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闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-  作者: mao
第十一章:城塞都市アインガング
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難攻不落の城塞都市


 グリモア博士に割り当てられた部屋は、居住区の端の方にある場所だった。

 左右前後が他の部屋に囲まれていると調べ物や研究の際に気が散る、という博士の要望によるものだ。他の部屋と離れているこの一角には、少しばかり物寂しさを覚える。


 現在の時刻は――もうすぐ日付が変わる頃。さすがにこんな時間に訪ねるのは非常識かとしばらく悩んだ末に、ちょっと控えめに扉をノックしてみた。すると、そう間も置かずに中から「開いてるよ」という、いつもと変わらない調子で返事が返る。どうやらまだ起きてたらしい。……いや、人造人間って寝るのかな。


 そっと扉を開けて部屋の中に入ると、もう寝ようと思ってたのか、部屋の明かりが落ちていた。頼れる明かりと言えば部屋の突き当たりにある広々としたテーブルに乗る……なんだ、あれ。ロウソクには見えないし、ランタンでもないし……光の、珠?



「やあ、リーヴェ。まだ休んでなかったんだね」

「あ、ああ、……博士は? もう休むところ?」

「いいや、部屋が明るいと集中できないんだ。頭を使うには暗い方が落ち着くんだよ」



 テーブルの方に歩み寄ってみても、その明かりの正体はわからなかった。何かがあるようには見えないし、本当にただただ丸い光の珠がテーブルの上にあるっていうだけ。大きさは小ぶりのミカンひとつ分くらいのものだった。

 それをまじまじと眺めていると、椅子に腰掛けていた博士がその明かりとオレとを何度か交互に見遣ってから「はは」と笑う。



「これ、珍しいかい?」

「うん、なにそれ。蛍光石とも違うみたいだし」



 博士のすぐ隣まで足を向けてじっくり眺めても、そこには明かりを灯すような物体らしい物体がない。ロウソクなら燭台があるだろうし、ランタンだって明かりを入れる物があるはずだ。これ、どうやって光ってるんだろう。


 頻りに疑問符を浮かべるオレを後目に、博士は机に向き直るなり白い紙にサラサラとペン先を走らせた。丸い円を描いたかと思いきや、その円に沿うように内側に文字――らしきものを書き込んでいく。その矢先、テーブルにある明かりと同じように、今度はその白い紙の上にも丸い光が出現して室内を照らし始めた。



「えっ、えっ!? な、なにそれ、手品か何か!?」

「ははっ、いい反応するね。……見えるかい、この円の内側。ここに書いたのは、文字そのものが魔力を持つ極めて珍しい言語なんだ。組み合わせ次第で色々な効果を持たせられるんだよ、こうやって照明の代わりにしたりね」

「へえ……ってことは、ヘルムバラドのアトラクションとかも……これ?」

「そう、ご明察。一文字でもかすれたり消えたりすると効果はなくなるけど、それ以外では面倒なメンテナンスもいらない優れものさ」



 なんか……すごいな。魔力を持つ言語だなんて、そんなのあるんだ。ヴァージャも知ってるかな。オレは今まで見たことも聞いたこともないぞ。

 最初にあった小さめの明かりと、今目の前で誕生したばかりの少し大きめの明かり。それらふたつが、明かりの落ちた室内を優しく照らす。暖色系の明かりは暖かみがあって、なんとなくホッとするようだった。



「……あ、それ帝国の地図?」

「うん、そう。さっき()()言われちゃったからどうしようかなって考えてたところさ」



 ――博士は帝国を攻めるなら南側から、と考えていたようだけど、会議室で異を唱えた連中が言い張ったのは「そんなに優秀な参謀なら北から攻める策だって考えられるはずだ」なんていう、無茶ぶりだった。

 グリモア博士はひとつ疲れたように「ふう」とため息を洩らした後、椅子に深く寄り掛かる。……いくら人造人間って言っても、疲れるよなぁ。



「まあね、彼らの言うことも別にメチャクチャじゃないんだよ。帝都の位置を考えるに、南から北上していくならそれなりに時間がかかる。もちろん、その分しっかりと手筈は整えておくつもりだったけど、北から行けるなら一番いいとは僕も思う」

「……そうなのか?」

「うん、帝国の北側の入り口はアインガングだ。帝都はそのアインガングからはほとんど目と鼻の先にある。つまり、ここを突破できれば帝都はすぐなんだよ、皇帝に満足に準備をさせることなく乗り込むことだってできる」



 淡々とした口調で説明していきながら、博士が「ここ」と示すようにアインガングの文字を円で囲う。確かに、こうやって地図でそれぞれの位置を見てみると、アインガングと帝都は非常に距離が近い。そこまで説明して「でも」と博士が続けた。



「乗り込むと言っても、僕たちは別に戦争がしたいわけじゃないだろう、目的はあくまでも皇帝を倒すことだ。じっくり攻めるんじゃ、下手をすると全面戦争になる可能性がある。……だから、北から行くのは僕も賛成だよ」

「まあ、うん。そうだな。……でも、そのわりにはなんか難しい顔してるけど……」



 なんだ、あいつらもメチャクチャな難癖をつけてたわけじゃないのか。こんな戦いは早いところ終わる方がいいし、それならオレも北からっていうのに賛成だけど……気になるのは、そう言いながらも博士が何とも形容し難い難しい顔をしてることだ。



「帝都がここに築かれたのは、城塞都市と言われるアインガングが難攻不落の要塞だからだ。攻略のための策はいくつかあるけど、どれも絶対安全だとは言えない。少しでもヘマをすれば多くの犠牲が出ることだってある、……だから、リーヴェ。きみにひとつ聞きたい」

「ん?」



 ……なるほど、城塞都市の近くに帝都を築いたのは「アインガングが陥落することはない」っていう余裕の表れみたいなものなのか。先代の皇帝様はデキた人だったと聞いたけど、帝国を築いた初代皇帝も結構な自信家だったのかもしれないなぁ。

 なんて考えてると、いつになく真面目な様子でグリモア博士がジッとこちらを見上げてきた。



「……お父さんとお母さんに会いたい?」



 そんな、すぐには答えが出せそうもないことを口にして。

 ……そういや、そのアインガングにはオレの親……がいるかもしれないんだっけ。


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