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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白雪姫と呼ばれた幼馴染

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嵐の春に

◇◇◇


 白田の芸能生活はまさに順風満帆そのものだ。


 その順風満帆な芸能生活に、残り僅か一年で彼女は別れを告げる。世論はそのいきさつと潔さを好意的に迎え入れたが、同業者……取り分け彼女の様に売れることを望む同性の同業者からはやはり妬みややっかみを受ける事になる。受けると言っても直接何かをされると言うわけではなく、SNSでそれらしいことを呟かれたり、噂で伝わってくる程度のもの。


 それはそれとして、三月に入り春以降の予定も着々と埋まってくる。クリスマスに白田から貰った明らかに高級そうな黒い皮革製のスケジュール帳の出番だ。流石に金額を調べる程野暮では無い。


 放課後、都内某所の小さな芸能事務所に出勤する。今日白田はドラマの撮影なので、白田と沢入さんは朝一から現場に出ている。事務所には俺と社長の二人だけとなる。


「そういやこないだ桐香の公式に上げてた子可愛いかったな。あの子引っ張ってこれねぇの?お前らの一個下くらいか?SNS見た感じ結構胸もでかいし、ロリ巨乳は確実な需要があるからいい線行けると思うんだが」


 勿論社長の言っているのは人気コスプレイヤーのUPA子(うぱこ)さんこと相宮(あいみや)詩子(うたこ)さん。俺の師匠。年齢は一個下なんてはずも無く、確か今年で二十三か四かだけど一々社長に教える必要性も無いだろう。そもそも女性の年齢を勝手に教えるのもどうかと思うし。って言うと少し古いか。


「俺も聞いてみましたけど本人無理って言ってましたよ」

「あほか。無理って言って引っ込んで仕舞いなら何のために交渉ってもんがあるんだよ。ガキの御用聞きじゃねぇんだ。あ、もしかしてアレか?『ぼくちゃんアルバイトだし~』とかプロ意識のかけらもない感じか?」


 別に仕事として聞いた訳でもないし、わざと人をイラつかせる物言いをしているのはわかっているのだが、わかっているからと言ってイラつかないわけでは無い。


「違いますよ。社長がヤクザな事務所に知り合い誘うのが忍びなかっただけっすよ」

「わはは、言うようになったじゃねぇか。つーか俺みたいな善良な一市民を捕まえてヤクザはねぇだろ。さて、無駄話は終わりにして今日もお勉強といきますかね。一日でも早く一人前になって給料泥棒卒業して貰わんとな」


「ぐ……」


 明確に否定ができないところが少しだけ悲しい。


 因みに今日の講義はフロント企業の見分け方と偽巨乳の見分け方だった。無駄話や実体験を交えながら約二時間の講義を終える。時計の針は十九時近くになっていた。


「んじゃ今日はこれで終わりだ。いい御身分だよなぁ、給料もらえてお勉強まで出来て」

「……それに関しては返す言葉もないっす」

「わはは、まぁ冗談だ。そう真に受けんな。三月迄は試用期間と思っとけ。来月からの一年が本番だろ。五月になったらマジで車の免許取れよ?」


 誕生日に合わせて車の免許を取れば沢入さんの手を煩わせるでも無く白田の送迎ができるようになる。


 放課後と土日だけ。


 ――気に掛かっている事が一つある。


 白田に言うときっと『ううん、全然そんな事無いよ』と返されるだろう事。アルバイトではあるが、俺は白田のマネージャーとしてここバブルボムプロダクションで働いている。学校に通いながらなので、放課後と土日だ。


