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闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-  作者: mao
第七章:反帝国組織セプテントリオン
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反帝国組織の副隊長


「兵士さんと一緒に行けば皇帝様の(めかけ)になれるんでしょ!? お願い、私を連れてってぇ!」

「駄目だ! 貴様はただの凡人(オルディ)ではないか! そのような足手纏いは皇帝陛下には必要ない!」

「無能はいないか! 今日は定期船が入ってくる日だったはずだな!?」

「おい、帝国兵さんよ! 俺は皇帝陛下のためならどんな仕事だってするぜ、いい暮らしは保証してくれるんだろ!?」



 帝国兵が街にやってきてからと言うもの、そんな声があちこちから聞こえてくる。

 ……そうだな、皇帝に望まれるってことは女なら妾になれるかもしれないし、男だっていい暮らしは約束されるようなものなんだ。そりゃあ、率先して協力を申し出るやつもいるよなぁ。ほんの少し前までは無能なんて道端に落ちてる石ころ以下みたいな扱いだったのに、人間ってのはほんと欲望に素直なもんだ。



「……リーヴェさぁん……私たち、どうしたらいいんでしょうぅ……」

「うーん……」



 現在、オレたちは宿の店主が慌てて窓から逃がしてくれたお陰で、その宿の部屋のすぐ下……にある茂みに身を潜めてる状態だ。身体の小さいフィリアはともかく、さすがに成人男性をいつまでもこの茂みが匿ってくれるかどうか。


 ……いや、待て。焦りすぎて忘れてたけど……。



「フィリア、コソッと出て行ってヴァージャたちを探しに行けないか?」

「ひ、ひとりで行けって言うんですか……!?」

「だって、お前は別に無能じゃないんだから見つかっても捕まることはないだろ」

「……あ。そう言われてみればそうですね」



 そりゃオレだって、こんな帝国兵まみれの中に女の子を一人放り出すなんてしたくないけどさ、このままヴァージャとエルが戻ってくるまでここで気配と息を殺してジッとしてるよりはいいと思うんだ。


 すると、フィリアは途端にその可愛らしい顔に得意げな笑みを浮かべてそっと手を伸ばしてきた。何をするのかと黙ってその行動を見守っていたものの、意味ありげに頬に触れてくるのを見ればいつもの悪ふざけだ。



「じゃあ、行ってくるからいい子で待ってるんだぞ♡」

「それ何ごっこ?」

「ヴァージャさんこういうこと言いません?」

「言わねーよ」



 何かと思ったらヴァージャの真似かよ、あいつそんなこと言わないよ。フィリアは「えー」なんて不服そうな声を洩らしながらも、そっと辺りの様子を窺ってから静かに立ち上がった。



「それじゃあ、リーヴェさんも気をつけてくださいね」

「ああ、お前もな。見つかったら……逃げてるよ」

「できるだけ、その前にヴァージャさんとエルさんを見つけてきます」



 ちょうど人の気配がないのを見計らって、フィリアは大慌てで商店街の方へと走っていった。フィリアは元が凡人だし、今はオレの影響で秀才(グロス)級だけど、天才(ゲニー)でも無能でもないし、大丈夫だろうとは思う。というか、大丈夫じゃなかったら困る。


 エルの方はヴァージャが一緒なんだし、あっちは天才と神の激ヤバコンビなんだから心配するだけ無駄だ、むしろあの二人にちょっかい出したやつの方が心配になる。


 ……宿の店主も大丈夫かな。オレたちを逃がしたこと、バレてないといいんだけど……。



「おい、待て。この辺りに反応があるぞ」

「――!」



 近くから聞こえてきた声に両手で口元を押さえて身を低く屈ませた。自分の心臓の音が嫌になるくらい耳につく。口から心臓が飛び出てしまいそうだった。茂みの陰からそっと道の方を覗いてみると、鎧と兜をがっちりと着込んだ兵士らしき三人組が辺りを見回しながらウロウロしている。その手には――いつだったか目にした装置が握られていた。



「(あれ、エアガイツ研究所の連中が使ってた……あんなもんまで強奪してんのかよ! あれって確か……無能がどれくらい力を持ってるか計測するものじゃ、なかった、か……?)」



 ル・ポール村に突撃してきた誘拐犯たちが持ってたやつだ、間違いない。あれを使ってるってことは、装置の反応を辿っていけば――



「こっちの方だ」

「あの茂みの近くか? もしくは宿の中……まあいい、見てみようぜ」



 ――当然、無能のところに行き着くわけで……このままだと即見つかるんじゃ……だって足音、どんどん近づいて……。



「ぐわあぁッ!? な、なんだ!?」

「た、退避! 退避~~!!」



 ほとんど生きた心地がしない極度の緊張状態の中、間近まで迫った兵士たちが不意に悲鳴に近い声を上げた。その慌てようから、自分たちの手に負えない何かがやってきたんだとはすぐにわかる。ああ、フィリアが間に合ってヴァージャとエルを連れてきてくれたのか。



「ヴァージャ――」



 帝国兵が逃げていったことと、ヴァージャが来てくれたんだろうっていう安心感のせいで、うっかりしていた。よく確認もしないで慌てて顔を上げてしまった。その先に本当にヴァージャがいるとは限らないのに。



「……」



 茂みから顔を上げた先――そこにいたのは、青味がかった白銀の長い髪を持つ一人の男だった。歳は……いくつだろう、オレより少し上かな、二十三くらい。異様に見目のいい男だ。バッチリ目が合ってるし、今から隠れ直しても無駄……だよなぁ。



「お前、グレイスだな?」



 男はそんなことを言いながら大股で近寄ってきた。遠慮も何もないし見つかってるしバレてるし、どう切り抜ければいいんだ。今までどんな事態に見舞われても何だかんだ悪運だけは強かったけど、今回ばかりは――



「そんな青くならなくていい。俺は帝国兵じゃないし、お前を捕まえようなんて気もない、心配するな」

「えっ……そういや、鎧着てないな」

「俺はディーア、反帝国組織セプテントリオンの副隊長さ。横暴な帝国兵なんかと一緒にしてくれるなよ」



 反、帝国組織……またなんかフィリアが喜びそうな組織だな。

 自らをディーアと名乗った男は、なんとなく誰かに似ているような気がした。



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