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第24話「クソのような提案」

「はぃぃ??」


 いま、このクソハゲギルドマスターの奴なんて言いやがりました?


「あ~っと……。今なんて言いました? パードゥン(もっかい言って)??」

 あまりにも衝撃的な言葉に、耳をかっぽじるレイル。


「何度でも言ってやる。お前のやったのは報酬の横領だ。レイル、貴様……そのグリフォンを倒したとか、いっているそうだが──」


 言っているのも何も事実だ。


「──そもそもグリフォン退治は『放浪者(シュトライフェン)』のクエストだったはずだぞ?」

「それがどうした???」


 レイルのまっすぐな視線を、ギルドマスターもまっすぐに見返す。


「それがどうしたぉ?──だと?…………本気で言っているのか?」

「おいおい、冗談に見えるのか? 冗談は頭頂部だけにしろ、ハゲ」


 ビキス!!


「ハ────……ぐむむ。い、今はお前の態度は置いておこう。それよりもだ」


 ギルドマスターは怒気で真っ赤になった顔を何とか平静に保つと、レイルに向かってズイっと一枚の紙を指し示す。


「…………クエストの受注控えだな。これが?」

「そうだ。受注の控えだ────『放浪者(シュトライフェン)』の、な」


「…………??? 何が言いたいんだ」


 レイルがそこまで言ったとき、


「は!! 何が言いたいだって? おめでたい奴だな、この疫病神は」

「本当だぜ。所詮はDランクってか?」

「きゃはははははは。これだから使えないやつって嫌いなのよねー」


 ゲラゲラと笑うロード達。

 レイルは眉をひそめているが、ギルドマスターは手を上げてロード達を制止する。


「つまり、だ。グリフォンを倒したのは────ロードたち『放浪者』の手柄だと言っているんだ」




「はぁ?!」




 コイツは何を言っているんだ?


「なんだ? まだわからんのか? お前は、Dランクとはいえ、一応『放浪者』のメンバーだろうが?…………新人だろうと、Dランクだろうと関係ない。ギルドに登録されたパーティメンバーの一員なのは事実だろうが」


「なん、だと……」


 ビキス! とレイルの額に青筋が経つ。


 ……俺が『放浪者』の一員だと?

 ただ、囮のためだけに勧誘したくせに、…………仲間だと?


 一体、どの面下げて言いやがる!!


「そのパーティから、手柄だけを持っていこうとしているんだ。それを横領と言わずになんという?」

「ふっざけるなよ……」


 レイルは俯き、体をブルブルと震わせる。

 恐怖でも、喜びでもなく、もちろん純粋な怒りで、だ。


 パーティだの、仲間だのと言われるたびに、囮にされ──疫病神と呼ばれた瞬間が脳裏に蘇り、怒りで心が塗りつぶされそうになる。


「グリフォンを倒したのは俺だ! 俺が一人で倒した!」


 そう。このスキル『一昨日に行く』の力で!!


「ざっけんな!! 疫病神! 俺たちが手負いにしたグリフォンを横からかっさらっただけだろうが!」

「そうだそうだ! Dランクにグリフォンが倒せるかっつーーーの!」

「そうよ。下手(したて)に出てればいい気になっちゃって──こっちが領主府に訴えてもいいくらいよ!」


 ピーピーとロード達が騒ぎ出す。

 しかし、さすがに騒ぎが大きくなり過ぎたと思ったのか、ギルドマスターがロード達を制して(いさ)める。


「まぁ、皆落ち着け。報酬についてのトラブルは昔からよくある話だ。それに、」


 それに?


「──ギルド内でのもめ事の大半はギルド内で納めるのが暗黙の了解だ。ロード、お前も知ってるだろう?」

「あ、あぁ……」


 即座に頷くロード。

 売り言葉に買い言葉で裁判沙汰を取りざたしたものの、分が悪いのはロード達だ。それを素早く計算したのか、ギルドマスターに素直に従う。


「それにレイルの言い分も聞かにゃならん。しかも、パーティに入ったばかりのDランクの冒険者だ。色々流儀について齟齬があったのかもしれん」


 そうだな? と、目力でロード達に問うギルドマスター。


「お、おう。そ、そうだ。裁判の前にまずはギルドの裁定を受けるべきだ。……どうだい、レイル?」


 そういって、隠しきれていない黒い笑顔を見せるロード。

 もちろん、レイルはギルドとロード達の癒着を疑っているので素直に頷けるはずもない──。


 ないのだが……。


「ロード達は正当な報酬の分け前を要求している。それに対して、レイルは倒したのは俺だから全部いただくと言っている──これでは話がつかないな」


 勝手にもめ事の上澄みだけ掬いあげるギルドマスターの言に、レイルは顔をしかめた。

 まるで、レイルの我儘(わがまま)のような話にロード達が辟易(へきえき)している図になっている。


 つまり、前提がずっぱしと切り取られているのだ。


「おい! なんだその悪意のある言い方は! アンタだって薄々わかってるんだろう! こいつ等の所業をよぉぉ!!」


 いや、むしろ、積極的に支援した可能性すらあるのだ。


「れ、レイルさん落ち着いてください」

 メリッサはオロオロとしながら激昂するレイルを宥める。


 ……これが落ち着いていられるか!


「お前が何を言っているが知らん。興味もない────だが、報酬で揉めているというなら、冒険者らしく決着をつけろ」

「な、なにぃ?!」


 レイルが苦々しい顔をしているというのに、


「ほう。そう来たか────俺は構いませんよ、マスター」


 ロードはニヤリとほくそ笑む。


「ど、どういう意味ですか? 冒険者らしくって…………」


 要領を得ていないのはメリッサのみ。ただなんとなく、嫌な予感がするのか身を震わせていた。


「──決まっているだろう。冒険者のもめ事は…………」



 腕を組んでロード達とレイルの間に立ったギルドマスターがひと際大声で叫ぶ。





「────模擬戦(ガチンコ)で白黒を決める!!」

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