第32話「決戦ッ!」
さぁ、ケリをつけようか────ロード。
闘技場の中心、完全武装の『放浪者』がいる前まで進み出たレイル。
それを「ほう?」と言った顔で迎えたのがロードだった。
「よく逃げずに来たな? 俺はてっきり尻尾を巻いて逃げると思っていたよ」
偉そうに腕を組んでレイルを迎えるロード。
そして、
「ぎゃはははははは! プライドだけは一丁前にSランクとみえるぜ。……ま、へし折ってやるけどな」
そういって凶暴に顔を歪ませるラ・タンク。相変わらず血の気が多そうだ。
そこに、
「プライドなら私も負けてはいませんよ────レイルさん、先日はどぉもぉぉおお!!」
ギラギラと燃えるような目をレイルに向けるのは賢者ボフォート。
傷は癒え、しっかりとした足取りで立っているが────……。
「へぇ? 最近の回復魔法は髪も生えてくるのか?」
「あ、当たり前です! 私の完ぺきな魔法なら──」
ピュー……。
観客の湧き起こす熱気が滞留となり小さな風が起きて、ボフォートの被り物を飛ばした。
「あ! ちょっと────!!」
その下には、
「あー、ハゲたままか? わりぃわりぃ」
「「誰がハゲじゃぁあ!!」」
レイルの不躾な一言にハモルのはボフォートとギルドマスター。
──マスター。お前には言ってねぇよ。
まぁ、よかったじゃん、ハゲ仲間ができて。
「────殺す」
ついには目に闇をともしたボフォートがユラリと呟き、猛烈な殺気を飛ばし始めた。
「はいはい。そのへんにねー。レイルへの殺気は試合まで取っておきなさいよ────でも、よく来たわね? マジで死んじゃうわよ~、疫・病・神・さ・ん」
「黙れ、腐れビッチ」
ビキス!!
「なぁぁんんですってぇぇぇえええええ!!」
ビキビキビキと美しい顔を歪めるセリアム・レリアム。
怒髪天をつく表情に、顔に塗りたくった化粧がポロポロと落ちる。
どうやら安物の化粧品は合わなかったらしい。
ふーふー! と荒い息をつくセリアム・レリアムを後方に下がらせるとロードが進み出た。
「……はぁ、君はつくづく俺たちを怒らせるのが得意らしいね──さすがに俺も腹が立ってきたよ」
「そりゃどーも光栄だね────で、そこのチビはやらないのか?」
レイルは一歩離れた位置に立っているフラウを顎でしゃくる。
「ん? あぁ、。フラウ嬢は、棄権だってさ────かわりに報酬の権利は放棄すると言ってるが……。構わないだろう?」
コクリと頷いたフラウが円形闘技場から降りていく。
「好きにしなよ。人数が少ない方が楽でいいしな」
肩をすくめるレイルの言葉を聞いて、今度はロードがピクリと表情筋をこわばらせた。
「お、おいおい……。なんだいその言い方は。まるで、フラウが抜けて勝率上がった様な言い方だね? 本気で勝てるとでも?」
「事実だからな」
ピク……。
「……こぉの、ゴミくそDランクの疫病神がぁぁあ! お前に勝率なんて万に一つもあるわけねぇだろうが!!」
「は。能書き垂れてろ────デカいだけの鳥から逃げた腰抜け勇者が」
………………プッチン!
「ぶっ殺す!!!」
ジャキンジャキン!!
ロードの殺気が迸ると同時に、前衛二名が一斉に剣を抜き、槍を構える!
模擬戦用の剣のはずだがやけに剣呑にギラギラと光る。
「おい、ロードまだ合図してねぇぞ!」
レイルとロード達の間に立ち、ジャッジを務めるらしいギルドマスターが怒鳴る。
──胴元に審判。まぁ色々こなすハゲだ。
「うるっせぇぇえ! とっとと、始めやがれぇぇええ!」
「ち…………! 熱くなりやがって。負けられちゃ困るからな。……おい、ロード──危なくなったら使えよ」
そういって、なにかスイッチのような物をロードに渡すギルドマスター。
「おい、今のはなんだ?」
「さぁな?」
肩をすくめるだけで、ロードに渡したスイッチの正体を教えるつもりはなさそうなギルドマスター。
つまり……、
(…………あれが切り札か)
目ざとくそれを見ていたレイルは平静を装う。
まぁだいたいの予想はついている────。むしろ、レイルもそれを見越して仕込み済みだ。
何か仕掛けてくるのは予想していたから、これでいい。
──さぁ、戦闘開始だ。
「双方、準備はいいか?」
「あぁ」
特に気負うでもなく、レイルは軽く頷く。
一方ロード達は怒り心頭で、殺気も気合も十分!
「一気にケリをつけたやるぁぁ!!────戦闘用意ッ」
「おう!」「はい!」「あ~ぃ」
三者三様。ロード以外の3人も準備万端らしい。
そして、いうが早いか──取り出した高級強化薬を「グビリッ!」と呷るロード達!
「へへ。SランクがどうしてSランクなのか教えてやるぜ」
「……金を使って、ステータスの底上げがSランクねぇ」
目を細めるレイルを余裕の表情で見返すロード。
「財力も実力のうちよ!────始めるぜ!」
(ふん……。思った通り、強化薬を使ってきたか)
短時間とは言え能力を強化させるその薬をこのタイミングで飲むということは、完全にロードたちはギルドマスターとグルなのだろう。
強化薬の効果時間を最大限に確保するため、試合開始の合図を相談していた証拠だ。
実際、ロード達が強化薬を飲み切ったと同時にギルドマスターが頷く。
試合準備よし────ってか?
だが、その不正ギリギリの行為を咎めるものは、この会場にはほとんどいない。
敵も審判も、観客も──────すべてレイルに微塵も好意を抱いていないのだ!
「上等だ……」
「へへ……!」
パリィン。
薄くレイルが笑い、飲み切った強化薬の空き瓶をロード達が投げ捨てたところを会場の全員が見ていたその瞬間────戦闘開始が告げられたッッ!
「────模擬戦、開始ぃぃいッッッッッ!」




