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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白雪姫と呼ばれた幼馴染

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勝手に

◇◇◇


「そういや白田の新しい写真集って予定あるんですか?」


 都内某所の古びた雑居ビルの一室、別に質問に他意は無く何となく気になっただけ。あれだけ売れた写真集の続巻が出なければ気にもなるのは自然な話。問いかけると社長はスポーツ新聞を眺めながら答える。

「ん?加賀美のスケジュールもあるからなぁ。あぁ、そろそろ水着も載せるようにお前からも言っとけよな」

「嫌ですよ、そんなの」

「……ったく、一丁前に独占欲出しやがって。ちっちゃい野郎だな。どこがとは言わんが」

「あ、今の時代それセクハラっすよ」

「……気色悪い事言ってんじゃねぇ。解雇すんぞ」

「それはパワハラっす」

「あーあ。昔はもっと素直な小僧だったのになぁ。すっかり芸能界に擦れちゃってまぁ」


 スポーツ新聞を放り投げて今度は写真週刊誌を手に取る。まったくそんなつもりはないが、そう言われると少し気にはなる。

「一応聞きますけど、本当にそう思います?」

「知るか。てめーで考えろ。それはそうと、お前今年で高三だろ?進路どうなってんだよ。ちゃんと勉強してんのか?まぁ、関係ないか。一生ヒモでも困らねぇもんなぁ。羨ましいよなぁ。俺は小さい事務所抱えてせこせこ地道に頑張ってるのになぁ」


 せこせこって、白田関連で大分稼いでるんじゃないのか?とも思ったけど、見えない投資やらも随分ありそうなのでその言葉は飲み込んでおく。

「その話はいいとして、白田の映画の件はいけそうですか?」

 面倒くさい話題なので露骨な話題転換を断行。社長は加熱式喫煙具を咥えてページをめくりながら『んー、そりゃまぁ、な』と答える。

「ヴァルプロ的にはもう一人の役も自分のところで取りたいだろうがバランスってもんもある。今濱屋と合わせて一番話題になるのは桐香だから、まぁなるだろ。つーか濱屋らん演技力やべーな。最初誰かと思ったぞ」

「確かに、わかります」

 