 白田は芸能科のある高校に転校したので、今は基本的に仕事中心の生活を送っている。なので、例えば今日みたいに白田が朝から仕事の時には沢入さんが帯同する形となる。


 何が言いたいかもう少しかみ砕いて考えてみる――。


 要するに、白田が本気で頑張っているのに、俺は片手間でポーズだけじゃねぇ?って言う話。放課後や土日、まるでクラブ活動の様な芸能活動。


「あのー、社長」

「あん?」


 呼びかけると社長は振り返りもせず加熱式喫煙具を咥えながら冷蔵庫を探る。


 白田に聞いても、沢入さんに聞いても、師匠に聞いても柊に聞いてもきっと『そんな事無い』と言うだろう。だから、もしかするとそれが真実なのかもしれない。


「俺、学校辞めた方がいいですかね?」


 社長は振り返ると嬉しそうにニヤニヤと笑っていた。

「いいんじゃねぇ~?」


 社長が何と言うか想像が付かなかった。だけど、『そんな事無い』と言わないことだけは確信していた。だから俺は言葉を続ける。


「残り一年間、白田は後悔しないように本気で頑張ってます。自分の為、ファンの為、会社の為」

 敢えて言わないが、多分俺の為にも。

「なのに俺は学校の片手間でしか手伝えない。前言ってましたよね?これから映画とかもあるって。調べたら一ヶ月とか掛かるみたいじゃないですか。ロケとかで遠くに行くかもしれない。その時俺はそこにはいない。家や学校で『白田頑張ってるかな?』ってスマホを見る。……それって前と同じじゃないですか」


 社長はやはりニヤニヤと口元を緩めながら俺の話を聞き、うんうんと何度か頷く。

「いいと思うぞ~、学校なんざ辞めても。学校の勉強なんて社会では使わないってよく言うしなぁ。それより残り一年の愛する桐香ちゃんとの芸能生活の方が大事だよなぁ。ちょっと煙草失礼」


 答えを待たずに柄シャツの胸ポケットからクシャクシャの煙草を取り出しておもむろに火をつける。


 そして長く一息吸うと天井に向かい長く吐き出す。

「良いよなぁ。学校辞めて中卒でも学が無くてもきっと一生裕福な彼女が養ってくれんだもんなぁ。溺愛されてんもんなぁ。二十年くらい経って、三十半ばで仕事が無くても金が無くても『大丈夫だよ、五月くん!五月くんは頑張ってるよ!わたしの為に学校まで辞めてくれたもんね!』とか言ってくれそうだもんなぁ、わはは。羨ましい事で」


 社長は冷蔵庫から取り出した強炭酸水を開ける。プシュッと炭酸の弾ける音がする。


 相変わらず露悪的な言い方をしてくるが、言わんとしていることは分かる。そして自惚れでなく白田はそう言いそうだと想像が出来てしまう。『為に』は『せいで』と裏表だ。


 俺と白田の人生は当たり前だけど一年後も続くのだ。十年、二十年、それからもっと先も。



「……じゃ、じゃあ一年休学とかが現実的ですか?」

「おっ、ナイスアイディア。只でさえ注目を集めてるのにダブリ先輩として更に耳目を集めたいってわけか。欲張りだね~、お前さんも」


「ならどうしたらいいんですか」

 口を離れてからその言葉の情けなさを知る。


「あほ。それこそてめぇで考えな。お前らの人生だ。ああしろこうしろとは言わねぇが……、考えたなら手助け位はしてやらんこともない。バイトとは言え大事な社員様だからな、わはは」


 社長の口振りからして、俺の質問に対してきっとこの人は何らかの答えを持っているのだろうなと感じた。

 

 甘えかも知れない。きっとヒントを出してくれているのかもしれない。考えが足りない。もっと考える。


 あの日俺と白田で決めたように、誰か一人がリスクを追わない様な方法を。少し損をする代わりに、少し得をする様な方法を。


 ――一つ思い付く。


 俺と、会社と、友人たちと、両親に少し迷惑が掛かるかもしれない方法。


 一つだけ条件が合わない。


 どれだけ考えてみても……、白田に損がない。


 俺が顔を上げると灰皿には煙草の吸い殻が三本あった。


「何か良い案でも?」

 俺の表情を見て社長は問う。


 俺はコクリと頷く。きっと、バカなアイディアだ。


「転校します。俺も白田の学校の芸能科に。でもお金はありません。どうしたらいいですか?」


 社長は嬉しそうにニヤリと笑う。

「ストーカーか、お前は」


 俺もつられて笑う。

「違いますよ、マネージャーっす」


 

 驚く事に、書類はもう用意されていた。掛かる費用は会社が持ってくれるそうで、両親は二つ返事で了承してくれた。


「学校の勉強なんて社会で役に立たないって言うだろ?そんなのそいつがそんな世界でしか生きてないだけだ。恥ずかしいから言わない方が良いぞ。『私はバカです』って言ってるようなもんだから」


「俺言ってませんよ。言ったの社長っす」


「あ、そうだっけ?とにかく、勉強はしっかりしとけ。それが条件だ。親御さんに心配掛けんなよ」


 俺はコクリと頷く。


 勿論、白田にはまだ秘密。


 まもなく始まる最後の一年、嵐の春になりそうだ。



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