97、それは輝く星のような
秋姫の手土産は、もちろん私の描いた絵……というか、一筆描きの漫画だ。鉛筆と消しゴムって、素晴らしいものなんだなぁと再実感しているところである。早く誰か作ってくれないかな。
もちろん他にもお土産はある。
春の塔近辺にしか咲かない花があるとか、地元?でたくさん摘んできたのだ。ふふん。
「姫さん、あいつも一緒でいいよな?」
「いいもなにも、秋姫様の身内なんでしょ? とりあえず連れていかないとだよね」
「……姫さんは甘いな」
「ダメですか?」
「いや、そのままでいい。その分、俺たちが守るから気にするな」
「うぐぅっ」
不意打ちの甘やかしは、いくない。(心臓に)
ゆったり走る馬車の横で、騎乗したまま会話してくれるレオさん。
ちょっと着崩した騎士服とか、チラ見せする胸筋とか……色々思うところはある。だがしかし、心を平穏に保つよう深呼吸をしておこう。すぅ、はぁ、ほんと心臓に悪いわぁ。
ちなみにアサギは、今もなおジャスターさんとジークリンドさん二人の間を行き来している。
「あのチビ、いつの間に爺エルフと仲良くなったんだ?」
「そ、そうだね。不思議だね」
ほんと、いつの間に仲良くなったんだろうね? あははー。
赤、黄色、茶色という秋色の絨毯が敷かれている道を静々と辿った私たちは、見慣れた『塔』に到着する。
出てきた騎士は、ジャスターさんよりも細身の青年で、定例会を行なっているからしばらく待ってほしいとのことだった。
「定例会?」
「ここには百人を超える騎士がおります。筆頭以外の騎士たちが、秋姫様のご尊顔を拝見することができるのが定例会なのです」
どこかうっとりとした表情の騎士を見て、交渉役のジャスターさんがドン引きしているのが分かる。
うん、なんというか、狂信的に秋姫を崇拝しているように見えるよね。見えるだけだと信じたいよね。
「では、我らはここで待たせてもら……」
「よろしければ!! ぜひ!! 皆さまも定例会にご参加されては!?」
こちらの言葉にカットインしてきた、細っこい青年のギラギラした目が怖い。恩寵『交渉』を持っているジャスターさんをおさえるとは、この青年なかなか侮れない。
よろしければって言ってるけど、これ、私たちが参加すれば自分もついていけるからってやつだよね? 善意とかじゃない私利私欲の香りがぷんぷんするんですけど?
「はぁ……、せっかくなのでお受けしましょう。傭兵さんたちは野営になっちゃうかな」
「ここらへんは魔獣も出ないから、差し入れに酒でもやれば喜ぶと思う」
「レオさん、お願いできます?」
「おう、任せとけ」
コソコソと小声でやり取りする私とレオさん。
傭兵さんたちには、元傭兵団長であるレオさんをあてがうのが最適だ。
でも……。
「……姫さん」
「あ、はい、何でしょう?」
「そんな顔するな。すぐ戻るから、ここで待ってろよ」
「…………ハイ」
どんな顔をしていたのだろう。
サラさんから生温かい視線を感じるけど、気にしないことにする。
春の塔と違い、秋の塔周辺は紅葉でうめつくされている。
定例会とやらがどこでやっているのかと思ったら、庭でやっているみたい。さすがに室内は狭いよね。人数が増えれば広くなるとはいっても、限界があるよね。
「キラ君からも聞いていたけど、秋姫様は人気があるんだね」
「たしかに秋姫様の美しさは有名ですが、春姫様の愛らしさも負けてないです」
「それは、サラさんの贔屓目だと思う」
細っこい青年騎士に案内されたのは、姫の私と騎士四名とサラさん。
おまけのピンク髪少年は、うまく『侵食』の恩寵を使って私たちと一緒にいる。まぁ、塔の敷地内は、害意がなければ関係者じゃなくても入れるから、たぶん怒られないでしょ。
アサギはちゃっかりジークリンドさんの肩に乗ってて、エリマキみたいな状態になってる。なんだかもふもふ暑そうで申し訳ない。
「皆さま! ここが定例会の会場です!」
枯葉の絨毯が広がる広場。その中心には円形のお立ち台?がある。
その周りを取り囲むように詰めかけている騎士たち。彼らの騎士服は白が基調となっていて、見ていると眩しすぎて目がショボショボだ。
この白の中で青い服の私たちは目立つかと思ったけど、秋姫の騎士たちはこちらを見向きもしない。
「秋姫様が参られます!」
うおおおおおーっという野太い声と、「秋姫様ー!」「LOVE♡秋姫!!」などと、わけのわからん掛け声に居心地の悪さ感じる。
案内してくれた青年も、その細い体のどこから出るのかと思うくらいの大声で、秋姫への愛を叫んでいた。
まるで水着のような白い衣装に、フリルのついた体が透けて見える薄布を身にまとい、銀色の装身具をシャラシャラと響かせて登場したのは『秋姫』……なの……かな?
ゆるくウェーブのかかったピンクがかった金色の髪は、日の光に当たってキラキラと輝いている。
たゆんたゆんと揺れるその二つに、うちの騎士たちも釘づけだろうと見てみれば……あれ?
「レオさん、恩寵使ってるんですか?」
「ああ、ちょっと刺激が強いからな」
ジャスターさんとジークリンドさんは平然としていて、キラ君はレオさんの背中に隠れて深呼吸していた。
サラさんは「破廉恥な!」と顔をしかめて、近くにいたピンク少年の目を手で覆ってやっている。
「みんなーっ! げんきかなーっ!」
『げーんきーっ!!!!』
「秋姫のことーっ! すきなひとーっ!」
『はあああああああああいっ!!!!』
「秋姫もーっ! みんなのことだいすきーっ!」
『ウオオオオオアアアアアアアアーッ!!!!』
……どこのアイドルだよ。
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