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冗談抜きでヤバそうな武器


 いくつもの巨大な魔法陣から放たれた光弾の群れは、リュゼが立っていただろう場所にものの見事に直撃した。その爆撃したかのような攻撃は地下空間に深刻な亀裂を生み出し、轟音を立てて崩壊し始める。「崩れるぞ」って言ってたけど違うだろ、これは「崩すぞ」って言うんだよ。


 壁が崩れた次は、一階部分の床――つまりオレたちにとっては天井部分が大きな瓦礫と化して降り注いできた。ヴァージャが何の計算もなくこんなふうに崩したりはしないはずだから大丈夫なんだろうと思ってたけど、それらの瓦礫はオレたちに触れることなく次々に周辺に転がり落ちていく。よく目を凝らしてみないと見えないけど、オレとヴァージャを包むように球体型の結界が展開されているようだ。


 やがて、地下空間は天井部分と共にメチャクチャになってしまった。そっと見上げるとそこには既に天井はなく、ただただ空が広がっている。どうやら一階部分も被害を被ったらしい。



「……あんた、何したんだよ……リュゼのやつ死んでんじゃないの……?」

「この程度でくたばるような男ではないだろう」



 ついさっきまでリュゼが立っていた場所には、天井部分が問答無用に崩落して瓦礫の山が出来上がっていた。ヴァージャはいつものようにゆったりとした足取りでそちらに歩み寄り、積み重なった瓦礫を手で崩し始める。程なくして探し当てられたリュゼは本当に生きていたようで、激しく咳き込みながら自分を見下ろすヴァージャを逆に睨み上げた。



「ぐ……ッ、がはっ、テ、メェ……いったい、何者……」



 皇帝の力を練り込んであるはずの槍は刃の部分が粉々に砕け、柄の部分も中ほどからバッキリと折れていて既に使い物にならない。普通の武器ではないはずの槍まで砕かれて、リュゼには本当に目の前の男が何者なのかわからなくなったようだった。


 すると、ヴァージャは暫しそんなリュゼを見下ろしていたものの、やがてその場に片膝をついて屈んだ。こっちからは背中側になってるせいでヴァージャが今どんな顔をしてるかは見えないけど、リュゼの顔面からサッと血の気が引くところを見れば多分メチャクチャ怖い顔をしてるんだろう。



「私はヴァージャ、この世界の創造主だ。お前は今からここで得た一切の記憶を封印される。……だが、一時的なものだ、案ずるな」

「んな……ッ!?」

「再び思い出した時、お前がまた私の相棒を付け狙うのならば二度目はないと思え」

「か……ッぁ、あ……」



 ヴァージャがそう告げると同時にリュゼの身体の下に大きな魔法陣が展開し、その身をやんわりと包み込んでいく。当のリュゼ本人は微かに苦しげなうめき声を洩らしたものの、身に刻まれた傷が癒されていくと糸が切れたように意識を飛ばしてしまった。



「……ど、どうなったんだ?」

「一時的に記憶を封印した、治療はサービスだ。あとは……上の連中だな」

「研究員たちの記憶もどうにかしちまえば……大丈夫かな」

「いや……あれだけのデータ量だ、既に外部に情報が出回っていると考えた方がいいだろう。今回の措置は問題を先送りしただけに過ぎない」



 うわぁ、マジか。確かに、さっき見た資料だけでもかなりの量だったからな。リュゼが「エアガイツ研究所の連中はあちこちで見る」って言ってたし、ここ以外にも研究施設みたいなのはあるんだろう。その他の施設に情報が既に送られた後だとしたら……その拡散を食い止める方法はない、か。


 オレが悶々と考え込んでいると、静かに立ち上がったヴァージャがポンと肩に手を置いてきた。



「どちらにしろ、グレイスやカースを研究する者たちがいるのならいずれはこうなっていた。考え込んでいても仕方ない」



 多分、無能に使い道はないのかと思って研究を始めたんだろうな。もしヴァージャと出会わないでスターブルで普通に暮らしてたら、何もわからないままあれよあれよと色々なことに巻き込まれてたかもしれない。そう考えると、この無敵の相棒と出会えたことはこの上ない幸運なのかもな。



「……そうだな。取り敢えず、村の人たちを連れて村まで戻――うわッ!?」



 気を取り直して村に戻ろうと言いかけたところで、未だ指輪を填めたままのヴァージャの手の周囲に再びいくつもの魔法陣が展開したかと思いきや、それらは次々に空に向けて光弾を放ち始めた。まるで打ち上げ花火のようで綺麗ではあるんだけど、その破壊力をさっき目の当たりにしたせいか、咄嗟に身体がガチガチに強張る。



「な、なんだ、なんだよ! まだ何かいるのか!?」

「だから……ッ、こいつを使いたくないのだ……!」



 ドヒュドヒュと無遠慮に放たれる光弾にヴァージャは珍しくひとつ舌を打つと、いつも涼しげな表情を憤りに歪めて手の平を下に向けた。逆手を腕の辺りに置いて歯を食いしばる様はメチャクチャ珍しい姿なんだけど、強すぎる力のせいかその手が震える様子にハラハラした。


 やがて展開されていた魔法陣が封じ込まれたみたいに空気に溶けて消えたところで、片手の中指には填まっていた指輪がふわふわと浮かび上がり――何事もなかったかのようにヴァージャの横髪にひっそりと落ち着いた。



「そ……それ、何なの……? わりとヤバい武器……?」

「森羅万象という。この世にあるものならどのような姿にもなれる形のない武器だ、……ただこの通り気性難でな。ある程度の力が戻っていなければ、こうして抑え込むことさえできん」



 またそんな……神さまって自分自身が既に反則的な存在なのに、使う武器まで反則級のものなのかよ。ヴァージャがあんなふうに歯を食いしばって抑え込まなきゃいけない武器って、どんだけヤバい力を秘めてんだ。

 ――あれ? そういえば、今までそんなに気にしてこなかったけど……。



「ある程度の力がって……じゃあ、あんたの力ってもうかなり戻ってるのか?」

「ああ、こいつに振り回されない程度にはな。先ほどのが随分と効いたようだ」



 そ、そうか。今までこいつに治癒術を使うことなんてなかったからなぁ……決して楽観できるような状況ではないんだけど、それだけは嬉しい情報だった。

 天井が吹き飛んだせいで見通しのよくなった上の方から、フィリアとエルの声が聞こえてくる。どうやら向こうも無事のようだ、あいつらにも早いとこ報せてやろう。



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