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運命の人  作者: まる。
第6章 侵食
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第6話~闇~

 

 やっと立てる様になった叶子は、ブランドンの言う通りにジャックの部屋の中へと入っていた。相変わらず綺麗に整えられてはいるが、確かにそこに人が生活しているというのがわかる。この間この部屋を訪れた時とは違い、彼が仕事で使用しているのであろうペンやメモ用紙などがデスクの上にチラホラと置いてあるのを見つけると、ブランドンが言った事は本当なのだと自然と口元が緩んだ。

 ジャックのデスクをスーッと手でなぞっては、間接的に彼と触れ合っている気がしてなんだか嬉しい。


 ――早く逢いたい。


 焦らされれば焦らされるほどに、会いたさが募っていくものだなと実感した。




「……。――!!」


 突如として、その時は訪れる。ジャックの部屋の中で彼を待ち侘びていると、リビング側の扉をノックする音が聞こえる。ぱぁっと満面の笑みが零れ落ちると急いで向かい、勢い良く扉を開け放った。


「おかっ――! ……あれ?」


 ジャックが帰ってきたのだと思い勢い良く扉を開けたが、先程まで煌々とついていたリビングの明かりがすっかり落とされていた事に驚いた。確かに扉をノックする音が聞こえたはずなのにそこにはジャックどころか誰もいない。あの音は空耳だったのかとと首を傾げた。


(彼だったら自分の部屋に入るのにノックなんてしないか。やっぱり空耳だったのかなぁ。……やだなぁ、もぅ)


 リビングの照明が落とされていたことが、更なる恐怖心を与えられる。こんな夜中にこんなに広い部屋の中で一人ぼっちなのだと思うとますます恐怖心が募っていき、リビング側に開かれたドアノブに手をのばすと急いで引き寄せた。瞬間、


「――。……っ!?」


 のばした腕を何者かにスッと掴まれた。掴まれた感触でそれが男性のものだとすぐにわかるほど触れられている箇所の面積が広く、そして力強いものであった。


「っ!?」


 腕を掴まれたままでリビング側へと引き寄せられた時だった。暗闇にいたその手の持ち主がジャックだったのだと、零れ落ちていたわずかな明かりによって知らされた。


「ジャッ、……」


 あっという間に胸元に引き寄せられ、彼の名を呼んだ声は胸元に顔を埋めた事によってかき消された。ジャックの顔をもう一度見ようと顔を見上げたと同時に、彼はもう一方の手でパタンと扉をきっちりと閉める。掴んでいた腕を解放すると、役目を終えたその手は叶子の背中をぎゅっと抱え込んだ。何度も力強く抱きしめられるたびに、息が一瞬止まってしまう程力強いものであった。


 会えなかった時間がもどかしくて不安ばかりが募り、ほんの少し振り絞った勇気がそれら全てを拭い去る。会いたくて仕方がなかった彼が今ここにいて、再び彼の体温を直に感じている。この上ない悦びに思わず涙が零れ落ちそうな程、一瞬にして叶子の心は満たされた。


「――」


 背中を抱く腕の力が少し緩まった時を狙い、彼の顔をもう一度見ようと胸元に置いた手を押して彼を見上げた。明るい所にいたせいかまだ目が慣れておらず、暗闇の中の彼を探すのに苦労する。彼からは彼女の姿がはっきり見えているのだろうか。それすらもわからず叶子は暗闇の中でただ目を泳がせていた。


「ジャック? どうしっ、……て……」


 叶子が声を発した途端、わずかな体温を感じた。チュッと音をたてて頬に触れた柔らかい感触。右の頬にそれを感じると、次は左の頬。そしてその次は額に両方の瞼と、一寸の狂いもなくキスの雨を落としていく。その事により、間違いなく彼には叶子がはっきり見えているのだと言うことがわかる。目を泳がせて必死で彼を探している叶子の姿も見えているのだと思うと、少し恥ずかしくなった。

 まるで目隠しをされているみたいな錯覚に陥る。やけに敏感になっているのか、触れられていく所に熱が一気に集まっていった。


「ね、ねぇ……何? どうしたの? 暗いよ、何とか言っ――」

「シッ」


 言葉を遮る様に、叶子の耳元で囁いた。不意にかかった彼の息が耳をくすぐり、体が自然にビクッと小さく反応する。


「せ、せめて明かりを点け――ひゃっ!」


 気を取り直して話し出した途端、急に耳に息を吹きかけられて思わず変な声を出してしまう。さっきのはたまたま耳に息が掛かったのだとわかるが、今回は明らかにわざと息を吹きかけている。彼は叶子の反応を見て愉しんでいるのだろうか、何故こんなことをするのか全く意味がわからなかった。


「な、何? 何のつもり、……ちょっ、とっ」


 叶子は耳が弱いのだと気付いたのか、再び耳に温かくて柔らかい感触があった。生暖かい濡れたものが耳の外側を伝いながら徐々に下降し、ついには耳朶をもすっぽりと食まれてしまう。彼の呼吸は決っして乱れているわけでは無いが、近距離で聞こえる息遣いが叶子の思考を狂わせて行く。彼の胸を押し返して少しの抵抗を見せていたのが、いつしか彼にすがり付くように二の腕をやんりと掴んでいる。彼が耳を食んだり、同時にもう一方の耳を指で触れる度に叶子の身体はビクンッと小さく震え、その行為に耐えるようにして、彼の二の腕をぎゅっと握り締めた。


「や、やだ……も、無理。くすぐった――ぁっ……」


 散々耳を攻めていた意地悪な唇は徐々に下がり始め、今度は首筋を徘徊し始める。首筋にかかる息がどんどん甘い息に変わって行き、時折聞こえる小さな水音と思わずゴクリと唾を飲み込んだ音がやけに響いて死ぬほど恥ずかしい。なのに、それに反して体の方は正直で、暗闇のせいかますます火照っていった。


 久しぶりに会えたというのに挨拶すら一切無く、立ったままでこんな行為に溺れてしまっている。そんな自分がとてもはしたなく思え、止めて欲しい筈なのに次々に迫り来る快感のせいか強く拒絶出来ないで居た。


「や、……ん、また、そこ……」


 首筋を這っていた舌はまるでここが自分の家なんだと言わんばかりに、また叶子の耳へと戻り執拗な愛撫を繰り返す。彼女にとって初めての感覚に頭も体もすっかり蕩けきっていると、突然パッと暗闇から現実の世界に引き戻されてしまった。







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