4 開発計画
ルネ視点ラストです。次回からマグナ視点に戻ります。
マグナ・クラウドの超絶スキル【虚空の封環】を疑似的に再現する──。
皇帝の宣言に、ルネは驚いた。
「できるのかよ、そんなことが」
彼にとって、あのスキルは『最強』の体現ともいえる力だった。
それを人工的に作り出せる──とは。
「まだ術式の案段階だ。仮にスキルの再現に成功しても、使いこなすための素体が必要になるだろう。それができる可能性があるのは、ラグディアだけ。ただし──」
「まだ力が足りない、と?」
ラグディアがたずねる。
「左様。したがって、ルネとの訓練で修業してもらう。その間に余はベアトリーチェの奇蹟兵装を解析し、【ブラックホール】の再現実験に移るとしよう」
「その力があれば、マグナに勝てるのか?」
たずねるルネ。
「理論通りに行けば、可能性はある」
「……理論通りに、ね」
「お前やミジャスにはしばらくこの城に滞在してもらいたい。最上級の国賓として迎えよう。部屋などは後ほど余の臣下が案内するゆえ、待ってくれ」
──こうして、皇帝との謁見は終わった。
「修業のパートナーにルネ様が選ばれるとは……ちょっと予想外でした」
ルネはミジャスとともに城内を歩いていた。
いったん休息のために、二人に用意された部屋まで戻るところだ。
……ちなみに部屋は別々である。
「ルネ様は不満ではありませんか?」
ミジャスが問いかけた。
「人間どもの修業に付き合うのは」
「別に、人間だから無条件に嫌ったり憎んだりってのはねーよ。それにあいつは強い。俺にとってもいい修行になる」
答えるルネ。
「むしろ願ったりかなったりだ。俺には借りを返さなきゃいけない相手が、何人もいるからな」
双子勇者のアイラとキーラ。
SSSランク冒険者ヴルム。
そして四天聖剣のリオネス。
いずれも、過去の戦いで敗れた相手たちだ。
だが、今なら──。
「いや、まだだ。俺はもっと強くなる。そして、いずれはあいつら全員をブッ飛ばせるだけの力を得てみせる……!」
ルネは、自身に言い聞かせるようにつぶやく。
「どこまでも『戦士』なのですね、ルネ様は」
言いながら、ミジャスが体を寄せてきた。
ルネの腕に自身の腕をからめ、ギュッと抱きついてくる。
「……なんだ?」
「いえ、なんとなくくっつきたかっただけです」
悪戯っぽく微笑むミジャス。
彼女の真意が読めず、ルネはわずかに戸惑った。
「ルネ様は、もっと上の地位を目指すおつもりはないのですか?」
次の質問が来た。
たずねるミジャスの瞳は、妙に鋭い眼光を放っている。
「ダークブレイダーは基本的に下級魔族というランク付け。ですが、ルネ様の力なら少なくとも中級、おそらくは上級の中位か上位相当でしょう」
「……ふん」
鼻を鳴らすルネ。
皇帝に召喚されて人間界に来たときは、中級や上級に成り上がるという野心もあった。
だが今はもっと純粋に『強さ』を求める気持ちの方が大きい。
幾多の強敵との戦いが、ルネをそう変えていった。
「あるいは──さらに上の階級である魔軍長に、とか?」
「この俺が魔軍長? はっ、柄じゃねーよ」
ルネは笑い飛ばした。
地位や名声よりも、今は──。
ただ誰よりも強い力が欲しい。
数時間の休息を経て、ルネは城内の一室にやって来た。
皇帝が魔導処理を施した訓練室だ。
物理攻撃にも魔法攻撃にも強い耐性がある素材で構築された、特別な一室だった。
十メートルほどの距離を置き、ひょろりとした中年兵士──ラグディアと対峙する。
「よう、続きといこうぜ」
「ああ、今度は負けないよ」
二人は笑いあう。
相手の喜びが伝わってくるようだ。
戦うことで、自分も、相手ももっと強くなれる。
その確信が、歓喜の思いを湧き上がらせる。
(そうだ、俺はもっと強くなってみせる)
ルネは大剣を構え、前に出る。
同じく、ラグディアも。
「いくぞ!」
二人の超戦士は同時に間合いを詰め、剣を合わせる──。
【お知らせ】
次回から昼12時更新に変わります(次話更新は12/30の昼12時です)。





