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闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-  作者: mao
第十一章:城塞都市アインガング
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次の目的地は北の都


 翌日、朝の十時頃に会議室に呼び出された面々に告げられたのは、今後の行動についてのことだった。

 博士が昨夜言っていたように、取り敢えずは穏やかな方向で行くらしい。まずは話し合いの場を設けたいという手紙をアインガングまで持っていくこととなった。その重要な役割を任されたのが、昨日あれだけ異を唱えていた『ゼルプスト』だ。ヴァージャに随分遊ばれたのか、すっかり大人しくなっている。


 突然指名を受けたことに本人たちが一番驚いていたようだったけど、微かな戸惑いの末にリーダーらしき男が疑念に満ちた様相で口を開いた。



「……俺たちにはおつかいがお似合いってことですか?」

「何を言っとる、これは何より重要且つ危険な役割だぞ。お前さんたちの腕を見込んで言っとるんだ」

「きみたちは北の大陸で名の通ったクランだと聞いた。帝国だって馬鹿じゃない、実力のあるクランに最初から攻撃を仕掛けてはこないはずだ。これは、知名度のあるクランにしか頼めないことなんだよ」



 呆れたように答えるサンセール団長に続いてグリモア博士が諭すように告げると、彼らは仲間内で軽く目配せしてからぎこちなく頷いた。反発するかの如く異を唱えていた自分たちが頼りにされるなんて思ってもいなかったんだろう。戸惑いの中に確かな嬉々も見受けられた。

 けど、次にその中にいた一人の女性が一歩前に足を踏み出す。眦がつり上がった勝気そうな女性だ。



「ずっと思ってたんだけどさ、わざわざ行かなくてもこの城で帝国を攻撃できないの? 帝都を空からやっちまえば終わりじゃん?」



 その、あまりにもハッキリとした発言に隣にいるフィリアがぎくりと身を強張らせるのがわかった。確かにヴァールハイトから帝都に向けて攻撃をぶちかませば一方的に叩くだけ叩いて終わるだろう。こっちは空、向こうは地上。魔術を使われたところで、神さまの城なんだから防衛機能だって半端じゃないはずだ。きっと痛くも痒くもない。


 でも、あまりにも乱暴だ。帝国兵の横暴さにはオレだってうんざりしたけど、だからと言って帝国にいる連中が全員皇帝と同じように考えてるとは限らないんだ。それに、帝国にはフィリアの両親だっている。問答無用に攻撃を仕掛けて、もしそれに彼女の親が巻き込まれたらと思うと――とてもじゃないけど賛同なんてできない。サンセール団長は厳つい顔を困ったように歪めて、軽く頭を掻いた。



「仮に、きみの言うようにこの城で帝都を吹き飛ばしたとしよう。……その後は?」

「は? いや、だって……皇帝さえやっちまえばそれで終わりでしょ?」

「単純に今の皇帝を排除しても、すぐに次の皇帝が現れて同じように力で支配を続けるだけさ。……それどころか、一方的に攻撃を仕掛ける行為は虐殺だ。地上の者たちはこの城を――神を恐ろしいものと認識して、次はこちらに牙を剥くかもしれない。帝都の者たちにも家族がいるだろうし、残された者が復讐のために立ち上がる可能性だってあるんだ。そうなったら戦いと憎しみの連鎖はずっと終わらない」



 ……そうだな、現にヴァージャは過去にそういう経験したことあるんだよな。人間たちが助けを求めてきたから助けたら、その力を目の当たりにした一部の人間たちが神を恐れたんだっけ。そのヴァージャは今、この城を北の大陸の方に向けて動かしてるからこの場にはいないけど、……いなくてよかった。嫌なこと思い出させる必要ないもんな。

 博士が淡々として語る話は、ちゃんと彼女にも届いてくれたようだ。それ以上は何も言わなかった。


 それにしても、改めて考えると難しい話だ。

 オレの目的はこの世界の在り方を変えること。そのためには、力の象徴となってる皇帝を今の座から引きずり下ろすっていうフィリアの目的が一番の近道ではあると思う。……でも、その後はどうしたらいいんだろう。



 * * *



「お手紙を届けにいくだけなら、私たちに頼んでくれてもよかったんですよ」



 会議が終わって他の面々が部屋を出て行くと、フィリアが真っ先に口を開いた。それに同意するように頷くエルやサクラを見れば、どうやらこの三人はあの『ゼルプスト』っていうクランがあまり好きではなさそうだ。そりゃあな、オレだって苦手な方だよ。けど、博士は「はは」と笑ってから小さく頭を横に振った。



「スコレット家がどう出てくるかわからない状態でリーヴェを行かせるわけにはいかないよ、彼らが名のあるクランなのは確かだし……きみたちには別に頼みたいことがあるからね」

「えっ、なんですか?」



 ……そういうとこ、やっぱりちゃんと考えてくれてるんだな。確かにオレがのこのこ出て行ったら突然襲撃されるかもしれない。

 フィリアが不思議そうに瞬くと、博士の代わりにその隣にいたディーアが答えてくれた。



「今や北の大陸も、どこに帝国兵が潜んでるかわかったものじゃない。ゼルプストの連中が上手くやってくれても、潜伏してた帝国兵に交渉の時になって背後から攻められる可能性も……ないとは言えないんだ。だから、俺たちはアインガングの周辺に危険がないかどうかを確認しに行きたい」



 南の大陸と違って、北の大陸は帝国領と地続きだ。

 アインガングが関所の役割も担ってるわけだけど、帝国兵なら問題なく北の大陸に出てこれる。だから無能狩りであちこちの場所に現れたわけで。あらゆる可能性を想定して、北の大陸の街や村に帝国兵を潜伏させておくことだって簡単にできるはずだ。



「なるほど、この組織の人数なら手分けして調べても大丈夫そうね」

「ああ、他のクランにも調査に出てもらうことになってる、俺たちはアンテリュールに向かう予定だ。あそこはとにかく広いからな、念入りに調べたい」

「アンテリュールですか! エルさんって、あそこの出身なんですよね?」

「はい、離れてそれなりに経つけど……みなさんを案内するくらいならできると思います」



 南の都に行ったかと思えば、今度は北の都か。オレたちって元々アンテリュールを目指してたはずなんだけどなぁ……それが無能狩りとかに巻き込まれて、いつの間にやら目的が打倒帝国になっちまった。


 ……まあ、いい仲間たちに出会えたって思えば悪くないか。


 とにもかくにも、次の目的地は北の都アンテリュールだ。案内にエルがいるなら迷うこともないだろ。


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