まったりできない七草粥
拙作をお読み頂き、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
かなーり遅ればせながらランキング入りのお礼&今年もよろしくお願いいたします投稿です。いつもありがとうございます。
店頭に並んだ七草粥セットを見ると思わず手に取ってしまう。この食材を一品ずつ揃えようと思うと億劫なのに、全てセットされていると手に取るマジック。JA恐るべし。
せっかくだから、今日のおススメメニューにしちゃおう。
次々とカゴに七草粥セットを入れていそいそとレジに向かった。
「のりちゃん、なんだか大荷物だね。言ってくれれば僕もついて行ったのに。」
「コーキがついてくると、余分なものばかりカゴに入れるからやなのっっ。」
「そんな余分な物ばかり買ってるつもりはないんだけどなぁ。」
コーキが、後ろから首に腕を巻きつけて肩に顎を乗っけてきた。噂のバックハグってやつだ。コーキは、最近スキンシップが激しくなってると思う。恥ずかしくて、心臓はバクバクするのになんだかホワンと胸が温かくなる。子供の頃はあんなにコーキにひっついていたのに、コーキの事を異性として好きと自覚してからはちょっとした接触に過敏になってる。このなんとも言えない甘酸っぱさを断ち切るべく、コーキの腕をバリッと引き剥がし、なるべくキリッとした顔に見えるように振り返ると、
「明日は、七草粥定食一択でいくからっっ。」
と高々と宣言してみた。
パックの七草粥セットの中の大根と蕪をスライスして先に茹で、他の菜っ葉類を投下。
お粥は炊飯器で炊いちゃって後から七草をまぜまぜする予定。
「のりちゃん、お手伝いすることある?」
コーキが厨房ですり寄って来たので、箸休めの梅干しと、たくわんを小皿にならべてもらった。
白菜の浅漬けと悩んだけど、お粥に一味足すならこちらだろうと決めたのだ。
コーキは、私が小さな頃から火傷や包丁傷がつかない様に過保護なくらい暑苦しくへばりついていたけど、今となってはそれが気恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
……本人に伝える気はないけどね。
七草粥定食用に豚汁を作り、ご近所で趣味=畑な奥様から頂いたチンゲンサイをナムルにする。
お盆に盛り付けてみて全体のバランスを見る。
本日は胃を休める日だから肉、魚、はいらないかなと思ったけど、ちょっと味気ないかなと思い、ローストビーフを2切れ足すことにした。
出来上がった定食を見てコーキが眉間にシワを寄せる。
「のりちゃん。こんなの出したらもっとお客さんが増えちゃうじゃないかな。」
「私は、お客さんが増えて欲しいんだけど、なんで増えちゃだめなの?」
「のりちゃんの、ご飯たべれるのは僕だけがいい!!」
「あ〜はいはい。いつでもコーキには、食べたい物つくってあげるよ。」
普段しれっとしている大人びたコーキの我儘に、不意打ちを食らった私は、赤面しそうだったから、ふいっと顔を背けて返事をしたけど、あの麗しい顔のコーキに気の利いた一言など言えず、意味もなく豚汁の鍋をおたまでグルグルかきまぜた。
自分が作ったご飯を誰かが期待してくれている。それだけで私の存在意義があるのに、それを独り占めしたいと公言するコーキが愛おしい。
イナリの桃を食べてしまった私は、いつまでもコーキのご飯を作り続けれる幸せを得た。
さてさて明日は何を作ろうかな?




