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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season0「The Return To The Origin」

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episode79「ダチ-Red and Azure-」

「やってんねぇ……」


 誰が相手でも変わらない青蘭の態度に、チリーは半ば関心する。

 どうも鉄のような硬い性格のようで、態度を頑として変えない。


「まぐれで勝ったからって良い気になってんじゃねえぞ!」


 今にも殴りかからんばかりの勢いの大男達だったが、誰一人として青蘭に向かってはいかなかった。


 青蘭の方は闘志をむき出しにしたまま相手の出方を伺っており、剣呑な空気が彼らを中心に広がっている。


 周りの客の迷惑そうな顔を見て、チリーは溜め息をついて立ち上がる。


「チリー?」

「ちょっと行ってくるわ」

「仲裁? 珍しいね」


 茶化すようにニシルが言うと、チリーは小さくかぶりを振る。


「ちげーよ。ちょっとダチに声かけてくるだけだ」


 そう言って、チリーはやや早足で青蘭の元へ向かった。




***



 先に事の顛末を言うと、結局大男達は店の隅っこに倒れ伏すことになった。


 チリーがあの性格で仲裁など出来るハズもなく、最終的には二人して大男達をボコボコに叩きのめす形になってしまったのである。


 そして結局、ニシルを含めた三人共がやんわりと店を出るようにお願いされたのだった。


「そもそもなー! お前がもっといい感じに会話してればなー!」

「いい感じとはなんだ? 俺は事実を述べただけだ。この国の戦士は弱い。お前もそう感じているハズだ」

「そーゆーとこが喧嘩の原因だろーが!」


 こうは言っているが、結局チリーも大男達に煽られてやれ雑魚だのカスだの煽り返していたため、人のことを言える立場ではないのだが。


「……巻き添えで追い出される僕の身にもなれよな……」


 ニシルはチリーの連れ、というだけで店を出る羽目になったのだ。文句の一つくらい聞いてほしいものだったが、当の二人は二人だけで言い合ってしまってニシルにはあまり取り合ってくれなかった。


 このまま二人に言い合いをさせていても埒が明かない。とりあえず話題を変えるため、ニシルは青蘭から色々聞き出すことにした。


「そういえば青蘭、だっけ? 初めまして、僕はニシル・デクスター」


 ニシルが自己紹介すると、流石に青蘭もチリーと言い合うのをやめてニシルへ意識を向ける。


「チリーから聞いたけど、東国から来てるんだって?」

「ああ。見聞を広めるために海を渡った。異国は興味深いが、今のところ俺と互角に戦える相手には出会えていない」


 そう言ってから、青蘭はチリーをチラリと見やる。


「この男を除いてな」


 どこか嬉しそうに語る青蘭につられて、チリーもわずかに微笑む。


 チリーにとっても、青蘭は初めて互角以上の戦いが出来た相手だ。あのまま続けていれば、チリーが勝てたという保証はどこにもない。


「お前達は? この町の人間か?」

「いや、僕達は旅の途中だよ。大会の目的も賞金だったんだ」

「なるほどな。俺も旅を続けるために資金が必要だった。腕試しはあまり期待していなかったが、思わぬ収穫があって良かった」


 どうも青蘭という男、ニシルが思っていたよりもチリーにご執心らしい。よほどチリーとの戦いが面白かったと見える。


 チリーの方も満更でもなさそうで、ニシルからすれば少しだけ疎外感があるくらいだ。


「差し支えなければ旅の目的を教えてほしい」

「……僕達は、賢者の石を探してるよ」


 ニシルがそう口にすると、青蘭は少し驚いたような表情を見せる。


「……実在するのか?」

「僕は信じてる」


 一切迷わず、ニシルは即答して見せた。


「だから、何か少しでも知っていることがあれば教えてほしいんだ。何か知らない?」


 駄目で元々、と言った感じの質問だが、少し期待する気持ちもある。ニシルとチリーの暮らしているルクリア国と、海を隔てた向こうにある東国では文化が違う。ニシル達の知っている伝承とは別の話が聞けるのではないかと期待してしまう。


 しかし青蘭は、静かにかぶりを振る。


「すまない。賢者の石については俺も知らない」

「そっか……」

「だが、アルケスタなら何かわかるかも知れん」

「……アルケスタ?」


 問い返すニシルに、青蘭は頷く。


 さっきまで適当に聞き流していたチリーも、聞き慣れない単語に反応して真剣に耳を傾けていた。


「ここに来る途中で聞いたことがある。知識の町、アルケスタシティだ」


 そのまま、青蘭はアルケスタシティについて話し始める。


 アルケスタシティは、ルクリア国の西側にある都市の一つだ。

 この大陸で最も巨大な図書館を有する都市で、大陸全土の知識がその図書館に集まるとされている。


「確かに……そこなら手がかりが見つかるかも。ここからどれくらい?」

「そこまではわからんな。少しこの町で調べた方が良いだろう」

「そうだね。ありがとう! チリー、次の目的地が決まったよ!」


 少しはしゃいだ様子のニシルに、チリーは大きく頷いて見せる。


「だな。ありがとよ」

「……一つ条件がある」

「ンだよ後出しかァ? しょうがねえな、なんだよ?」


 妙に真剣な表情で切り出す青蘭に、軽い口調でチリーは問い返す。


 すると、青蘭はチリー達を真っ直ぐに見つめてこう言った。


「俺も同行させてくれ」


 思いも寄らない青蘭の言葉に、チリーもニシルも硬直する。そしてやがてお互いに顔を見合わせてから、もう一度青蘭へ向き直った。


「え? なんで?」


 ついそんな聞き方をしてしまったのはチリーだ。あまりに間の抜けた声だったため、隣でニシルが吹き出しそうになる。


「元々俺の旅には見聞を広める以上の目的はない。どうせ同じ旅なら……ルベル、お前と毎日手合わせしたい」

「お、おう……?」


 青蘭は目も言葉もまっすぐで、チリーは面食らう。


「俺と高め合ってくれ、ルベル」


 妙に仰々しい口ぶりだったが、とにかくチリーが気に入った、ということだろう。同じレベルで手合わせ出来る相手というのは、武の求道者にとってこの上ない存在だ。


「うーん、良いんじゃない? 良いと思う。そうしようよ」


 ポン、と手を叩きながら、ニシルがうんうんと頷く。


「よし、決まりだ。よろしく頼む」

「こちらこそ」

「いや待て待て待て待て」


 勝手に話を進めるニシルと青蘭の間に割って入り、チリーは慌てて抗議の声を上げた。


「勝手にお前らで決めてンじゃねえ!」

「え? 嫌なの?」

「嫌……っつーか……?」


 ニシルの問いに答えあぐねていると、そばで青蘭が嘆息する。


「……そうか。嫌だったか、すまない」


 思ったより態度に出るタイプなのか、少しだけしゅんとした様子に見えてチリーは頭を抱えた。


「……まあ、俺もお前くらい頼もしいのがいてくれた方が安心するしな。一緒に来いよ、青蘭」


 元々断る理由も特にない。


 いきなり勝手に決められて勢いで割って入ってしまったが、青蘭がチリーを気に入ったように、チリーもまた青蘭には好感を持っている。


 チリーが手を差し出すと、青蘭は再びその手を握った。



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