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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白雪姫と呼ばれた幼馴染

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閑話 空に浮かぶ月

◇◇◇

「須藤センセー、コレ続きは?」


 高校に入って三度目の七月。新堂(しんどう)玲奈(れな)は文芸部のソファーに寝そべりながら原稿用紙をひらひらと揺らして催促をする。ソファーの上でバタバタと足を揺らすと、窓から差す陽光が舞う埃を映し出す。

「おい、ソファー蹴るな。埃が舞うんだよ」


 机に向かいペンを走らせていた須藤拓馬は迷惑そうに視線を送りながら席を立ち、窓を開ける。校庭ではサッカー部が他校と練習試合を行っているのが見えた。

「あたし竜が出てくるやつとか読みたいな。あとは魔法とか」

 ソファーに座り直し、須藤の書いた原稿用紙の束をパラパラと捲りながら気軽なリクエストをする新堂。明るめの金髪に膝より上のスカート。人を見た目で判断するのなら、凡そ文芸部には似合わない派手な容姿。事実、新堂は活字の本は読まない。だが子供の頃から不思議と須藤の書いた文章だけは読めるのだ。小学四年の時、須藤が要約した文章を読んで書いた感想文が金賞を取り、市役所に展示された事もあった。須藤は賞を貰えなかった。


 二人は小学校から同じで、中学高校も一緒だ。


「今書いてるやつが完成したらな」

「へえ。今は何書いてるの、センセー」

「ん?今書いてるのは、宇宙モグラが国際宇宙ステーションを乗っ取って地球を永遠に見つめ続ける話だな。面白いから是非読んで感想をくれ」

「……ん~、それはパスかなぁ」

「じゃあ昨日書いたクモとカマキリの恋物語はどうだ?」

「何それ。逆にちょっと読みたいかも」


 須藤はとにかく物語を書くのが好きだった。暇さえあれば字を書いた。高校二年の時、とある文芸誌に投稿した小説が特別賞を取って担当が付いた。賞金は五万円と万年筆。受賞祝いにと校長先生が部室に古いソファーを入れてくれた。本来は部員が五人に満たない文芸部は廃部のはずだったが、須藤の功績で残っているようなものだった。

 文芸部の部員は部長の須藤と副部長の新堂ともう一人。


 ガラリと部室の扉が開いて、そのもう一人が入ってくる。

「お疲れー。いや~、今日も勝った勝った」

 着崩した制服に長身長髪の優男、加賀美恭也だ。

「今日はサッカーか?」

「そう。よくわかったね。練習試合だっていうから後半だけ助っ人したんだよ。一点で昼食券一枚、勝ったらもう一枚でね」

「へぇ。何枚貰ったの?」

 ひょこっと話に割って入る新堂に加賀美はピラッと昼食券を四枚見せる。

「四枚。ハットトリック決めたからね。二人とも明日の昼は奢ってあげるよ、あはは」

 加賀美は整った顔で爽やかに笑う。


 学業優秀、スポーツ万能。眉目秀麗、三人目の文芸部員が彼。野球部よりも野球が上手く、サッカー部よりもサッカーが上手く、美術部より絵が上手い。だが、どれも昔からやっている訳ではなく、見れば不思議と人並み以上に出来るようになってしまうらしい。


 そこだけ聞くと鼻持ちならないやつの様にも思えるが、生来の人当たりの良さ故か、それでも不思議と敵を作らなかった。


「ところで、須藤の本はいつでるの?」

「ね。あと半年もしたら『高校生作家』って名乗れなくなるんだから早くしなきゃだよね~。あっ、恭也。これ面白かったから読んでみなよ」

 新堂は加賀美にクリップ留めされた原稿用紙の束を差し出す。

「あのなぁ」

 新堂の言葉を聞いて須藤は大きくため息をつく。

「高校生作家とか大学生作家とかそんなのに興味は無いんだよ。要は『~なのにすごいでしょ?』って事だろ。逆に格好悪いわ。こども駅長とかと一緒だよ」

「あはは、相変わらずひねてんなぁ」

「すごい自信よね~」


 事実、担当編集者ともやり取りを重ね、もう一つ大きな賞を取ってデビューと言う方向で話は進んでいた。賞金が入れば、印税が入れば大学の学費の足しになるかもなぁ、などと考えたりもする。

 やり取りを重ねている作品は、もちろん新堂が読んでいる短編とは別のものだ。柄にもない恋愛小説。まだ編集者にしか読ませていない。


「須藤の小説が売れたらさー、あたしも友情出演したげるからね。主演で」

「何で上からなんだよ。逆だろ。出させて下さい、須藤さんだろ」

 須藤の言葉に答えず新堂は加賀美を見る。


「恭也も出る?」

「俺?まぁ須藤がどうしてもって言うなら出てあげなくも無いけど……、高いよ?」

「だから何でお前も上からなんだよ」

「あはは、うそうそ。じゃあお詫びに曲も提供するよ。泣ける系でいい?」

「……つーかお前は本当に何でも出来るよなぁ」

「ふふん、まぁね」


 一年の時の文化祭、僅か二ヶ月前にギターを始めたという加賀美は圧巻のステージで伝説を作った。流石にパワーコード主体の演奏ではあったが、ボーカルを兼ねた彼の姿に学校中が熱狂した。それが楽しかったのか、それから割に熱心に楽器の勉強も続けたようで、二年時のライブでは見事なギターソロを見せ付けた。


 やり取りをしながらもペンを止めない須藤はぼそりと呟く。


「本当にそんな風になればいいよな」


 ひねくれ者の須藤がついうっかり漏らしてしまった呟きに、新堂と加賀美はハッと顔を見合わせる。でもここではやし立ててしまえばへそを曲げる事は自明の理。

「だね」

「ね」


 ニコニコと相槌を打つ、七月。


「ていうか進路どうしよう~。まだ就職したくな~い」

「大学行けばいいじゃん」

「出た、モラトリアム」

「気楽に言うけどさ~、受かる気しないんだけど」

「まじかよ。俺は落ちる気しねぇけどな」

「嫌なやつ~」


 ――高校三年の七月。高校生活も残すところあと半年。少しの不安は有ったかもしれないけれど、俺達はそんな風に大体楽しく毎日を過ごしていた。


 自分達は世界の中心だと思っていたし、何かの物語の主人公だとすら思っていた。


 順風満帆。賞だってすぐに取れて、すぐに本が出ると思った。新堂をモデルにしたヒロインが出てくる青春小説。告白のシーンは何度も何度も書き直した。いつか、それをする日を想像して。


 でも新堂は多分加賀美が好きだ。


 当然だろう。いくら自信家な俺でも、あいつと競って勝てる気なんてしない。俺が女でも確実にあいつを選ぶ。文武両道、容姿端麗、そしてそんなものどうでも良いくらい……いいやつだから。


 だから俺が現実に新堂に告白する日なんて訪れはしないんだ。


 真夜中、一人ペンを走らせる。


 月が空から見つめていた。



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