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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白雪姫と呼ばれた幼馴染

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晴れた四月の物語

◇◇◇


 四月。始まりの季節。生まれて初めての転校という経験に不安を感じないと言えば嘘になる。カーテンを開ければ外はいい天気だ。


 新しい制服を身にまとい、新しい通学バッグを持ち、新しい通学路を経て新しい学校に向かうのだ。学校も今までより遠くなるので、必然家を出る時間も早くなる。それに加えて慣れない乗り換えもあるから万一乗り遅れたりミスったりした場合を考えて更に早く家を出る。


「えっ」


 すると、何とマンションの前で白田とバッタリ鉢合わせる。俺の制服は新しい制服だ。

「あー……、おはよう」

ドッキリを仕掛ける前にタネが割れた様なバツの悪さを感じつつ挨拶をするが、白田からは挨拶は返って来ず、何秒か俺を見たまま固まっている。車が一台通り過ぎた後で『白田?』と問いかけると、白田は困り顔でペチペチと自身の頬を軽く叩く。


「ごめん。おはよ、五月くん。今日は早いね。ふふ、朝一緒になる事なんて全然無かったのに」


 そして頬を叩いた事で何かをリセットしたようで、白田は全く何事も無かったかのようにニコリとほほ笑んだ。それが何だか面白かったので、俺も話を合わせてそのまま登校する事にした。


「あぁ、そうだな。今日から高三だから遅刻しないように早く出たんだ」

「それはいい心がけだね」


 情報を省いてはいるが全く嘘は言っていない。そのまま何でもない話をしながら駅まで歩く。改札を通り、都心方面へ向かう上り電車の準特急に乗る。


 駅を二つほど通り過ぎた頃、今まで何でもない話をしていた白田が急に困惑した様子で俺の袖を引く。

「冗談だよね!?」


 どこの世界に新学期早々他校の制服を着て他校に向かうなんて身体を張った冗談をするやつがいるのだろう。俺は首を横に振る。

「白田。世の中には冗談の様な本当の話があるんだ」


 車窓の外、桜並木は始業式を待たずに八割方散ってしまっている。その代わりとばかりに空は雲一つなく真っ青に晴れ渡る。

「……ごめんね、違ってたらショックだから確認させて欲しいんだけど、もしかして……わたしと同じ学校に通うって言う事?」


 コクリと頷き、『そういう事』と答える。


「本当!?」


 電車の中にも関わらず少し大きな声を上げてしまい、慌てて口を手で隠す。そして表情は申し訳なさそうな顔に変わる。

「……やっぱり、わたしの為にやってくれたんだよね。ごめんね、転校までさせちゃって」


 白田ならそういうだろうと思っていた。想定内。俺はわざとらしいほど大きくため息をついて首を横に振る。

「気にするな、って言っても無駄だろうから言うけどさ、誰の為かって言えば勿論俺自身の為なんだよ。残り一年、仕事優先で全力でやる為にベストの選択をしたらこうなったってだけの話だから」


「そっか。……ありがと」

「だからお礼も謝罪もいいんだって。自分の為なんだから」


 まだ少し納得出来なさそうな視線を向けてくるが、一駅通過した辺りで諦めてコクリと頷いた。


 準特急に三十分程乗ると電車は乗り換えの駅に着く。乗り換えの改札に向かおうとすると、『こっち』と白田に袖を引かれる。白田が向かうのは東口出口。


「乗り換えこっちじゃないだろ」

 あまり都心の駅には来ないからさほど自信はないが、案内板を見る限りでは明らかに出口だ。

「いいの。こっち」


 まさか新学年早々サボるって事もないだろうし、きっとこっちの方が近道とかなんかそんな感じかな、と思っているとロータリーに見慣れたグレーの国産車が止まっているのが見える。


「あれっ、雨野くんと一緒に来たんだ?」

 運転席の窓が開いて沢入さんの声。どうやらいつもここから学校まで沢入さんに送って貰っているようだった。

「学校でビックリさせようと思ったんですけど、たまたま家出たところでバッタリ会っちゃって」

「十分ビックリしたよ。沢入さんも知ってたんですか?」


「うん、もちろん」


「もうっ……。そうやってわたしだけ」

 頬を膨らませて憤りながらも、白田はやはりどこか嬉しそうだ。


◇◇◇


 駅から学校までは車で約十分。沢入さん的には自宅から送りたい様だけど白田が固辞しているそうだ。


「ストーカーとか痴漢もいるから車の方が絶対いいのに。雨野くんからも言ってあげてよ」


「だって沢入さんの家からうちまで来てまた学校までなんて大変じゃないですか。でももう平気ですよ、来月から五月くんと一緒に車で行きますから」


「うお、決定事項かよ。つーか来月中は無理だろ」

 

 そうは言ったものの正直な話、既に教習所には通い始めている。誕生日の日に仮免試験を受けられるように、最短で取れるように余裕を持ってだ。費用は……分割払い。頑張って働かないとな。


 イメージトレーニングの為に助手席に座る。バックミラー越しに見ると白田は嬉しそうに微笑んでいる。

「じゃあ六月だっていいもん。五月くんはどんな車が好きなの?」


「いやいや、それ答えたら絶対買うやつじゃないっすか」

「ふふ、いいからいいから。ねぇどんな車が好きなの?」

「良くねぇ。お金は大事に使え」

「使ってるよ?」


 見た目とかスピードとかでなく、自動ブレーキとか安全性能が高い車がいいなとは思っている。口に出すとマジで買われるだろうからおいそれとは言えないけど。


◇◇◇


「それじゃ。今日も一日頑張ろ」

「はい!いつもありがとうございます」


 学校の近くで俺達を下ろし、沢入さんは出勤する。


 そして俺と白田は学校まで歩く。角を一つ曲がるとかの本当に僅かな距離だけど、白田と一緒に学校に向かう。小学三年のある日以来、何年か振りに。


「……緊張してきた」

 冗談ではなく真面目な話。

「わたしも」


 あまり人付き合いは得意で無い上、高校三年からの転校。しかも周りは芸能人やら。何だかんだと言いながら、小中高と紙谷と一緒だったのでぼっちにならずに済んでいたんだなぁと今更ながら思う。色々アレな所もあるやつだけど、いざ離れてみるとそんな事を思う。


「ところで五月くんは何組?」

 

 昇降路と言うか下駄箱ロッカーの手前辺りで白田が俺に問う。

「ん?今聞く?」

「えっ」


 本日二回目の『えっ』の後で白田はまた立ち止まる。


「白田さーん、おはよう~」

「えっ!?あっ、おはよう!」


 クラスメイト?に声を掛けられて再起動した白田は嬉しいのか困っているのかわからない引きつった笑顔を俺に向ける。

「……本当に?」


 念を押されてそこで初めてもしかして迷惑だったかもなんて事に思い至る。自分を棚に上げて考えていたけど、他の誰かが同じことをやったら間違いなくストーカー認定される事案だ。


「あ、ごめん。ストーカー臭いか。でもそういうのじゃなくて。その……あくまで仕事の便宜上だからな。ほら、普通の学校に通ってると学校休んで仕事行けないだろ?須藤さんの本が映画になったりとかさ、その時に困るだろ?」


 昇降路の隅で弁明を始めると、白田は周囲をチラリと確認した後で嬉しそうに俺の袖を引く。


「わかってる。でも嬉しい」


 すごい単純な話なんだけど、その言葉と表情だけで転校の不安も何も吹き飛んでしまう。


 そんな晴れた四月の物語。


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