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この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第7章 世界地図

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35話 次の目的地


 セイレーンの城で、世界地図を見つけたあと。

 俺とフィーコは地図と向き合っていた。


『えっと、オーガの町はここで、人狼の城はここで、魔界はここだから……』


 フィーコが地図を指さしながら、これまでの旅の経過を確認していく。


『うわぁ……こう見ると、本当に一直線に魔界に向かってるわね。さすがに、脱走した人間が魔界に突撃してくるなんて、魔物たちは思ってもいないでしょうね』


「旅を始めてから1週間にしては、順調に距離を稼いでるな」


『ああ……まだ1週間なのね。あなたと出遭ってから』


 フィーコがどこか遠い目をする。


『……長いようで短かったわ。たぶん、わたしが生きてきた中で、一番長い1週間ね』


「とはいえ、本番はここからだからな」


『……魔界はもうすぐだものね』


 地図上の中央に記載された黒い島。

 魔界――魔物たちの本拠地。“王”がいる魔物たちの世界。

 魔物は野良のものですら強く、地形も気候も全ての環境が過酷だ。

 今の俺のレベルでも危険な地帯だが……もしも、“王”を殺すのならば避けては通れない。


「この町からだと……あと山を1つ越えて、海峡を1つわたれば、魔界に到着か』


 まともに補給できそうな町もあと1つ。

 これまでみたいなぬるい旅はできなくなるだろう。


「とりあえず、さしあたっての問題はこの山か」


 セイレーンの町のすぐ側に、牙のようにそそり立っている巨大な山のつらなりがあった。

 前世ではこんな目立つ山があった覚えがないが……地図に記載されてる地形なんかも記憶とは違う部分も多いし、俺が転生するまでの間に地殻変動でも起きたのかもしれない。


 地図上のその山には、不吉にもこう名が記されている。



 ――人喰ヒトクイ山脈、と。



『人喰山脈、ね……よりにもよって』


「知ってるのか?」


『魔物の間じゃ、有名よ。この山に足を踏み入れた者は、みんな山に食われる……ってね』


「山に食われる?」


『人喰山脈は世界で一番大きい魔石鉱山なのよ。だから、魔物たちが何度も開発しようと、家畜にんげんを送り込んだわ。そして――』


 フィーコは俺を怖がらせるように、にぃぃ……と凶悪に笑う。


『――全員、消えたわ。人間も魔物も関係なく、まるで山に食べられたようにね』


「魔物も、か」


『人間が消えるだけなら、いくらでも説明はつくけど……爵位持ちの魔物ですら消えてるとなれば、話は別ね』


「……考えられるとすれば、高レベルの魔物すら食えるほどの、さらに高レベルの魔物がいるってところか」


『そうね、この山には十中八九、未知の魔物がいる……で、どうするのかしら? もしかして、迂回でもする?』


「もちろん、突っ切るに決まってるだろ。それが近道だし、強い魔物がいるならレベル上げにちょうどいいしな」


『ふふ……あなたならそう言ってくれると信じてたわ。それに、わたしとしても人喰山脈の魔物には興味があるし、ね』


「じゃあ、次の目的地は――人喰山脈で決まりだな」



   ◇



 セイレーンの城を探索し終えた、さらに翌日。

 俺は補給によって増えた荷物をまとめて、町の門の前に立っていた。

 そんな俺たちを、市民たちが見送りに来る。


「もう行くんだね……」


「もっと、ゆっくりしていってもいいんじゃないですか……?」


 名残惜しそうに引き留めようとするのは、おなじみの兄妹だ。


「まあ、俺たちみたいなのが長居するべきじゃないだろうしな」


『そろそろ、追っ手も来るでしょうしね。でも……この町が戦場になるというのも、それはそれで面白そうかしら?』


「はは……それはできれば、勘弁願いたいね」


 兄が苦笑する。わりとフィーコの扱いには慣れたようだ。


「まあ、引き留めても、君たちが止まらないことはわかってたよ。君たちの手助けができないのは心苦しいが……」


「これ……せめてもと、お弁当を作ったので食べてください。フィーコさんが好きそうなお菓子も入れておいたので」


『……わたし?』


 フィーコが少し目を丸くする。


『あなた、昨日からやけにわたしに取り入ってくるわね。人間にしては、なかなか見る目があるじゃない』


「えっと、取り入ろうとかじゃなくて……フィーコさんにも守ってもらいましたから、そのお礼です」


「ああ、“歌鳥の儀”のときか」


 俺がこの少女に憑いているように頼んだ件だ。

 そのこともあって、この少女はフィーコのことを気に入ったようだ。


『ふ、ふんっ……まったく、人間はあいかわらず単細胞ね』


 誇り高き不死鳥、満更でもないらしい。


『ところで、あなた……マリーとか言ったかしら?』


「あ、名前……覚えててくれたんですね」


『もう忘れたわ』


「さすがインコ頭」


『とにかく、あなたの肉はわたしがキープすることにしたから、他の魔物に勝手に食べられちゃダメよ?』


「……え? ……え?」


『ま、せいぜい美味しくなって待ってなさい。食べ頃になったら、また来てあげるわ』


「……なんだかんだで気に入られたみたいだな。人間のオスメスぐらいしか区別できないフィーコが名前を覚えるなんて珍しい」


「あ、あはは……喜ぶところなんですかね、これ?」


 妹が苦笑する。

 そこで自然と会話が途切れ――それが合図となった。


「それじゃあ……そろそろ行くとする」


「ああ、また会おう。君の旅路に光があらんことを……」


「……どうか、食べられないでくださいね」


「ああ、お前らもな。ハリー、マリー」


「あ……」


 最後に名前を呼んでやると、2人は少しうれしそうに笑って――。


「はい!」「ああ!」


 と、元気よく返事をするのだった。

 そんな彼らに見送られながら、俺はセイレーンの町を後にした。


『ま、人間の町にしては、なかなかいいところだったわね』


「……ああ、そうだな」


 人喰山脈への道中、フィーコが名残惜しそうに背後の町をちらちら見る。


『まあまあ気に入ったから、あの町はわたしの領地にしてあげたわ。あの町は今後、フィフィタウンと呼びなさい』


「断る」


『ま、とにかく……せっかくキープした肉たちを、他の魔物に食わせるわけにはいかないわね。わたし、自分のものを奪われるのは赦せないタイプなの。だから……』


「とっとと“王”を殺せ、だろ?」


『わかってるじゃない』


 さて、あの町で英気は充分に養えた。

 魔物への憎しみも新たにできた。


 ここから目指すは、道の先――はるか視線の先にそびえる人喰山脈。

 獲物を待ちかまえる獣牙のような威容へと、俺は足を向けるのだった――。


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