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闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-  作者: mao
第十章:エアガイツ研究所の天才博士
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帝国兵と研究員


 翌日、朝食もそこそこにオレたちは再び迷いの森を進み始めた。

 今日はヴァージャが先頭を行き、辺りの木々で麗しくさえずる小鳥たちに出口がある方を聞きながら進むことになった。便利だよなぁ、野生の生き物と話せるってのは。


 取り敢えず、これなら必要以上に迷うこともないだろう。そうなると、仲間内で話題になるのが昨夜ヴァージャに聞いた例の話だ。



「じゃあ、ヴァージャさんにもよくわからない何かがいるかもしれないってことですか?」

「まさか、そんなことあるのか? ヴァージャ様は神さまなんだぞ、あっていいようなことじゃない」



 フィリアが驚いたように呟くと、それに真っ先に反応したのはディーアだった。さすがヘルムバラド出身ということもあってか――いや、マティーナの兄ちゃんだからか、こいつも神さま狂信者なのかも。


 けど、気持ちはオレだって同じだ。今まで見てきたヴァージャの何でもありな力の数々を以てしても正体がわからない何かがいるかもしれない、あるかもしれないなんて俄かには信じ難い。エルとサクラも複雑な表情を浮かべていた。



「考えられるのは……地上を見通すヴァールハイトの存在に気付いているか、もしくは……ヴァールハイトが理解し得ない何かだろう」

「そんなもんこの世界にあんのかよ……で、その正体不明の何かがいそうなのってこの辺りなのか?」

「もう少し先に進んだところだな、森の出入口と都の辺りだ」



 駄目だ、どれだけ考えてもまったく想像できない。とにかく、森を出る頃に注意が必要ってことか。ヤバいものじゃなければいいんだけど。ヤケクソになった研究所の連中が何か得体の知れないものを生み出した……とか、さすがにないよなぁ。多分。



 * * *



 青々と茂る木々が徐々に薄くなり、もうそろそろ出口も近いかなって思い始めた頃。いつ何が起きても、現れてもいいように警戒しながら進むオレたちの気を引いたのは、どこからか聞こえてきた助けを求める声だった。「誰か、助けてくれ」という悲痛な声が確かに聞こえてくる。それと同時に複数人の怒鳴るような声も。


 当然、みんなにその声が聞こえないはずもなく。エルとフィリアは慌てたように辺りを見回し、サクラはそんな二人の後方にそっと寄って周囲に意識を向けた。こういうところは、やっぱり普通の女性だ。この中で子供に分類される二人に対する庇護欲みたいなもんだろう。エルは多分サクラより強いけど、強い弱いの話じゃないんだ、きっと。



「ヴァージャ、今の声、どこから……」

「この近くだと思うが……」

「任せてくださいよ、召喚術ってのはこういう時に便利ですからね」



 如何せん三百六十度、どこを見ても木、木、木だ。声が辺りに木霊したのもあって、正確な方向がまったくわからない。すると、ディーアが軽く指を鳴らして宙にひとつ魔法円を()び出した。


 何をするのかと黙って見ていたら、次の瞬間――魔法円から勢いよく白と茶の毛にまみれた毛玉が飛び出してきた。ピンと立った耳、短い手足、ぽてりとした尻とぶんぶん振られる尾。勢いあまって腹で着地を果たしたその生き物は――犬だ。それはそれは嬉しそうに目を輝かせて、舌を出しながらこちらを振り返る。



「トロイ、今聞こえた声の出どころを探してくれ。人を見つけてもいきなり襲いかかったら駄目だぞ」



 どうやら、召喚獣というよりはただの犬にしか見えないその生き物は「トロイ」という名前があるらしい。ディーアの言うことを理解してるのか、向けられた指示に「ワンッ」て元気よく鳴いてから、一目散に飛び出した。手足は短いのにこれがまた異様に速いんだ。必死に駆ける後ろ姿が愛くるしくて、ふわふわで、なのに変にもっちりとしてて堪らないものがある。オレの隣を走るフィリアなんて目を輝かせてるくらいだ。


 ディーアを先頭に、全員でトロイの後を追いかける。森の出入口方面に向かい、その途中でトロイは道を外れて獣道へと飛び込んだ。ほとんど道とも呼べそうにない中を突き進んでいくと、その先には――



「はははっ! こんな森の中に誰がいるってんだ? 助けなんか来るわけないだろ!」

「どうせ誰もいないんだ、好きに叫ばせてやれよ」

「そうだそうだ、黙らせるのは可哀想だろ?」



 見覚えのある鎧を着込んだ男たちだった。あれは間違いなく帝国兵だ。それも一人や二人じゃない、軽く見ても三十人近くいる。その奥には木々に紛れるようにして建物が見えることから、あれが研究所で、襲われてるのが研究員だろう。地面の上に転がされて足蹴にされる者や、胸倉を掴まれて剣を突きつけられる者など様々だ。さっき聞いたあの悲鳴は、この研究員たちの誰かが上げたものに違いなかった。


 当然、ウチのメンバーはフィリアを筆頭にそんな光景を見て我慢できるような連中じゃなくて。フィリアは宙に五つほど魔法円を展開させるなり、完全に油断してると見える帝国兵たちの背中に思いきり雷の弾を――雷撃を叩きつけた。それは握りこぶしひとつ分ほどのあまり大きくないものだけど、威力だけはピカイチらしい。雷撃がぶち当たった帝国兵たちは引き攣った声を上げて、その場に崩れ落ちた。



「んな……ッ!? なんだと!?」

「こんな森の中にだって誰かはいるんですよ!」

「ふ、ふざけやがって! おい、先にあいつらを片付けるぞ!」



 フィリアからの不意打ちを喰らった連中は全身が痺れて動けないらしく、倒れ込んだまま悶絶している。けど、ほんの数人やったところで、向こうはとにかく人数が多い。トロイはディーアの傍で勇敢にも唸りながら威嚇してるし、エルもサクラも愛用の得物を手に臨戦態勢、このまま話し合いとかでどうにかなるような状況じゃなかった。



「リーヴェ、私の後ろにいなさい」

「あ、ああ、……うん」



 ……こういう時、オレはみんなと違って守られるしかないのが本当にどうしようもなくもどかしい。オレだって、帝国兵の横暴さにはムカついてるのに。

 例えオレが戦えたとしても、ヴァージャはこうやって自分を盾にするんだろうけど。


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