表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません  作者: 廻り
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/102

58 ノアと三年後6

 アウリスは悲しそうな表情で、ライラを見つめる。さほど驚いてもいない義兄は、まるでこうなることを予想していたように見える。

 先ほどから様子がおかしいアウリスに、何を知っているのか尋ねようとしたライラの後ろから、シーグヴァルドが声をかけてきた。


「そういえば、ライラも公爵令嬢だったよね」

「えぇ、そうですわ……」

「もしよければ、俺と結婚してくれない? ライラとは気が合うし良い関係を築けると思うんだ」


 表情に乏しい彼だけれど、ライラにだけは微かに微笑んでくれる。

 お祭りで会っただけのシーグヴァルドにそう求婚されたなら、少しは嬉しかったかもしれない。

 けれど今の彼は、何を考えているのかわからなくて恐ろしく感じてしまう。

 言葉が出ずにいると、アウリスがライラの代わりに口を開く。


「先ほども申し上げましたが、ライラはもう人とは違う存在です」

「神と同じだけの命を与えられたんだよね。にわかには信じられなかったけれど、ライラが成長していないから本当なんだろうね」

「他国からの妃がずっと帝国の権力を握るのは、帝国にとっても不都合ではありませんか」

「ライラに何千年も皇后を続けろなんて言わない。俺が生きている間だけで良いよ。そうだな、五十年間だけ俺と結婚して」


「それとも、他に結婚を約束している相手でもいるの?」とシーグヴァルドは付け加える。

 シーグヴァルドは、それなりにライラの情報を得ているようだ。

 この国では、皇太子の妃として相応しい相手がライラしかいないことも知っての上で、国王に願い出たのかもしれない。


「他にお相手がいた場合は、諦めてくださいますの?」


 なんとか回避する手立てはないだろうかと思いながらライラがそう尋ねると、シーグヴァルドはうなずく。


「先ほども言ったけれど、無理強いはしない。けれど理由もなく断られるほど、俺はライラに嫌われていないとも思っているよ」


 理由次第では大人しく引き下がらないとも取れるような言い方に、会場には緊張が走る。

 帝国ならば、それを口実に戦争を仕掛けてくることだってありえるのだから。


 ライラは公爵家の娘として生まれたので、貴族の義務ならば他国に嫁ぐ覚悟もある。けれど今はノアの従者だ。

 国王もライラを嫁がせるべきではないと判断しているからそこそ、困った表情をライラに向けているのだろう。


 せめてシーグヴァルドが帰国するまでの間だけでも、考える時間をもらおうと思ったライラ。

「精霊神様とご相談する時間を――」と、言いかけたところで向かいのテーブルに着いていたマキラ公爵が突然立ち上がった。


「恐れながら、皇太子殿下に申し上げたいことがございます」

「なに?」


 シーグヴァルドの冷たくも見える無表情にもたじろぐことなく、マキラ公爵はじっと彼を見据えている。

 彼はこの提案を回避する策でもあるのだろうか。

 誰もが公爵の発言を待ち構えていると、公爵はライラに『任せろ』とでも言いたげな笑みを浮かべてからシーグヴァルドに視線を戻す。


「誠に申し上げにくいのですが私の次男とライラ様は、貴族中が噂するほどの恋仲でございます」

「まっ……!?」


 思わず叫びそうになったライラは、何とか口を噤んだ。


(マキラ公爵! 何をおっしゃいますの!?)


 会場からは「やはりそうでしたのね」「噂がずっと消えませんでしたもの」と囁き声が聞こえてくる。未だに噂が消えていないというのは、本当のことだったようだ。

 断る口実としては良いのかもしれないけれど、マキラ公爵が公言してしまえば皆が事実だと思ってしまう。


 その後はどうしてくれるのだと、ライラは公爵を恨めしく思いながら見つめた。けれど公爵は周りの貴族から祝福の言葉をかけられてご満悦の表情。


「お義兄様、どうしましょう……」

「マキラ公爵も抜け目ないね。まさかここでオリヴェルとの結婚を推し進めるとは。今なら国を救う手段として対立派閥からも非難されないだろうね」

「冷静に分析しないでくださいませ……」

「俺だって冷静ではいられないよ。今は俺がライラをこの手に抱いているのに、誰も俺達が結婚できるという事実に気がつかないとは……。どうやら義兄という立ち位置を浸透させすぎたようだ」


 おかしな発言をしているアウリスは、確かに本人の言う通り冷静ではないようだ。

 ライラが再びノアに助けを求めたくなっていると、シーグヴァルドから声がかかる。


「公爵の発言は本当なの? ライラ」

「あの……、秘密ですわ……」


 ライラが曖昧に答えると、シーグヴァルドは見透かしたように小さく笑ってから、マキラ公爵へと向き直る。


「それで、公爵は次男とライラを結婚させるつもり?」

「皇太子殿下は先ほど、ライラ様のご意志を尊重してくださるとおっしゃいました。ライラ様に対しまして、お気持ちを整理する時間をいただきたく存じます」


 マキラ公爵の発言を受けたシーグヴァルドは、帰国するまでに返事をすれば良いと猶予を与えてくれた。

 ライラとしては、友人のように接してくれているシーグヴァルドならば、このような大ごとにせずとも時間をくれたのではと思えてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