第34話「ロード、大地に立つ(後編)」
「「「……立った! ロードが立った!」」」
あれほど騒いでいた観客が……。
ピタリ──。
ロードの動きに注目すると、
観客が一斉に静まり返り、期待に会場が膨れ上がる。
大半の冒険者の掛け金のピンチが今まさに危機一髪で助かろうとしているのだ!
……だから願う。
レイルなどぶっ潰してしまえと切実に願う。
掛け金を失わないためにも、戦ってくれロード────と願う!
そして、会場が一つになる!
行けロード!!
勝てロード!
みんなの掛け金のためにッッ!!
「「「立てッ! ロード……!」」」
冒険者(男)たちは切に願う。
「「「立って! ロード……!」」」
冒険者(女)たちも切に願う。
ロード達ならまだいける────!
勝てる……!
「「「立ってくれ、ロード!!」」」
ぐぐぐぐ……。
「「「がんばれロード! 俺たちの(掛け金の)ために」」」
「…………お、おうよ!!」
おうよ……!!
───おぅッよ!!
「お、俺は──────。俺は……。俺は皆のためにも負けないッ!!」
──グワバッ!!
その期待を一身に受けてロードが立つ!
そして、
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!」
ビリビリビリビリ!! と、空気が震える鬨の声!
「「「いいぞ、ロードぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」」」
ロード!
ロード!
ロード!
「「「いっけっぇえぇぇぇええええええ!!!」」」
ロード!
ロード!
ロード!
観客の声援を受けてロードが立った。
そして、剣を天に向け───……スー……とレイルに向ける!
「………………ぶっ殺す!!」
──そうでなくっちゃなぁ、ロード。
「死ねッ、クソ疫病神がぁぁあああああああ!!」
「……ははっ。クソったれはどっちだよ──」
いろいろ諸々を出してしまい、スッキリとして毒素を抜けたのかもしれない。
ロードが憤怒の表情で低く構えると、今にもレイルの首を引っこ抜きそうな睨む。
そして、
「──ぶちまけろやぁぁぁぁあああああッッ!!」
模擬戦用の剣を高々と構えるロード。
あれほど毒に苦しんでいたというのに、もう絶好調といわんばかりだ。
「はは! ロード……」
だが、それは見せかけに過ぎない。
あれは文字通りヤケクソになっているだけだ。
「ぶちまけたのはお前のほうだろ?」
動きや見た目以上に、最初の毒は効いている。
素人が見てもわかるくらいに、ロードの動きには全く精細さがない。
「──いいからよ~。クソと能書きを垂れてないで掛かって来いよ」
ちょいちょい。
余裕で挑発するレイル。
ロードの動きは稚拙で、妙な蟹股の動き。特に足回りがあれでは動けないだろう。
だが、ロードはロードなりに勝算があるらしい。
構えも速度も、見る影もないくらいに稚拙な一撃をレイルにぶちかますロード。
「やっかましぃぃぃぃいいいいい!!」
悪臭とともに、踏み込むロード!
模擬専用の剣がギラリと光ると、大技を乗せて────……。
「はぁぁぁぁぁぁあ……聖王剣!!」
ギュバァ!!
──────スキルか?!
(……だが、遅いッ!)
輝く剣の一撃をレイルがヒラリと躱す。
「ノロいぞ、ロード」
「っ!」
その一撃をレイルが危なげなく躱し中空に逃れると、さぞかしロードは悔しい顔をしているだろうと振り返る。
ニぃぃい……。
「……なに?」
(わ、笑って───……?)
ロードが笑っていた。
「……ぎゃは! 今のはブラフだよッ! 雑魚はすぐに上に飛ぶからなぁ!!」
そう言って、口角を歪めたロードが醜悪に笑う。
レイルを空中に退避させ、着地点を狙う作戦だったらしい。
「奥の手は、最後に取っておくものだぁぁぁああ!」
そして、
サッと懐からギルドマスターに試合前に渡されていた保険──を取り出す。
(あー。そういうことか。やっぱり使うんだな───……馬鹿なやつ)
「これで終わりだッ! 死ね────レぇぇぇええええイル!!」
ロードが取った最後の手段。それは模擬戦の前にギルドマスターが渡していた最後の禁じ手────。
それは、『闘技場内のトラップシステム用起動装置。
ロード達がトラップを踏まない様に「ON,OFF」の切り替えを任意にしつつ、
ギルドマスターらが事前に仕掛けておいた、凶悪な闘技場のトラップシステム──その起動装置だッッ!!
「さぁ、何が起こるかな!! 覚悟しろ、レイルぅぅう!!」
何がって……。
そりゃあ、
「知ってる」
「知ってるわけねーーーーだろ!! 疫病神」
「はは。どうかな?」
だが、レイルは慌てない。
すでに仕込みの終わったトラップをレイルが恐れる理由などない。
「ロード。お前は俺を誰だと思ってる? Dランク冒険者で疫病神と呼ばれた──……天職は【盗賊】のレイルだぞ!」
そっと、懐から修練場の鍵を取り出して見せた。
……鍵??
競技場の鍵だと……?!
「んな?!──────何でお前がそれを持っている?!」
まさか、細工をしたことがバレたのか? とギルドマスターは焦りを見せる。
合鍵で、すでに中のトラップを確認されていたのかと───。
(そ、そんなはずはねぇ!)
ギルドマスターは思わず服の上から自らの鍵の位置を確かめる。
レイルに細工されないように、競技場の鍵はギルドマスターが管理していたはず……。
(あ、ある! ここにある!!)
……だが、奪われた様子はない───じゃあ、あの鍵は?
…………はっ!
「そ、そうか!」
あれは……。
あれは偽物───……つまり!
「は、ハッタリだぁぁああ! ロード気にせずやれぇぇ!」
ギルドマスターはうれしげに叫ぶ。
レイルが鍵の複製を持っているはずがないと確信し、
看破したことがうれしいのだろう!!
「はは! これがハッタリなものかよ」
ギルドマスターをよそにレイルは、微塵も動じない。
それが更にロードを苛立たせる!
「ロード! やれ! ハッタリに騙されるな!!」
「わかってるっつーの!」
レイルが鍵を持ってたからなんだ! と。
【盗賊】なんだから珍しくもねぇさ。
……そんなことより、一刻も早くレイルをぶっ飛ばしてやると心に決めるて──。
(俺様にこんなトラップまで使わせやがってぇぇぇえ!!)
「──くたばれレイルぅぅううううう!!」
闘技場に仕掛けられたダンジョン由来のトラップは、罠を踏んだ時点で発動し、対象をぶっ飛ばす仕様だった。
そして、レイルの着地地点にはちょうど狙いのトラップがいくつかある!!
……だから、死ね!!
──死ねレイル!!
「そうだ! やれロード!」
「私どもの恨みを晴らしてください!」
「トラップで死ねッ! ピーーーーー野郎!!」
いつの間にか『放浪者』の4人全員が起き上がりレイルを睨んでいた。
全員同じ表情。同じ匂い────……同じバカ面で。
同じセリフ!!────死ね疫病神!!
「「「「一昨日きやがれッッッ!!」」」」
トラップシステムの「ON/OFF」を───。
………………ポチっとな。
……一昨日来やがれ??
「ははッ」
何を言うかと思えば───。
「…………悪いな───もう行ってきたぜ!!」