「で、お前濱屋らんはどうすんの?」

「……別にどうもしませんよ。ただの話題づくりでしょ」

「あーあ、言っちゃった。もし本気だったらどうすんだよ。モテ男気取りか?お?」


 俺は大きくため息を吐く。社長と話していてまともに思った方向に話が進むことはまぁ無いのだが。

「……その話もまぁ置いておいて、その濱屋さんから聞いたんですけど」

「お前の(めかけ)の?」

「帰ろ。お疲れさまでした」

「おう、お疲れ」

 へらへらと笑いながらひらひらと手を振る。だがそんな事言われてそのまま帰るのも癪だ。

「……で、濱屋さんから聞いたんですけど」

 何事もなかった様に話を切り出す。

「お前の側室の?」

 もう無視する。きっと精神年齢が小学三年生並みなんだろう。

「社長昔ヴァルプロにいたんですか?」

「おう、ずいぶん懐かしい話だな。何か言ってたか?」


 須藤さん達との打ち合わせの時に世間話程度にそう聞いただけだから、詳しいことは何も知らない。けど、何となくその聞き返し方が気になった。

「いえ、何も」

「あ、そう。まぁ何でもいいわな、昔の話だ。どうでもいいな」

 勝手な人だなぁ、と思ったけど今更なので口には出さない。


◇◇◇


「いいか?白田。前振りとかじゃないからな?無駄遣いだから絶対にやめろよ?」

「うんうん、わかってるって」

 助手席に座りシートベルトを締めながらニコニコと満面の笑みを見せる白田桐香さん。

「ところで五月くんは何色が好き?」

 ハンドルを握ろうとした手を止めてジロリと白田を睨む。

「これは脅しじゃないぞ、警告だからな。マジで怒るから。絶対買うなよ?車」

「もうっ、好きな色聞いただけじゃない」

 不服そうに白田は呟く。だが、思い上がりでなく白田が俺の好きな色程度を知らないわけがない。なので、絶対に他に意図がある。つまり新車購入。



 今日は車の免許を取って初めて白田を隣に乗せる日だ。


 車はレンタカー。調べる限り一番安全そうな車を借りた。自動ブレーキとか何かそういうのも付いている。

「ヘルメットは本当にいいのか?」

「五月くんはヘルメット被って車に乗ってる人見たことある?」

「いや、確かにF1位でしか見たこと無いけど、無いよりあった方が絶対安全だろ」


 少し郊外の、道が広くて且つあまり車通りの多くない場所迄わざわざ借りに来た。自分一人ではもう何度も運転しているし、紙谷と柊を乗せての運転もした。


 でも白田は初めてだ。

「大丈夫」

 ニコニコと上機嫌な白田。

「……じゃあ出発するぞ」

「うん!」


 出発。


 わき見運転をするわけにはいかないから見えないけれど、白田のわくわく感や高揚感は何となく隣から伝わってくる。

「安全運転だから」

「うん」


 歩行者もおらず、道がそれなりに広くてまっすぐで信号もあまりない道路。中央分離帯と呼んでいいのかわからないけれど、二車線挟んで草が馬鹿みたいに生い茂っている道路。その向こうに反対車線。それなりに高低差もあるので時折見晴らしもいい。通り沿いには大学とか、ホームセンターとか、ショッピングモールみたいなものもある。けど、目的はそこには無い。ただ車を走らせる。


「景色見てる?」

「ううん」


 聞かなくてもどこを見ているのかはわかる。自意識過剰とかでなく。

「ねぇ、動画で撮ってもいい?」

「やめろ。俺は撮られる側じゃない」

「じゃあ写真は?」

「当然だめ」

「ケチー」

「ケチじゃない」


 音楽を流したりもしない。テレビを映したり、映画を流したりもしない。本当にただのドライブ。

 

「聞き流してくれて構わないんだけどさ」

 左手側に自動車教習所が見えた辺りで不意に白田が呟く。

「うん」


「わたしは五月くんの人生を少なからず歪めちゃったと思うの」


 そんな事無い、と答えたところでさして意味のある返答とも思えなかったので大人しく続きを聞く事にする。そもそもの話として、人と関わるって事はそういうことなんじゃないのかとふと思った。


 関わる、影響を与える、歪む、変わる。たぶん全部一緒。程度の差はあるにせよ。何となく、星とか重力みたい。


 運転しながらそんな事を考えていると、白田が言葉を続ける。

「……だから、ちゃんと責任取るからね」


 ちょうど信号待ち。チラリと白田を見て問い返す。

「責任って?」

「絶対……、幸せにするから」


 その言葉に眉をひそめる。

「俺はしないよ?」

 白田は一瞬驚いた顔をしたが、信号は青。


「幸せにしてもらうつもりも、するつもりもないから」

 何て事はないただの言葉遊びだ。

「白田といれば勝手にそうなってるだろうからさ」


 少しの間沈黙。表情はわからないけれど、白田といる時は沈黙も悪くない。多分体感十秒位経ってようやく口を開く。

「ふふ、そっか。そうだね」


 試しに窓を開けてみると、時速五十キロで切った風が分離帯の草の匂いを纏って流れ込む。もうすぐ七月、夏の始まりだ。


「ねぇ、五月くん」

 

 多分信号で一旦車が止まったのを見計らって、白田は口を開く。


「……ずっとここにいさせてね?」

 柔らかく微笑む白田の表情に、照れくさくなり視線を前に戻す。

「……車の中に?これレンタカーだけど」


 白田はクスリと笑う。

「ううん。五月くんの隣。ずっと。ずーっと。いい?」

 そんなのもうとっくにずっと取っておいてある。まだ言わないけど。

 

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