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大好きでした。さようなら~一途な暴走令嬢は幸せを諦めない~  作者: 桜 祈理
本編

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18/30

18 必ず戻ってくるから

 それから数週間後。


 エレノアは、一旦グレオメールに帰国することになった。


 それは、騎士団の取り調べを受けた『隻眼のハイエナ』が、案の定ペラペラと一から十まで、いや一から百くらいまで事細かに白状してくれたことに端を発する。


 『ハイエナ』はグレオメールで暗躍する裏社会の人間だったらしいのだけど、第一王子カランシル殿下とは以前から頻繁にやり取りがあったらしい。


 ありとあらゆる犯罪行為に手を染めていた悪党とずぶずぶの関係だったというカランシル殿下。王族として、誠に許し難い。噂に違わぬ卑劣で悪辣な第一王子だったわけである。


 そのカランシル殿下のことはもちろん、エレノアが実は生きていた第一王女だったという超重要機密事項まで『ハイエナ』がぺらぺらとしゃべり尽くしたことで、ラングリッジ王国としてはグレオメール王国に詳しい状況を公式に報告及び確認することになった。


 ちなみに、ここで活躍したのが何を隠そうマイラ様である。


 マイラ様は、今回の騒動の絡みで一時的に宰相閣下の補佐官に復帰している。『臨時特別補佐官』として。なぜなら、グレオメールの宰相とマイラ様が実は友人同士だったからである。


「正確に言うとね、グレオメールの宰相夫人と友だちなのよ。彼女もラングリッジに留学していてね。たまたま三年間同じクラスで、いつも一緒にいたの。卒業後、彼女はグレオメールに帰国して婚約者と結婚したのだけど、その縁であちらの宰相とも近しくなる機会があって」


 交友関係のスケールがやば過ぎるんですけど……!


 そんなマイラ様が両国の間に入ってうまく橋渡しをしたおかげもあって、知らせを受けたグレオメール側は満を持して『カランシル殿下放逐作戦』に打って出た。


 もともと、国王陛下はもちろん、名だたる有力貴族の多くがカランシル殿下の立太子に懐疑的だったのだ。王位継承権を持つ第一王女が実は生きていたことを知り、密かにその命を奪おうとしていたなんて、次期国王に相応しくないどころの話ではない。


 カランシル殿下はあっという間に身柄を拘束され、これまでの悪逆非道な所業の数々を糾弾され、あっさり廃嫡のうえ幽閉処分となった。なんでも、グレオメールには罪を犯した王族を幽閉するための塔があるんだとか。それも、往来の不便な絶海の孤島に。そこでどんな悲惨な生活が待ち受けているのか、想像しただけで身震いしてしまう。


 さらには、十六年前の側妃暗殺事件についても改めて調査がなされ、王妃はようやく罪を認めたらしい。侍女が毒を盛ったのは、やはり王妃の指示だったのだ。


 そんな騒動真っ只中ではあるけれど、エレノアは『第一王女エレオノーラ』として帰国し、立太子することがすでに決まっている。


「いろんな手続きとか今後のこともあるけれど、必ず戻ってくるから」


 出立の直前、エレノアはこう言った。


「ルイーズのおかげで、私は王女としての身分と人生を取り戻せたのよ? それに、母の命を奪った真犯人を罰することもできた。そのお礼もできていないのに、これっきりなんてことあり得ないわ」


 もちろん、エレノアの横にはレンナルト様がぴったりと寄り添っている。仲睦まじさに拍車がかかっている。


「私はね、このままディクス公爵家の遠縁の子爵令嬢として、どこかでひっそりと生きていくしかないと思っていたの。レンのことはずっと好きだったけれど、結ばれることはないし結ばれてはいけないと思っていたから想いを告白するつもりもなかったのよ。レンだって、そう。私たちが一緒に生きていける道は、完全に閉ざされていたの」

「でもルイーズ嬢のおかげで、エルはこれからグレオメールの王女として大手を振って生きていけます。そして立太子し、ゆくゆくは女王となるでしょう。俺はそんなエルを生涯支えていくつもりです」

「ルイーズ、あなたが救ってくれたのは私の命だけじゃない。私の人生と私たちの未来、そしてグレオメールという国ごと救ってくれたのよ」


 大絶賛の波状攻撃にさらされすぎて、どうにも身の置き場がない。助けてほしくてジークにちらりと目を向けたのに、まるで自分のことのように誇らしげな顔をしている。というか、なぜかドヤ顔。なぜだ。


 騒動直後はあんなに色気だだ漏れの説教したくせに……!





 そんなこんなでエレノアとレンナルト様が帰国し、新たな学園生活が始まったわけですが。


 騒動の収束後、私を取り巻く環境はがらりと一変した。


 エレノアの帰国に際し、彼女が実はグレオメールの第一王女だったということは正式に発表されている。


 その王女が命を狙われ連れ去られた際に身を挺して守り、襲ってきたならず者たちを改心させて悪事を働く闇商会を壊滅に追い込み、さらには王女を狙った卑劣な兄殿下を失脚させた人物はいったいどこの誰なのだということになって、私は一躍時の人になってしまったのだ。



 いや、私、そんな大それたことした覚えないんだけど……。



 だって、「身を挺して守った」と言ったって単に『破天荒傲慢王女』のふりしてハッタリをかましただけだし、「ならず者を改心させた」というよりアントンたちは最初から悪い人たちじゃなかったわけだし、「卑劣な兄殿下を失脚させた」のも私じゃなくておしゃべり悪党の『ハイエナ』だもの。


 なんて事情はみなさん知る由もないから、なぜか全部私の手柄だということになっている。


 そして、『悪をも(くじ)く勇猛果敢な肝っ玉(タフ)令嬢(レディ)』なんていう、絶妙にダサい二つ名がついた。もう一度言おう。絶妙にダサい。


 どうせなら、マイラ様の『ホーク・アイ』みたいな二つ名のほうがよかった。まあ、『隻眼のハイエナ』よりはマシだけど。いや、どうなんだ。どっちもどっちか。


 そんな私にまわりの学園生たちはいたく興味を示し、頻繁に声をかけられるようになった。おかげでクラスの友だちが増えたし、一気に顔見知りも増えた。恥ずかしいほどちやほやされることになり、私の学園生活はずいぶん賑やかなものになっている。


 おまけに、数人の見知らぬ令息たちから謎のアプローチを受けるようにもなってしまった。


「タフレディ、ランチを一緒にどうかな?」と言ってくる令息もいれば、

「僕の馬車で一緒に帰らない?」なんて誘ってくる令息もいるし、

「二人きりでお茶会をしないか?」とあからさまに下心満載の視線を寄越してくる令息もいる。


 何度も言うけど、『タフレディ』と呼ぶのだけはほんとやめてほしい。言われるたびに渋い顔になってしまう。全然うれしくないから。


 もちろん、どんなときでもジークは私の隣にいる。でも令息たちは、まったくお構いなしに口説いてくる。なぜならジークはいつも私と行動をともにしているだけで、別に婚約しているわけでもつきあっているわけでもないということをみんな知っているから。


 そんな状況に、わかりやすく不愉快そうな顔をしているジーク。


 得意の仏頂面をしながらも、努めて冷静に対処している。



 だって、ジークは知っているのだ。






 私がもう、恋をする気がないということを。


 











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