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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode26「国境の町-Knights Of The Borderland-」

 翌朝、コーディ・ヴァレンタインは快く一行を応接室に通した。


 クリフは詳しい事情は伏せていたようで、コーディはあくまでミラルが故郷のテイテスに里帰りをする、程度にしか伝えられていないようだった。


 コーディの後ろには二人の従者が控えている。テーブルの上には香りの良い紅茶が人数分置かれており、ミラルは紅茶の味に思わず舌鼓を打った。


「君達は殿下の恩人だと聞いている。ランドルフ殿下の謀略を暴き、クリフ殿下の暗殺を防いだんだとか……」


 そこまではしていない。していないのだが口裏を合わせる必要があるため、ミラルは曖昧に笑って頷いた。予めボロを出さないよう言いつけておいたおかげか、チリーはとりあえず黙って聞いていてくれている。


(私からすれば、クリフ殿下の方こそ私達の恩人なんだけど……)


 王宮からの脱出を見逃してくれた上に、こうして旅の補助までしてくれているのだ。クリフが助かったのは結果でしかなく、ミラル達はクリフのために何かをしたわけではない。あくまでラウラの救出――自分達の目的のために動いていただけなのだ。


 そう考えるとやや気まずい気持ちになるミラルだったが、今の自分達だけでは旅を続ける力はない。受けられる補助はなるべく受ける必要がある。ここは、クリフとコーディの厚意に甘えさせてもらうしかない。


「テイテスまでの馬車は私が手配するよ。他ならぬクリフ殿下からの頼みだからね」


 いつか何かの形で返せないだろうか。そんなことを頭の隅に置きつつ、ミラルはコーディに頭を下げる。


「しかし申し訳ないんだが……今日は来客の予定があってね。少し時間がほしい。その間に観光でもどうだろう?」

「お、それは良いですねぇ!」


 手を叩いて喜んだのはラズリルだ。


 下手に外を歩けばサイラス達と出くわすことになりかねないが、ラズリルは、コーディが暗に”席を外していてほしい”と言っていると判断した。


 コーディから旅の援助をしてもらう以上、彼の意にそぐわないことだけはするべきじゃない。


 ラズリル同様、それはミラルも感じ取ってはいたのだが、サイラス達に関する不安は拭えなかった。


「昨晩のことは聞いているよ。君達には護衛をつけよう」


 ミラルの不安は表情に出ていたらしく、コーディはミラルの顔を見て柔和な笑みを見せる。


 コーディが後ろの従者に合図すると、従者は部屋を出て一人の男を部屋の中に連れてきた。見覚えのあるその男に、真っ先に笑みを浮かべたのは意外にもチリーだ。


「殿下のご友人を護衛するなら、うちの倅をつけるのが一番良い。面識もあるようだしね」


 言ってから一息ついて、コーディは誇らしげに言葉を続ける。


「息子のレクス・ヴァレンタインだ。ヘルテュラシティが誇るヴァレンタイン騎士団の団長なのでね、実力は申し分ない」


 父の得意げな言葉に、レクスは誇ることも謙遜することもしなかった。

 ただ父の隣に立ち、護衛対象である三人を見つめている。


「……確かにアンタなら申し分ねえな」


 満足げなチリーの言葉に、レクスは小さく笑みを見せる。


「お前のような奴がいるなら、護衛は必要なさそうなモンだがな」


 そんなことを言い合いながら、チリーとレクスは互いに顔を見合わせてニッと口元だけで笑い合う。


 いつの間にか妙に意気投合している二人を見やりつつ、ミラルとラズリルは顔を見合わせた。


「もしかして似た者同士?」

「団長の方が大人だろうけどね」

「……聞こえてんぞ」


 わずかに顔をしかめるチリーに、ラズリルはわざとらしく舌を出して誤魔化した。



***



 国境の町、ヘルテュラシティはフェキタスシティに次いで交易が盛んな町だ。フェキタスシティに負けず劣らず活気のある街並みが広がっており、たくさんの人達が町を歩いている。


 その位置の都合上、ゲルビア帝国の領土であるルクリア国を通じてゲルビア帝国軍に攻め込まれて戦場になったこともあったが、現在は以前よりも活気があるようだ。


 ルクリア国やゲルビア帝国の文化が多く流れ込んできており、特に国力が豊富で優秀な技術者の多いゲルビア帝国から流れてきた加工技術はヘルテュラシティでも重宝されている。


「俺の剣もゲルビアの技術で作られたものでな……。かなりの業物だ」


 町の観光の最中、そんな話をしながらレクスは背負っている大剣を一行に見せる。ミラルにはよくわからなかったが、日頃刃物を扱うラズリルと、レクス自身に興味があるチリーはまじまじと大剣を見つめた。


