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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白田桐香と呼ばれた幼馴染

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雨の五月の物語

二話だけエピローグです。

◇◇◇


 その日は朝から雨だった。


 苗字の割には雨に降られない俺だったが、ジンクスとは当然世界万能の真理と言うわけでは無い。雨くらい普通に降る。


「五月くん、ネクタイ曲がってるよ」

「……いつかもそれ言ってたよな。もうその手には乗らないよ」


 いつか、とぼかしたけれど、当然いつかは覚えている。白田桐香の芸能活動最後の日、五年前の三月三十一日の朝だ。


 白田はクスリと笑って俺のネクタイに触れる。

「今日は本当だもん」


 ビジネススーツでは無く黒のスーツ。白田は薄いオレンジ色のワンピースドレス。


 今日は友人の和久井(わくい)(しゅう)相宮(あいみや)詩子(うたこ)さんの結婚式だ。


 ヘアメイクは式場にスタイリストさんを呼んであるので、髪型はいつも通り。黒く、長い、艶のある髪。


 白田が芸能界から引退した後、社長からのお誘いを受けて詩子さんもバブルボムプロダクションに所属した。がっつり仕事をした訳ではないけれどコスプレイヤー『UPA(うぱ)子』としてグラビアを中心に活動して、写真集も三冊ほど出版されている。白田のそれと違い、割に露出の多いそれを見る時は白田の視線に注意しなければならなかった。本人曰く、『もういい歳だしね』との事で昨年末を持って芸能活動を終えている。ちなみにその間も看護師として勤務を続けていたのだから恐ろしいバイタリティと言う他無い。


 柊は大学を卒業して今年は社会人生活二年目。勤め先は割と名の知れている食品会社の営業職。五年の間に、一度別れてまたよりを戻してと色々あってのゴールイン。なんだかもうすでに泣いてしまいそうだ。


「詩子さんコスプレするかなぁ」


 助手席で白田は嬉しそうにクスクスと笑う。

「あの人親バレ極端に嫌ってるからしないんじゃねぇ?」

「そっか。かわいいのに」


 芸能活動をしている間も一切親には秘密と言っていた。

「柊は絶対に絵になるよな。いっそあいつが王子様のコスプレでもすればいいんだよ」

「ふふ、似合いそう」


 東京都下の俺達の家から車で大体一時間乗って、都内某所の結婚式場。かつては維新元勲の別邸だったとかなんとかそんな由緒正しい場所らしい。


「お、ご両人。久し振り」

「桐香~!今日もかわいいねぇ」


 早めに会場に着き、ヘアメイクを終えて受付へ。受付には小学校からの腐れ縁である紙谷(かみや)庵司(あんじ)と、白田の恩人とも言える伊吹こずえさんと委員長の姿。

「おら、金」

 庵司は笑顔で手を差し出す。

「金、じゃないだろバカ」

 すかさず伊吹さんが紙谷の頭をバシッとはたく。慌てて周りを見渡すが、幸いにも俺達以外の人はいなかったので、伊吹さんも安堵に胸を撫でおろす。


「……ったく。一番受付任せちゃいけないヤツでしょこいつなんて。柊くんも何考えてるんだか」

「そりゃ当然だろ。親友だからな。考えてもみろよ、五月に任せず俺には任せる。答えは一つだろ」


 紙谷は得意げに自分の胸を叩く。


「雨野さんと桐ちゃんには純粋にお客様として楽しんでほしいからって言ってたよ」


 紙谷達の隣には委員長こと伊豆井(いずい)美弥子(みやこ)さん。セオリーでは新郎新婦側から各二名らしいが、『割れない数だし三で良くない?』と鶴の一声で三名になったそうだ。因みに紙谷が新郎側で、伊吹さんと伊豆井さんが新婦側。


「あぁ!?じゃあ俺らは何だってんだよ」

「うるせぇ、いいからお前は仕事しろ」

 不平の声も伊吹さんにかき消される。


 白田はジッと伊吹さんの顔を見る。伊吹さんは視線の理由に気が付き、ニッと笑い頬に触れる。

「勲章、消えちゃったよ」


 六年前、白田を守って付いた頬の傷。今はもう指を差されても分からない。


 白田は申し訳なさそうに少し眉を寄せながらもコクリと頷く。

「……うん」

 目から涙がにじみ、手で拭おうとするのを見て委員長が慌ててハンカチを差し出す。


 忘れないうちに、とご祝儀袋を出したところで驚愕する事になる。


「なっ……桐香、それ」

「本……じゃないよね?」

 白田のご祝儀袋がもはや袋とは言えない厚さになっていたのだ。

「本じゃないよ?」

「そんなの分かってるよ」


 いくら入っているのだろう?とは、流石の紙谷でさえも突っ込めないようだった。


「雨野さん♪」

 濱屋さんと汐崎さんも式に呼ばれている。UPA子さんとは何度か彼女のラジオやテレビで共演していて、何となく分かっていたけど馬が合う様だった。二人のSNSでは時折もう一人別の第三者の存在を匂わせる写真が投稿されていて、ファンのみならず話題を呼んだ


