15 任務完了、そして新たな戦いへ
「何……!?」
見上げれば、はるか上空に豆粒のような人影がある。
「ラグディア──か」
リオネスが息を飲んだ。
「えっ?」
よく見えるな、あんなの。
「背中から触手が──翼みたいになって生えてるのです」
キャロルが説明した。
さすがに獣人だけあって目がいい。
【ブラックホール】で吸いこめないということは、スキルの射程圏外──高度1000メートル以上の高さにいるんだろう。
「さっき吸いこんだと思ったんだけど」
あれは別の敵だったのか、それとも──。
「触手で作り出したダミーだよ。僕は吸いこまれる直前、上空に飛んで難を逃れたんだ」
空高くから告げるラグディア。
これだけの高度から鮮明に聞こえるってことは、さっきの超魔戦刃たちみたいに声を届けるためのスキルか魔法でも使ってるんだろうか。
「スキル効果【緊急回避】。僕の【触手】がスキルランク三十階層まで達したおかげで習得した力さ」
──ぞくり。
ふいに、背筋に悪寒が走った。
「なんだ、この感じは……!?」
俺はあらためてラグディアを見つめる。
「マグナさん……?」
「あいつ、雰囲気が妙だ……今までの敵とは違う」
怪訝そうなキャロルに説明する俺。
単純な威圧感とか、あるいは恐怖とかじゃない。
もっと別の雰囲気。
もっと別の感覚。
帝国の改造兵士相手に、こんな印象を持つのはおかしな話だけれど──。
俺が奴に対して感じた雰囲気は、奇妙な『親近感』だった。
「あふれる……力が……!」
ラグディアの全身からほとばしった輝きが、空中に紋様を描き出す。
「あれは──」
俺は呆然とそれを見上げた。
似ている。
いや、そっくりだ。
俺の【ブラックホール】──黒い魔法陣の表面に浮かぶ、黄金の紋様と。
「まだまだ強くなれそうだよ、僕は」
ラグディアが笑う。
「とはいえ、君は危険すぎるねぇ……暴走状態に入っていた僕の気持ちも随分と落ち着いたし、帰らせてもらうよ」
そのまま触手の翼らしきものを羽ばたかせ、ラグディアは飛び去っていった。
射程外の空にいる相手には、さすがに【ブラックホール】でもどうにもならない。
ともあれ、リオネスやアイラ、キーラの捜索はとりあえず終了だ。
みんなで無事に出会えたことを、まずは喜ぼう。
ラグディアが去って、ほどなくして。
「さっそくだが現状を聞きたい。私はラグディアとの戦いにかかりきりだったからな。ベアトリーチェはどうした?」
「それが──」
リオネスの問いにアイラとキーラが同時にうなだれた。
「申し訳ありません。帝国の手勢にさらわれてしまいました」
「……何?」
ますます険しい表情になるリオネス。
「ならば私が帝国に出向き、ベアトリーチェを奪還するとしよう」
「帝国に?」
「国同士の小競り合いならともかく、勇者を──それもギルドにとって重要な能力を持つ者をさらったとなれば、見過ごすわけにはいかん。勇者の誇りに懸けて、私が彼女を取り戻す」
熱く語るリオネス。
「兵士や超魔獣兵はともかく、帝国にはラグディアがいます。わたくしも同行しましょう」
セルジュが申し出た。
「で、では、あたしたちも!」
「僕たちも一緒に!」
さらにアイラとキーラも前に出る。
「ベアトリーチェさんをさらわれてしまったのは、あたしたちの失態です。どうか挽回のチャンスを与えてください」
「僕らは第二階位の勇者。決して足手まといにはなりません」
「……ねえ、マグナ。私たちはどうするの?」
エルザが小声で俺に聞いた。
「勇者さんたちで盛り上がってるのです」
と、キャロル。
「うーん……協力した方がよさそうな雰囲気かもしれない」
つぶやく俺。
アイラやキーラたちとは少なからず一緒に戦った仲だし。
極端な話、俺が【ブラックホール】を展開して帝国内を突っ切っていけば、楽勝でベアトリーチェのところまでたどり着けるんじゃないだろうか。
それに、
「さっきのラグディアが気になるし……な」
【ブラックホール】とそっくりの紋様を持つ兵士。
あいつの正体は、一体──。
次回から第10章「迫る決戦編」になります。
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