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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season0「The Return To The Origin」

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75/112

episode75「コロッセオ-Bandit Hunting!-」

 コラドニアシティのコロッセオでは、年に一度腕っぷしを競うトーナメントが行われる。

 国中の力自慢達が、この日のためにコロッセオに集まり、賞金を求めて競い合う。


 貴族達や少し裕福な商人達は賭け事に勤しむ。この国を挙げての一大イベントは毎年盛り上がり、コラドニアシティは活気づく。人の出入りが増えるので行商人達も多く入り、町人達も出店やパレードを楽しむのだ。


 トーナメントに参加するために必要な資格は一切ない。経歴も不問で、どんな貴族もどんな犯罪者や奴隷も、等しく参加者になれるのだ。それはよそものも例外ではない。


 ただし、生還出来る保証もないのだ。


 このトーナメントで起きる事故や怪我に関して、運営は一切責任を取らない。ルールもあってないようなもので、目潰し金的武器何でもアリのトーナメントなのだ。


 会場に入れるのは選手と、高い観戦料を払った貴族のみ。お祭り気分を楽しむただの町人達は、円形闘技場の中で行われる血まみれの戦いを知る由もない。


 大きな賞金と引き換えに、最悪の場合命すら失いかねない大博打。それがコラドニアシティのコロッセオトーナメントなのだ。




「勝者! ルベル・C(チリー)・ガーネット! なんと十七歳の少年が、まさかの決勝進出だァーーーーーーッ!」

「「おおおおおおおおおッ!」」

 そんなコロッセオトーナメントでは、未だかつてない大番狂わせが起きていた。


 トーナメント開始前日に飛び入りで参加した少年、チリーが凄まじい勢いで予選を勝ち抜き、ついには決勝トーナメントに出場。そしてあろうことか準決勝での激戦を制したのである。


「今年はクレミー・ガフは出ないのか! 彼が出ていればあんなよそもののクソガキが決勝に出るなどあり得なかったハズだ!」

「なんでも……股間から血を流して森で倒れていたのを衛兵に発見されてそのまま投獄されたとか……」

「や、やはり魔の森には魔獣が棲んでいたのか……!」


 この大番狂わせに、観客席の貴族達はこぞって困惑する始末だ。


 二年連続チャンピオンであるクレミーに対する期待値は極めて高かった。それ以外にも、ルクリア国で名を馳せる強者達が何人も参加しており、貴族達の賭けの対象は専ら彼らだったのだ。


 それがこんな誰にも賭けられていないような少年が突然現れて、強者共を次から次へと打ち倒してしまうのだから、困惑するのも無理はない。


 中には面白がってチリーに大金を賭けるものも現れ始め、トーナメントは開催以来の大混乱という様相を呈していた。



 決勝トーナメントに出る選手には個別に控室が用意してあり、試合を終えたチリーは控室へと戻っていく。


 中では、こっそり忍び込んでいたニシルが待機していた。


「お疲れチリー、どうだった?」

「楽勝だな。あんな雑魚がこの国一の剣の使い手だなんて言われてンだから笑えるぜ。その内どっかに侵略されたら負けちまうぞこの国」

「まあ、前年度のチャンピオンがいないわけだし……」


 クレミーとの戦いは不意打ちで勝ったようなものだが、彼と正面から戦っていればニシルはチリーが必ず勝てたとは断言出来ない。それぐらいの体格差がチリーとクレミーの間にはあったのだ。

 とは言え、チリー自身はクレミーと正面から戦っても負ける気はしなかったが。


「もう少しでチリーの対戦相手が決まるんじゃない? 誰だろうね」

「誰だろうが構わねえよ。このまま全員ぶちのめして賞金持って帰ってやらァ」


 不遜な態度でそう言って、チリーは腕を組んで見せる。


「確か一人、明らかに国外の人が混じってたよね。あの人どうなったんだろ」

「あの痩せっぽちか? どーせ途中で負けてンだろ」


 チリーは人のことを痩せっぽちと言えるような体格ではない。指摘するか迷った挙げ句、結局ニシルはそれについては苦笑いで流した。


「ま、ちょっと見てくるか。次の対戦相手とやらをな」




 選手には専用の観客席が用意されている。

 貴族達が座っている最前線の席ではなく、中央の闘技場からかなり離れた上の方の端っこにある小さな席だ。


 チリーがそこへ向かうと、チリーに負けた選手達の内数名がそこに座って試合を眺めていた。チリーを見るやいなや睨むような視線を向ける者もいたが、襲いかかったり絡んでくるような相手は”もう”いなかった。


 大体決勝トーナメントが始まってすぐくらいで、全員チリーにこの場所で負け直したからである。


 準決勝の試合をゆっくり眺めようと思っていたチリーだったが、その試合はチリーが席に座る前に終わってしまう。


「エルピス・サディアス! もうピクリとも動きません! これは勝負あったか!?」


 審判のその言葉に、会場中がざわついているのがわかる。


 倒れたエルピスをよそに、闘技場の中央で悠然と佇んでいたのは、チリーの言う”痩せっぽち”の外国人だった。


「勝者! 青蘭せいらん! 東の国から来た謎の男が、まさかの決勝進出だァーーーーッ!」


 鋭い目をした、やや痩せぎすに見える男だった。黒い短髪で、肌の色は白くも黒くもなく、強いて言うならば黄色に近い。


 実況者の言う東の国、というのは恐らく東国とうごくのことだろう。海を渡った向こうに、そういう名前の島国があるというのは、チリーも聞いたことがある。


 青蘭、と呼ばれた東国の男はさして喜ぶ風もなく、決着がついたとわかると黙ったまま闘技場を後にする。


「……あいつが相手か」


 今までとは全く違った雰囲気の対戦相手に、チリーは軽く武者震いをした。



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