「無事卒業できて良かったですね♪」

「……マジで危なかったけどね。あ、濱屋さんこないだ映画見たよ。相変わらず演技やばいね」

「ふふん、でしょう♪」

 すでに須藤拓馬原作小説三度目の主演映画。原作も映画も大ヒット中だ。

「一部ネットや週刊誌では原作者との濃密な枕営業を疑われてますけどね。ねっ、太郎ちゃん♪」

「……本当、らんちゃんがどれだけ努力してるか知りもしないで無責任な事を」

 珍しく怒りを抑えながら汐崎さんは言う。


 五年経ち濱屋さんも成人した。この五年間、ドラマや映画の仕事を中心としながら、評価と実績を積み重ね、最早芸能界で確固たる地位を築いたと言えるだろう。プロデュースする衣服や下着も飛ぶように売れ、年間CM数もトップだ。


「今年、動くから」

 濱屋さんはちらりと白田に目配せをして呟き、白田はコクリと頷いて彼女の手を取る。

「応援してる。出来る事があれば何でも言って」

「んふふ、ありがと」


◇◇◇

 場内の写真撮影はご存知加賀美恭也。来賓客には何人もの芸能人。正直な話、これで親バレどうこうは無茶な話だと思う。見るからにカタギに見えない中年男性もいる。


「おう、桐香。久し振りだな、少し太ったか?」


 開口一番、社長はヘラヘラと笑いながらそう口にする。

「社長!いきなり何てこと言うんですか!?大丈夫、全然太ってないからね!?」

 

 沢入さんが慌ててフォローしてくれる。ちらりと見ると、当の白田は何故か嬉しそうに笑う。

「確かに昔より沢山食べてるし、幸せ太りってやつかもしれませんね」

「あっそ。そりゃ結構なことですな」

 素っ気なく答えながらもどこか嬉しそうにニヤリと笑う。


「あー、ところで五月。お前の担当のあずちゃんな、また胸のサイズデカくなったってよ。」

「今その情報要りますか!?」

 憤慨した様子で声を上げる白田。

 社長の言葉通り、大学を卒業した俺は結局社長の所に就職した。自分には何が出来るのか、したいのか。五年間自分なりに考えて、勉強して、経験して、就活も行いながら最後まで考えて、決めた。


 安定した仕事とは言えないかもしれないし、給料だってさほど高くはない。仕事は忙しい。


 同じ様に、白田も五年間ずっと考えていた。


 濱屋さんや詩子さんが活躍するのを自分の事の様に喜びながら、俺が業界に戻る事でやはり一番近くにいたい気持ちはあったと正直に話してくれた。


 そして今、白田は保育士をしている。


 芸能界に戻る事、事務所で働く事、そしてそれ以外。その全部の可能性を悩み考えた末、俺とは違う世界で働く道を選んだ。多分、これから先もずっと一緒にいるだろうけど、それでもやっぱり俺と白田は別々の人間だから。別々の世界を持ちながらも、隣で一緒に過ごす道を選んだと言う事だ。


 少し偉そうな言い方になるけれど、それってすごく勇敢で健全な決断なんじゃないかって思う。


 入った大学ではその資格が取れなかった為、大学と通信講座と平行しながら、持ち前の努力で見事合格し、今年度から働いている。


 子供が好きだと言う白田は、毎日大変だと言いながらもやはり楽しそうにしている。


「五月」


「おう、(しゅう)


 スラリと長身の細身にタキシードを着た姿はコスプレをするまでもなくまさに王子様だ。

「五月くん、今日は来てくれてありがとう」

 隣には小柄なお姫様。相宮詩子改め、和久井詩子さんだ。白田が白雪姫なら、詩子さんは親指姫……って言ったら怒るだろうか?

「いや、そりゃ来ますよ。ところで師匠、今日はコスプレしないんですか?」

 ウェディングドレスには詳しくないが、純白の一般的なドレスを着ている詩子さんはニヤリと含みのある笑顔を浮かべる。

「お色直しって知らない?」

「あ、なるほど。了解っす」


 そう答えて、荷物からカメラを取り出す。

「一枚撮って良いですか?」

「うん、もちろん。キレイに撮ってね?」


 そう言ってクルリとドレス姿で一回りする詩子さん。詩子さんに遅れてドレスの裾がきれいな輪を描く。


 パシャリ、と柊と詩子さんを撮る。続けて柊と白田、白田と詩子さんを撮る。一枚と言っておきながら何枚か撮る。

 詩子さんに特訓を付き合って貰っていた時を思い出して、不覚にも涙ぐんでしまう。


 式も披露宴もまだなのに。


 窓の外、庭園ではまだ雨が降っている。



 

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