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悪の組織のボスごっこが大好きな僕、「悪人ごっこ」好きが集まるクラブにて、悪の女幹部ごっこ好きな女性と出会う  作者: エタメタノール


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第4話 僕は悪の女幹部に恋をする

 『極悪人クラブ』で僕とリサはいつものように悪の組織ごっこをやっていた。


「リサよ、人間どもの生き血で乾杯しようではないか!」


「ええ、乾杯」


 もちろん中身はトマトジュース。人間の生き血なんて絶対健康によくない。


「フハハハ……甘くてうまいな」うまいというのは本心である。


「ええ、新鮮でおいしいわ……ボス」微笑むリサ。


 しかし、こんな楽しいドリンクタイムを邪魔する者がやってくる。黒田だ。

 いかにもチンピラらしい肩をいからせる歩き方で僕たちに近づいてくる。


「よう、お二人さん」


「黒田さん……」僕は顔をしかめる。


「おいおい、同じクラブの仲間だろ? そう邪険にしないでくれよ」


「……」


「それに今日はそっちのリサちゃんに用があるんだ」


「え、私……!?」


 驚くリサ。僕らの仲を冷やかすことはあっても、リサだけに絡むというのは初めてのことだった。


「な、なんですか」


「リサちゃん……俺の女になってくれよ」


「え……」


 黒田はさらにリサに体を寄せてくる。セクハラといってもいい行為だ。


「なぁ、いいだろ?」


「ちょっ、やめて下さい」


 いきなりのナンパにリサも戸惑っている。


「俺、ずっと前からあんたに目ぇつけてたんだ。なぁ、どっか遊びに行こうぜ」


 これもごっこ遊びの一環だろうか? いやとても「チンピラごっこ」とは思えない。本気のナンパに見える。

 さすがに僕も注意する。


「黒田さん、あの、このクラブではそういうの禁止だって……」


「別にあんたの女じゃねえだろ? すっこんでな」


 黒田に睨みつけられ、僕は足がすくんでしまった。


「さ、このクラブ出て飲みにでも……」


「私は……!」


 無理矢理リサを連れていこうとする黒田に、僕もついかっとなった。


「やめんかっ!!!」


 自分でも驚くような台詞が出た。


「リサは我の大切な幹部! 貴様如き下郎のものではないわ!」


 こんな時にもボスになりきってしまった。いや、こんな時だからこそというべきか。


「あぁ~?」


 黒田は恐ろしい形相で僕を睨みつけてくる。

 はっきりいってかなり怖い。メチャクチャ怖い。

 しかし、ここで目を逸らしたら負けだと、必死に喰らいつく。

 殴りかかられたら勝てる自信はない。が、とにかく睨み返すしかなかった。

 取っ組み合いがすぐにでも始まりそうな張り詰めた空気が続く。


 やがて――


「黒田さん、ルール違反が過ぎるんじゃないかのう!?」


 ヤクザ役の岩見さんが助けに入ってくれた。


 さらに他の人々も続く。


「『極悪人クラブ』をなんだと思っておる!?」魔王っぽい野間さん。

「ナンパ行為は地獄に落ちるべし!」鬼コスプレの鬼塚さん。


 他の仲間も僕の擁護に回ってくれた。

 大勢に囲まれ、黒田もたじろぐ。


「ちっ……」


 ついに黒田がリサから離れた。


「今日はこんぐらいにしとく。だが……片桐!」


 黒田と目が合う。


「俺に偉そうなクチをきいたこと、必ず後悔させてやる。必ずな」


「……!」


 そう言って、黒田は出ていった。


 リサが僕に礼を言う。


「ありがとう、片桐さん!」


「いやぁ……僕なんて。足がすくんじゃって……」


 他のメンバーも黒田に立ち向かった僕を絶賛してくれる。


「すごかったよ! よく立ち向かった!」

「彼にはいい薬になっただろう」

「まさにボスって感じの迫力だったよ!」


「アハハ、どうも……」


 照れながらも悪い気はしない。この件で、僕は仲間から一目置かれる存在となった。

 しかし、僕は黒田が放った一言が気になっていた。


 俺に偉そうなクチをきいたこと、必ず後悔させてやる――



……



 この日の帰り際、リサが僕に声をかけてきた。


「ねえ、片桐さん」


「なんだい?」


「さっきは本当にありがとう。よかったら今夜食事にでも行かない?」


「よ、喜んで……!」


 まさかの誘いを、僕は喜んで受け入れた。



***



 僕たちは『極悪人クラブ』の近くにあった洒落たレストランに入った。

 さすがにこんなところで悪の組織のボスになりきるわけにはいかないので、普通に会話する。

 リサは僕にお礼を言ってきた。


「片桐さん、さっきはありがとう」


 黒田との一件のことだろう。


「僕は大したことしてないよ。他のみんなが助けてくれなきゃどうなってたか……」


「ううん、片桐さんが助けに入ってくれて、本当にほっとしたもの」


「アハハ……」


 黒田と一触即発になった時のことを思い出し、本当にヒヤッとする。

 殴りかかられてたらどうなってたことか。

 奇跡的に僕が勝てたとしても、きっと『極悪人クラブ』の空気は最悪になっていただろう。


「でも、最後に言ってた言葉がちょっと心配。“後悔させてやる”って」


「大丈夫だよ。黒田さんもチンピラごっこにのめり込みすぎただけだと思うし、次の極悪人クラブにはまた普通にやってくるんじゃないかな」