「……普通の金属とは違うのかい?」

「エリクシアンの魔力にある程度耐性を持つ金属、アダマンタイトで作られている」


 アダマンタイト。ゲルビア帝国で作られている特殊な金属だ。詳しい製法はほとんど伝わっていないが、加工済みのアダマンタイト自体は高価だが市場にいくつか出回っている。


 レクスの大剣はそのアダマンタイトで打たれたもので、エリクシアンの魔力による攻撃に対して通常の金属以上の耐性を持つ。


 アダマンタイトが魔力に対して耐性を持つことは知られており、噂ではアダマンタイトは金属の加工にエリクサーを用いているのではないかと囁かれていた。


 エリクサーの実態を知るミラルにとってそれはゾッとするような話だったが、あえてそこには触れずに黙っていた。


「そんな心配そうな顔をする必要はありませんよミラルさん。このシュエット・エレガンテがついています。どうぞごゆるりと観光をお楽しみください」

「は、はあ……」


 やや見当外れのことを言い出すシュエットに、ミラルは少し困った調子でぎこちなく微笑む。


「……ついてきてしまってすまん」


 真顔で謝罪するレクスに、ミラルはお気になさらず、と微笑んだ。


 このシュエット・エレガンテと言う男。誰も呼んでいないのに突如一行の前に現れ、レクスが護衛の任務を受けていると知るやいなや強引に同行し始めたのである。


「俺はいずれ団長の後を継ぐ男だ。団長の仕事は全て学ばせてもらう」

「今のところ継がせる気はないがな……」


 呆れ顔でレクスが呟いたが、シュエットの方はどこ吹く風と言った調子である。


「レクスさんのこと、すごく尊敬してるんですね」

「それはそうさ。団長はこの国で一番強い。いや、世界の誰が相手だって簡単に負けやしないさ」


 ミラルに対してシュエットが語り始めると、レクスはまた始まったと言わんばかりに嘆息する。


「持ち上げ過ぎだ」

「持ち上げ過ぎなものか。団長は我が国最強の騎士団、ヴァレンタイン騎士団で最強の男なんだ」


 シュエットの瞳は、まっすぐにレクスへ向けられた。


 妙に透き通った水のように純粋な瞳を、レクスは正面からは受け止めなかった。わずかに視線をそらし、バツが悪そうに再び嘆息してみせる。


「エリクシアンの一人や二人、団長の手にかかればイチコロだ」

「……エリクシアンと言えば、サイラス達は何故この町にいるんだい?」


 そこで、ラズリルがふと思い出して問う。話題をそらす意図もあったのだろう。昨日のような言い合いになってほしくないと思っていたミラルは、ラズリルにこっそり感謝した。


「イモータル・セブンはゲルビアの主戦力だ。まさか常にここに配置されてるわけじゃないだろう?」


 アギエナ国に駐屯地があるとしても、そのレベルの部隊が常に配備されているとは考えにくい。


 いくらゲルビア帝国がエリクサーを生成出来るとは言え、エリクシアンになれる人間の数は限られている。イモータル・セブンに所属する程のエリクシアンを、他国の駐屯地に常駐させているとしたら何かしらの理由があるハズだ。


 レクスもシュエットも、すぐにはラズリルに答えなかった。


 そこからやや間があって、レクスが小さく息をつく。


「……場所を移すぞ。町中で出来る話じゃない」


 静かに、レクスは神妙な面持ちでそう言った。



***



 その頃、ヴァレンタイン邸には三人の客が訪れていた。


 ミラル達と同じように応接室に通され、三人はどっかりと椅子に座ってコーディと対面していた。


 コーディの後ろには従者だけでなく、ヴァレンタイン騎士団の団員が数人控えている。その中には、副団長であるジェイン・ウェストサイドも含まれている。


 ジェイン・ウェストサイドは四十代半ばの男性で、黒い短髪に無精ひげの、騎士というよりは傭兵に近い容姿の筋肉質な人物だ。以前は団長だったが、レクスの実力を認め、次の世代を育てるために団長の任を退いた男で、レクスを推薦した張本人でもある。


 ジェインは、三人の客人に対する不快感を作り上げた無表情の中に抑え込む。


 ヴァレンタイン邸の客人とは……ゲルビアのイモータル・セブンに所属するサイラス、リッキー、ザップの三人だった。


「俺達も別に暇なわけじゃねえんだ」


 紅茶をぞんざいに飲み干しつつ、サイラスは吐き捨てるように言う。


「そろそろ渡してもらおうか……。魔法遺産オーパーツ殲滅巨兵モルス”を」


 サイラスの要求を即座に断ることが出来ない立場に、コーディは歯噛みした。


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