。それほどでも、なのです」
照れたように狐耳を、ぴょこぴょこ、っとさせるキャロル。
我慢できずに、その耳をちょっとモフモフしてしまった。
やっぱり気持ちいい。
「許可なくモフモフは駄目ですよ、めっ」
「あ、悪い」
「ふふ、マグナさんなら、言ってもらえれば、ちゃんとモフモフしていいですよ」
「そ、そうか? じゃあ、頼む」
「ふふふ、どうぞ?」
俺はついデレッとしながら、キャロルの狐耳に手を伸ばし──、
「こほん」
リオネスが咳ばらいをした。
「そう言った恋人同士の触れ合いは、会議には不釣り合いだ」
「会議が終わったら、いくらでもイチャついて構いませんので……ここでは遠慮していただけるとありがたいです。恐縮です」
と、すまなさそうな顔で告げるセルジュ。
別に恋人同士ってわけじゃないんだが……。
「何、あんたたちはそういう関係だったのか?」
「ふふん、ボクは前に会ったときから怪しいとにらんでたよ」
身を乗り出したのは、SSSランク冒険者の二人、クルーガーとレイアだった。
案外、そういう話が好きなのか、目が爛々としている。
「微笑ましいわね」
「お似合いです」
さらに双子勇者のアイラとキーラまで。
こちらは嬉しそうな顔で祝福モードだ。
この話題に食いつき良すぎだろ、みんな。
「ふーん……?」
なぜかエルザだけはちょっと不機嫌そうだった。
「それはそうとして、作戦の話に戻しましょ? あ、私も後でモフモフさせてね」
なんだ、俺だけキャロルにモフモフしてたのが原因だ。
「恋人同士……か」
その後にぽつりとつぶやくエルザ。
ん、どうしたんだ?
「え、えっと、トンネルを掘るのよね。わ、私だって同じことを言おうと思ってたんだからっ。別にヤキモチなんて焼いてないからっ」
気を取り直したように、エルザが言った。
ん? ん? ヤキモチ?
「いや、普通に崩落するだろう、それ」
リオネスが冷静にツッコんだ。
「……確かに」
うなずく一同。
俺も思わずうなずいてしまった。
──まあ、こんな感じで雑談からスタートした会議だけれど、最終的には以下のような感じで方針がまとまった。
間者の報告によれば、ベアトリーチェは帝都にある皇帝の居城に囚われているらしい。
そこでクルーガーの隠蔽魔法を駆使し、極秘裏に帝国に潜入、彼女の奪還に向かうことになった。
また、陽動として国境線での戦いに注力し、帝国の目を引き付ける。
こちらはセルジュとアイラ、キーラがラエルギアやシルカの軍に加勢する。
要するに──帝国との戦いに協力する代わりに、勇者奪還に協力してもらうという交換条件らしい。
そして肝心の帝都潜入チームはクルーガーとレイア、リオネス。
そこに、俺やキャロル、エルザも加わる格好だ。
「他の四天聖剣も呼べばいいんじゃないか?」
俺は疑問をぶつけてみた。
ベアトリーチェがそれだけの重要人物なら、勇者ギルドの最大戦力をもって当たればいいんじゃないだろうか。
「──後の二人は魔族の侵攻を食い止めています。魔王エストラーム配下が攻めてきたらしく、そちらで手一杯だそうです」
と、セルジュ。
「魔族の侵攻?」
「七大魔軍長の中で最強と謳われる鳳炎帝ポルカ率いる軍の、ね」
次回更新は1月29日(火)です。
当面はまったり更新になるかもです(´・ω・`)





