43 ノアとお祭り3
「え? 違うと思いますわ。偶然ぶつかっただけですもの」
「ライラ……、世の中には偶然を装って近づく者もいるんだよ。お菓子をあげるからと言われて、ついていってはいけないよ」
「もうお義兄様ったら、わたくしは子供ではありませんことよ! 心配なさらずとも、わたくしはお菓子を差し上げた側ですわ!」
アウリスの懸念に対してライラが胸を張って答えると、またもオリヴェルがため息交じりに口を開く。
「ライラちゃん……、そういうのを餌付けっていうんだよ……。だから引き留められちゃったんじゃないの?」
「そういえば、人から物を貰うのは初めてだと……」
シグは旅装だったけれど、それなりに仕立のよさそうな衣装を身にまとっていた。
今にして思えば、人から物を貰うのが初めてというのは珍しい。特殊な環境で育ったのだろうかとライラは首を傾げた。
そんなライラの姿を見て、露骨に三人は不安そうな顔でライラを見つめる。
ライラは視線を感じて、ハッと我に返った。
「大丈夫ですわ、シグは大切な方を迎えに旅をしてきたそうですの。もう会うこともないと思いますわ」
「名前で呼んじゃってるよ……」
「ライラを一人で買い物にいかせるのは危険だ」
オリヴェルとノアの発言に、アウリスも賛同するようにうなずいている。
そういえばメイドも伴わずに一人で買い物へ行ったのは、初めてだったとライラ気がついた。
自分としては、危険な目にも合わなかったし上手く買い物できたと思っていたのに。
過保護な親よりも過保護なノアが、三人に増えたような気分だ。
「もう……、皆様には差し入れは必要ないようですわね!」
ライラが荷物を抱えて他の人達の元へ向かおうとすると、三人は慌てた様子でライラを引き留めるのだった。
ありがたいことに、バザーは夕方前には完売できた。いつもは売れ残りが出るのに、今年は異例の売れ行きだったとバザーの主催者であるマルコは喜んでいた。
今年は孤児院への寄付の他に、子供達にもお祭りのおこずかいを渡すことができたようだ。
寄付金の贈呈式が終わった後、バザーの手伝いをしていた者達は一ヶ所に集まっていた。
皆が囲んで見つめているのは、集計された結果が書かれている紙。
オリヴェルが伏せてある紙を裏返して結果を発表すると、皆は様々な反応を見せる。
ライラとのデート権を巡って始まった勝負だったけれど、単純に順位を競うものとして楽しんでいた者も多かったようだ。
「やっぱり一位はアウリスか……。腐っても王子だよね」
「それ冗談になっていないよ……、オリヴェル。俺は誤解を受けると困るから、残念だけれど辞退するね」
アウリスも、今では立派に一児の父。
ライラとは義兄妹として適切な関係を築いてくれているので、ライラも安心をしている。
『実は領地運営は上手くいっていなかったんだ。お祭りの準備でライラが俺を連れまわしてくれたおかげで、少し領民との関係を改善できそうだ』
準備中にぽつりとそんなことを洩らしていたアウリス。
今回のお祭り主催を通して、領民にもライラとアウリスの関係が良好なことを見せることができたようだ。
領地での信頼を得るために、噂の火種になるような行為は避けたいという考えもあるのだろう。
「っとなると二位は俺だけど……、俺も辞退しようかな。ノア様の視線が痛いから」
「俺は何も言っていない」
オリヴェルの視線を受けてノアは不貞腐れたように視線をそらした。
ノアはの名前は、紙の一番下に書かれている。
離宮に仕える聖職者としては、忖度せざるを得ない状況のようだ。
「では三位は……」
「きゃー! 私です!」
嬉しそうに声をあげたのは、精霊神聖堂に仕える聖職者の女性。
直接彼女と話したことはないけれど、ライラは精霊神聖堂に通い詰めていたので顔だけは知っている。
彼女は、他の女性聖職者も一緒にと希望したので、ライラは彼女達とデートをすることにした。
ゆっくりと話せる場所が良いそうなので、ライラはいつも利用しているカフェへと案内した。
ここは貴族が一緒でなければ入れないカフェなので、売り上げに貢献してくれた彼女達にいつもとは違う空間を提供しようと思う。
「ライラ様ありがとうございます! 私、一度で良いからこちらのカフェへ入ってみたかったんです!」
個室へ案内されると、彼女達はとても喜んでくれた。
このカフェにはさまざまなテーマの個室が用意されており、ライラが好きな個室はここ。女性が好きそうな可愛らしい内装になっている。
席についてお勧めのスイーツを紹介しながら注文を終えると、女性達は待ってましたとばかりにライラに注目した。
「ライラ様は、オリヴェル様とノア様のどちらとご結婚をお考えなんですか!」
「……へ?」





