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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白ブタと呼ばれた幼馴染

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パッチワーク

◇◇◇


「大変だったんだよ。ちょっとテレビで流れたくらいで皆馬鹿みたいに群がっちゃって。とっくに写真集売れてるっつーの」


 頬に大きめの絆創膏を貼った伊吹こずえは呆れ顔でため息を吐く。


 五月達三人が白田らの通う私立高校に着いた時には、白田桐香は既に早退していた。体調不良と言う事らしい。


「伊吹さん、それ()大丈夫なのか?」


 五月は眉を寄せつつ、自身の頬を指さして伊吹に問う。


「あー、うん。勿論。全然平気。でも本当桐香じゃなくてわたしの顔で良かったよ、あはは。男の顔の傷は勲章って言う――」

「……そんな訳あるか。同じ女の子の顔だろ」


 己の無力さへの苛立ちもあり、五月はつい語気を強めてしまう。


 ――幼い頃からずっと男勝りで、男子よりも背が高く、ずっと男子のような扱いを受けてきて、本人もそれを受け入れていたが、本当はずっと女の子扱いされたかった。


 伊吹こずえはキラキラとした瞳を五月に向けたかと思うと、次の瞬間には悲しそうに委員長をみる。

「……いいんちょ~。何でいい男には既に相手がいるの~?」

「それはいい男だからよ」

「なっっ……とく!……ごほん、とにかくさっちゃん。わたしの心配はいいから。今は桐香だよ。気分が優れないって帰ったきり全然連絡もつかないんだ。……絶対気にしてる。わたしがガラスを避けていればこんな事には!」


 冗談抜きに悔しそうな顔でダンと足踏みをするこずえ。

「気にするところそこか?」


「雨野くんは桐ちゃんに連絡取れた?」

「んー。既読は付いてるんだけど、返事はまだ」

 

『これからそっち行く』と送ったメッセージ。既読は付いているが返信は無い。五月は考える。白田は今どういう気持ちだろう?自分のせいで大切な友人を傷つけてしまった?今は誰にも会いたくない?わたしがテレビなんて出なければ?


 考えても勿論答えなんて出るはずはない。


 もう二度と距離は置かないと決めたのだ。ならば次に取るべき行動は自ずと決まっている。


「白田の家に行ってくる」

 それが迷惑かどうかの判断は白田に委ねる。


「うん、頑張れ」

「俺らちょっと用事出来たからそっちは任せたぞー」


 和久井柊はひらひらと手を振り、紙谷庵司はへらへらと笑う。三人は同じ中学の出身だ。五月は駅へと急ぐ。『今日から放送だよっ』と嬉しそうに伝えてくれた白田の気持ちを考えると、どこにどんな感情をぶつければいいのかもよくわからずに走る。


「さて、と」


 和久井柊は長めの髪を両手でかき上げると、ヘアゴムで後ろに束ねる。整った顔にいつもの柔和な微笑みを浮かべるが、目は笑っていない。


「相手はわかってるんだよね?」


 和久井柊はチラリと横目に委員長を見る。彼女は何の事、とも聞き返さない。何をするつもりなのかも問い返さない。それでも委員長――伊豆井(いずい)美弥子(みやこ)は唇を結んだままコクリと頷く。


 伊吹こずえとは同じ中学の出身だ。性格は真逆と言えるが不思議と馬が合う。保健室に付き添い伊吹の怪我の手当を見た。左頬の真ん中辺りに綺麗に三、四センチ。痕が残るかもしれない。


 そう考えると悔しくて、悲しくて、涙が目に滲む。


「つかお前は医者行けよ。何なら連れて行ってやろうか?お姫様だっこで」

「や、それは勘弁」


「取り合えずこずえちゃんは医者に行ってきな。それだけ皆見てたならきっと誰かのスマホに証拠残ってるだろうから。大人の喧嘩するならきっと必要になるよ。さぁほら、行った行った。庵司、そっち頼むよ」


「オッケー。じゃあ子供の喧嘩は頼むぜクソヤンキー」

「いやいや、君に言われたくはないから」



◇◇◇

『傷は平気?』

 白田のスマホの伊吹へのメッセージ画面にはそう入力されていたが送られてはいない。まるで他人事のように感じられて、どの面下げて送ればいいのか分からなかった。


『ごめん』も、『ありがとう』も違う気がした。


 どこから間違えたのだろう?


 早退して部屋に閉じこもり、ベッドに潜り込む。父も母も仕事なのでこの時間は家に一人きりだ。


 五月からも、伊吹からも、委員長からもメッセージが届く。社長からも、両親からも届く。

 

 そのどれにも返信が出来ない。


 自惚れでなく、きっと伊吹こずえは許してくれるだろうと思う。どう答えても、きっと明るく背中を叩いて笑うと思う。委員長も、五月も、きっと許してくれるだろう。


 誰か責めてくれれば楽なのに、と思う他力本願さにまた嫌気が差す。


 明日また学校に行けば、また同じ様な騒ぎになるのだろうか?そうすればまた皆に迷惑が掛かってしまうだろう。


 そう言えばと、以前社長に芸能科がある学校への編入を勧められた事を思い出す。二人と離れるのが嫌で断ったが、その時に移っていれば……と嘆いても後の祭り。


 転校したい、と伝えたら両親は何と言うだろうか?


 もうすぐ楽しみにしていた修学旅行だったのに。


 前に委員長は言った。『仕事辞めたら?』と。


 その時に辞めていたらこんな事にはならなかった。考えてももう遅い。元々雨野五月と近付く為に始めたグラビアの仕事。彼が読む雑誌の表紙を飾れば話しやすいのではないかという荒唐無稽なアイディア。それは百点満点と言えるほど上手くいった。行き過ぎた。過ぎたるは及ばざるが如しだ。


 事務所とは毎年更新の一年契約だ。契約書は両親にもよく読んでもらい、噛み砕いた説明をしてもらい、納得してサインをした。三月迄の契約だ。CM放送中の今辞めたら違約金とか掛かるのだろうか?


 色々な考えがぐるぐると頭を駆けめぐる。


 仮に今仕事を辞めたとして、辞められたとして、元通り学校に通えるわけではない。伊吹こずえの傷が消えるわけではない。


 五月と再会するという目的を果たしたのなら仕事は辞めればよかった?契約があるから辞められなかった?


 辞めなかったのだ。自分の意志で。


 再会すると言う目的は、果たした。でもそれだけでは満足できなかった。綺麗に映る自分を見て欲しい。かわいいと言って欲しい。好かれたい。好きになって欲しい。


 事務所への恩返しも勿論嘘ではない。


 けれどもそれ以上に、ただ自分をよく見せたいだけで続けたようなものだ。自分には価値があると思われたくて続けたようなものだ。


 結果、背中を押してくれた大切な友人を傷付けた。自尊心と自意識と不安と期待と、恋心と仮初めの自信。何の整合性も取れていないつぎはぎの様な心と行動で、傷付けた。


 涙は流れない。潜った布団の中は暗く、重く、息苦しい。まるで深海の様だ。


 ――不意にインターフォンのチャイムが鳴り、現実に引き戻される。


 見なくても相手は分かった。


『開いてるよ。わたししかいないから』


 布団から出ず、メッセージを送る。返事は見ずにそっとスマホの画面を伏せた。







 



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