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注意※このお話には重大な百合要素が含まれます、苦手な方も○せるようなお話を書くので是非性癖を歪めてってください。
「……そろそろ修学旅行だったっけ」
友達ってどうやったら出来るんだろう。
幼稚園の頃とか、小学校の頃とか、何も考えなくても出来ていた頃と違って、 頭の良くない私は中学生になった途端に、何かを話せる相手がお母さんだけになっていた。
結局は私がそんな人間だっただけの話なのに、最近そんなことを何度だって妄想してしまう。
私にだってもし友達が居たら、自分の部屋に引き篭ってないで学校に行けているって。
そんな訳ないのに。
「……ゲームしよ」
"ちょっとしたトラブル"なんて表現は、きっと健常者にしか使えない言葉なんだ。
私みたいに心の弱い人にとって、どんな些細なトラブルだろうとそれは一大事で。
でも、人から言わせればそんなちょっとしたトラブルで一々心を掻き乱される自分が、本当になさけない。
(学校休んで何やってるんだろう)
完全意識没入型VRゲームが開発されてから四年。未だに凄く高いこのヘッドギアは、引き籠もりと化した私にお母さんが退屈しないようにとプレゼントしてくれた物だった。
ゲームなんてしたこと無くて、そもそも興味なんか無かったけど、誰も私を知らない仮想空間は、ただ自己嫌悪に陥るだけの現実よりも息がしやすくて。
今日も私は現実逃避に、お母さんが用意してくれた逃げ道に逃げる。
「……陰鬱な顔だなぁ」
仮想空間に降り立つと、丁度目の前に鏡があった。
装備もスキルも適当で、ただ時間を潰すためだけにこの世界で暮らしている少女は、まるで弄らなかったから現実の顔まんまの姿で私を見つめてくる。
(……ごめんなさい)
本当は逃げたくないし、変わりたいし、強くなりたいけど、それが分かってても出来ない人間はいるんだよ。
私はそれが出来ない人間だからこそ、こんな自己嫌悪に陥りながら生きてるわけで。
この思考の負のループから、どうしようもなく失敗品な人格から、全てを救ってくれる王子様が現れるのを望んでいる私は、
そんな都合良く救われるのを待つだけの、弱くて情けなくて惨めな私は──
「あうっ」
「あ?」
目を伏せて歩いていたからか、不意に人とぶつかった。
すぐさま謝ろうとしたけど、人と喋らな過ぎて咄嗟に口から出たのは変な音の空気だけ。
若干の人間恐怖症を抱える私にとっては、もうそれだけで人生が終わったと思う程のアクシデントに他ならない。
「え、あ、う、そ、その……っ」
謝ることすらつっかえるまで退化してしまった私の言語野に泣きそうになりながら、恐る恐る顔を上げていく。
怖い、けど謝らなきゃ……!
そんな一心でスローモーションに映る視界に捉えたのは……美しい白だった。
長くてサラサラなその髪の色は、純白という言葉通りの清らかさで、
目で追っていって行き着いた、高潔な印象を大きく変える垂れた目の中にある瞳は、血の結晶のような紅色で、
久しぶりに見た人の顔を見たのもあるけど、記憶する限りで一番の美少女が、私を少し上から見下ろしていた。
(……お星さまみたい)
綺麗な人だった。
胸騒ぎがしたのは、直感で「ああ、この人は私とは正反対だ」と気付いたからだろうか。
堂々と立つ姿は自己肯定感に溢れてそうで、キラキラとした顔付きも自信と気力から来るもので。
意味と理由があってこの世界に存在しているその人は、見るからに強そうな武具を来ているその少女は、私なんかとは比べられないくらいにちゃんとこの世界で生きていて……
「ねぇ、用が無いなら行っていい? あんま街にいるとPKKに殺されちゃうからさ?」
──きっと彼女はこの日のことなんて覚えてないのだろうけど、私は確かにその日、
誰よりも狂っていて、誰よりも真剣に私と向き合ってくれた、一コだけ年上の先輩に──
──最低最悪にかっこいい王子様に出会った。




