第35話「策士、策に溺れる」
……一昨日来やがれ??
「…………悪いな───もう行ってきたぜ!!!」
レイルは笑う。
そして、
慌てない。負けない。おごらない。
ロードが取り出した競技場のトラップスイッチを見ても全く動じない!
「誘い込まれたことにも気づかない間抜けが!!」
……お前の着地点にはトラップがあるんだぜぇえ!!
───スイッチ一つで「ON/OFF」可能!!
ダンジョンから回収した凶悪かつ種々様々なトラップを───。
「くらいやがれぇぇぇえええええ!!」
ロードが誘い込み、レイルが着地するところに仕掛けられているのは一見してただの競技場のタイル。
だが、そのタイルには不可視の魔力が込められており、ダンジョン由来のトラップが発動するようになっている。
しかも連鎖型だ!!
今でこそ、トラップシステムは「OFF」
しかし、ひとたび発動すればぁぁあああ!
1 地雷。
2 床が飛び出すカタパルト。
3 巨大なボウガン。
さらには、
4 魔人の腕を召喚する魔法トラップ。
の4連コンボが発動する!!
「死───」
───ね
ポチッっと。
ぴかっ!!
と競技場のタイルが光りトラップ発動!!
そして、今まさに!!
いくつものトラップがレイルを狙う──────────……!!
足元に突如沸き上がったトラップを見たレイルであったが、
「そういうのをな、」
クルンと、空中で一回転すると、レイルは何でもないように着地する。
そして、親指をあげて──────……。
「策士策に溺れるっていうんだよ」
すっ、手首を反転、地獄に落ちろのハンドサインをまざまざと見せつけてやった。
───カッ!!
一瞬だけレイルの視界が光に包まれ、彼の姿が消えた。
そして、ロード達も知らぬ間に、一昨日に行ったレイルが一瞬のうちに元の時間軸に戻るとニヤリと笑う。
「な?」
「え?」
ぽかんとしたロード達。
「今、ロードの姿が───って、」
「ありゃ? なんか足元が───……」
カチ。
「ば?」
「え?」
ロードの真下に沸いたトラップが複数。
ほんの一瞬前までレイルの真下にあったのに…………???
「う、うそ!?」
「なんでぇ?!」
その瞬間、
闘技場の床が光、トラップが発動した!!!
「ばーか。自分たちのトラップで自滅しな。今お前らの真下に発動するように動かしといた。タイルごとな───」
もちろん。
「一昨日のうちにな!」
ニヤリ。
「「「「は? な、なんで?」」」」
ちょ、ちょっと待って───…………。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
とっくに昔にスイッチは押されている。
そして、トラップはついに発動する────……。
ロードの立つ闘技場の床のタイルが輝きだし、にょきっと地雷が顔を出した!!
「ひぇ?!」
そして、ラ・タンクの立つ位置を狙うように床がからせり出す巨大カタパルトがジャキン!!
「ま、マジ?!」
お次は、ボフォートを狙撃するように、巨大なボウガンがガシャコ!!
「うそぉ?!」
最後は、くそ女……もとい聖女殿をぶっ飛ばしてくれる魔人の腕を召喚する魔法トラップが発動!!
「ま、まじのすけ?!」
この間、約0.5秒。
ろくに反応する暇もなく。
「「「「ちょ!! ちょ、ま!!」」」」
なんで?
「「「「なんで仕掛けたトラップが───」」」」
ダラダラと冷や汗を流し始めたロードと愉快な3馬鹿ども。
彼らが思うのは一つ。
「「「「いつのまに、真下にぃぃぃぃいいいいい?」」」」
言っただろ?
「一昨日だっつーーーの──!」
じゃあな。
「…………バン!」
レイルは指で鉄砲をつくり、撃つ仕草をする。
その瞬間、
ドカーーーーーーーーーーーン!!
「あべしーーーーーーーーーーーーーー!!」
ロードの真下で大爆発する地雷。
真っ黒こげになったロードがギュルギュルと回転して、「あっちーーーーーー、ヒデブッ?!」と、天井にぶっ刺さる。
ドキューーーーーーーーーーン!!
「ちょ、おわぁおああああああああああ!!」
ラ・タンクの斜め正面から打ち出されたカタパルト。
床ごと打ち上げるそれは、いともたやすくラ・タンクの巨体をぶち抜き跳ね飛ばす。
分厚い闘技場の床材に殴られるようにして、「ベコン!」と、へこんだ鎧とタワーシールドに押しつぶされるようにラ・タンクがギュンギュンとぶっ飛んでいき、「まーーーわーーーーるぅぅぅ、ヒデブッ!?」と、天井に刺さる。
バシュンッッッッッ!!
「ひぇぇぇえええええええええええええ!!」
ボウガンが床からせり上がり、ボフォートを照準。それをみて、慌てて回避しようとして避けきれず、
「あだだだだだだだだだ、髪! 髪巻き込んで──あだだだだだだだだだ! ヒデブッ?!」
ブチブチと髪の毛を引き抜きながら、彼の身体を空のかなた────は無理なので天井にぶち込む巨大ボウガン。
レイルが一応矢の先端を抜いていたので致命傷には至らないだろう。髪は致命的だが……。
そして、
「ちょ、冗談よね? や、やめて────レイ」
「…………悪いね、セリアム・レリアム。冗談は俺じゃなくて────そいつの拳に聞いてくれ」
こ、拳って────?
恐る恐る、下を覗き込むセリアム・レリアム。
その下からは……。
ズモモモモモ……。禍々しい魔法陣がセリアム・レリアムの足元に現れ、
そして、
「──ちょま!」
バッキィィィィィイイイイイイイン!!
「はぶぁぁぁああああああーーーーーーっぱかっ~~~っと!」
ギリリリと、憎しみを込めるがごとく握りしめられた魔人の腕だけが魔法陣から召喚され、アッパーカットよろしくセリアム・レリアムを真下からぶん殴ると、彼女の足先から脳天にビックーーーーーン! とすさまじい衝撃が走り突き上げる。
そのまま、砲弾のようにぶちあがるとドッカァァァアアアアアン!! と闘技場が揺るがんばかりの振動を起こして「ぐげぇぇええええええ!! ヒデブッ?!」と、カエルの潰れるような声を出しながらセリアム・レリアムも天井にぶっ刺さった。
プランプランプラン……。
天井に垂れ下がる、4人分──八本の足。
───仕掛けた罠で自滅……。
「…………どうだぃ? 勝負あっただろ?」
ニヤリと笑うレイル。
そして、『放浪者』の戦闘メンバーは誰もいなくなった。
しーーーーーーーーーーーーん……。
観客はレイルの完全勝利に何も言えなくなっていた……。