 こう言いつつ、僕自身不安なのは事実だった。とにかく報復がないことを祈るしかない。

 話題は移り変わる。


「片桐さんはどうして悪の組織のボスに憧れたの?」


 そういえばこういうことを聞かれるのは初めてだった。

 僕は子供の頃を思い出しながら答える。


「僕は……昔から悪役が好きで。アニメを見れば悪役を、特撮を見れば怪人を応援するタイプの子供だったんだ」


 リサは微笑みながら聞いてくれる。


「悪の組織のボスはいつも勝てない。いつも負ける。でも絶対諦めず、ヒーローに挑み続ける。そんな姿が好きだったんだよね」


 敗退を重ねる悪役たちの姿を思い浮かべ、僕は続ける。


「もちろん、ヒーローが嫌いってわけじゃないんだ。ヒーローもかっこいいし、応援する気持ちもある。だけど、それ以上に悪役が好きになっちゃって……」


 リサはうなずいてくれる。


「そのうち悪の組織のボスごっこなんてのを始めるようになって、僕の趣味を知ってる同僚に『極悪人クラブ』を紹介されて……今はとても楽しいよ。クラブに入ってよかったと思ってる」


 あまりまとまりのない話になってしまったが、リサは共感を抱いたような顔をしていた。


「私もそうよ。子供の頃、女の子が変身して戦うアニメをよく見てたけど、悪人たちはいつも負けちゃうの。悪いことしてるんだから負けるのは当然なんだけど、つい贔屓するようになっちゃって……」


 だいたい僕と同じような経緯で悪役贔屓になったようだ。


「僕たち……似た者同士かもしれないね」


「そうね!」


 その後は好きだった悪役談議などで盛り上がる。実に楽しい食事となった。


 レストランを出て、帰り際にリサがこう言ってくれた。


「これからは優作さんって呼んでもいい?」


「もちろんだよ、リサさん」


 こんなに早く下の名前で呼んでもらえるようになるとは。


 会計をし、この日はこれで別れたが、僕としてはスキップでもしたい心持ちだったというのは言うまでもない。



***



 それからは順調だった。

 会社ではますます有頂天になり、加藤や渋谷さんから突っ込まれる。


「なんだか最近のお前、ノリノリだよなぁ」


「そうそう、なんだか春が来たって感じ!」


「まあね」


 この返事に二人は、特に加藤が目を丸くする。


「な、なんだと!? お前まさか『極悪人クラブ』でいい出会いがあったんじゃ……」


「ん~、まあそんなようなものかな」


「やるう!」と渋谷さん。


「ちょっと親しい人ができただけだよ」


 あくまで友達に過ぎないアピールをする。

 実際まだ一緒に食事をしたぐらいなので、当然ではあるが。


「ちくしょう、『極悪人クラブ』どころか『出会い系クラブ』じゃねえかよ! 俺も入会しようかな……」


「いいけど、みんな本格的だからね。ヤクザや魔王、ちゃんと悪役になりきらなきゃ相手にもされないぞ」


「うぐ……俺には無理そうだ」


 とても自分が入れる世界ではないと加藤は諦めたようだ。

 僕に言わせると、いつも主人公にやられて敗走するコミカルな悪役、なんてのが似合いそうな男ではあるのだが。


「コラ、口ばかり動かしてないで手を動かせ、手を!」


 課長の言葉で、雑談も幕を閉じる。

 僕は次の『極悪人クラブ』を楽しみにしつつ、仕事に励むのだった。



***



 『極悪人クラブ』で、僕は相変わらず悪の組織のボスを演じる。


「フハハハ……リサよ、お前も悪だな!」


「いえいえ、ボスほどじゃありませんわ」


 こんな悪の会話を交わしつつ、ジュースを飲む。


 そこへヤクザの岩見さん、魔王の野間さん、鬼の鬼塚さんも加わってくる。


「ワシらも混ぜてくれんかのう!」


「魔王としておぬしらと同盟を結びたい」


「一緒に亡者を苦しめようぜぇ!」


 僕ももちろんボスらしくニヤリと笑う。


「よかろう、存分に楽しもうではないかぁ!」


「オホホ……ボス、頼もしい仲間が増えたわね」リサも邪悪に笑う。


「まったくだ」


 心配していた黒田はというと、あれから来なくなった。

 また来ても気兼ねなく接するつもりではあったが、正直ほっとしている。

 「後悔させてやる」という言葉はただの脅しに過ぎなかったんだなと。


 リサとも急速に親しくなっていった。

 『極悪人クラブ』が終わった後は近くの店で食事をするのが恒例となった。


「今日も楽しかったね」


「ええ、でも本当に楽しいのはこのお食事タイムだったりして」


「ハハ、それは光栄だね」


 笑いながら僕は思う。

 そう、僕はリサに惚れている。

 今すぐにでも「好きだ」と言いたい。


 しかし、言えない。

 もし言って振られたら、『極悪人クラブ』での仲間としての彼女との関係も手放すことになりかねない。

 今の関係がこのままずっと続けばいいと思っている。

 普段はフハハハ……などと強気に笑ってるのに、こんな時はとんでもなく臆病者になる。

 自分で自分が情けなくなる。


 そして僕――いや僕たちはとんでもない事態に遭遇することになる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふはは。 やっぱり黒田さん怪しかった。 冴えてる私! 「普段は冴えてないけどね」 やかましいわっ!
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