短い自由
聖女ルル・ステラホワイト、アドニス教の教皇、ガルフ・ステラホワイトの1人娘であり、現在17歳、白銀の髪に真紅の瞳の美少女である。
彼女が何故聖女と呼ばれるのか、それは教皇の娘だからという訳ではなく、13歳の頃に人類の敵である魔王軍の強大な力を人が対抗できるまでに下げたからである。
その方法は、極大神聖魔術という神術の1つである神の呪縛と呼ばれるもので、これまで使える者は存在しなかったが、ルルは自らの持つ異常な魔力でそれを成功させた上に自分の持つ魔力の大半を消費し続けて世界中に神の呪縛を展開し続けているのだ。
この魔法の影響で、自分が今後魔法をろくに使えないという事が分かった上でだ。
だから彼女の使う魔法は効果がとても低い、それもその筈、彼女は僅かな搾りかすほどの魔力しか使えないのだから。
そういった経緯からか、彼女に対する各国の対偶は当然の事ながら手厚く、彼女への誠意の気持ちなのか、全ての国の国教としてアドニス教が信仰されている。
つまり人々の認識では彼女は、生きる伝説であり、敵からも味方からも中心の存在であり、全人類の命の恩人である。
そして人々は彼女に敬意を込めてルルを【聖女】と呼ぶのだ。
だからこの世界での聖女もいう肩書きの意味はとても重いのだ。
勇者なんて比べ物にならない程に。
もっと言えば国王という肩書きよりも。
聖女は常に最優先で狙われているのだ、魔物から、魔族から、そして魔王から。
そして人類からは最優先で守られているのだ、決して失う訳にいかない人柱として。
それが聖女ルルの立場である。
しかし彼女は今日もギルドで働いている。
残り少ない魔力を使って金を稼いでいるのだ。
この姿を父である教皇が見たら激怒するか卒倒するだろう。
「はい、これで大丈夫ですよ」
「ありがとう、先生の回復魔法はいつも丁寧で助かるよ」
「いえいえ、お力になれて良かったです」
「それじゃ、また頼むよ」
治療を終え、冒険者が出て行くとルルは一息つきお茶を飲む。
「今日も平和だなぁ」
そんな事を考えていると、珍しくギルドマスターが医務室にやってきた。
ちなみにこのギルドマスターはゴツい。
身体が2mもあり、スキンヘッドに頬にキズ、さらには筋肉ムキムキなのだ。
「よぉルーちゃん」
「こんにちはギルドマスター、どこか怪我でもしましたか?」
「いや、今日国から重要な連絡が来てな、ルーちゃんにも伝えとこうと思ったんだよ」
「そうなんですか、余程の事なんですね」
「…そうだな、じゃあ1つ目だが、勇者トオルが神聖国から指名手配された、何でも聖女様をパーティーから追い出したらしいから、当然っちゃ当然だな」
「酷い人ですね」
「本当にな、俺がそこに居たら殺してるだろうな、じゃあ2つ目だが…聖女様の捜索依頼がきた…写し絵と一緒にな」
「……」
ギルドマスターは私に見えるように写し絵を見せてくる、そしてルルは冷や汗をかきはじめる。
「あれれー、この写し絵誰かに似てるなぁ、最近どこかで見たなぁ、何処だっけなぁ」
「ぶっ…くっ」
ルルは突然のギルドマスターの裏声に吹き出してしまう。
筋肉ムキムキ男の裏声はインパクトが凄いのだ。
そして医務室を静寂が支配した。
「面白かったか?」
「…はい、とても」
「そうか、それで見た事あるよな?」
「……ないです」
「本当か? 本当はあるだろう? 例えば鏡を見た時とか」
ルルは無言で首を横に振り、最後の最後まで諦めないと心を奮い立たせる。
「なぁ、無駄な足掻きって知ってるか? 言っておくが騙せてないからな? そして既に聖堂騎士団に連絡しといたから」
「なっ! そんな! 私あの人達苦手なんですよ! 」
「知らん、諦めて護送されるんだな」
ルルが凄い勢いでギルドマスターに文句を言っていると、ドアが開き、煌びやかな白い鎧を身にまとった数人の男達と1人の女性騎士が医務室に入ってきた。
「お久しぶりですねルル様、お迎えにあがりましたよ」
「げっ…ルミナスですか、貴女騎士団長でしたよね?」
「そうですよ、ですがルル様が行方不明となれば当然私も探しに出ますよ」
ルルはルミナスの言葉を聞いて嫌そうに顔をしかめた。
理由はルミナスがルルの狂信者だからだ。
ルルが白を黒といえばその時点でその色は黒になるくらいには狂信者なのだ。
「さあルル様、帰りましょうか」
「その前に毛糸を買ってきてもらえますか? お父様にマフラーを作ってあげるので」
「かしこまりました、聞いていましたね? 直ぐに誰か買ってきなさい、ルル様をお待たせしないよう迅速に」
「はっ!」
ルミナスの言葉に1人の騎士が返事をし、凄い勢いで外に出て行った。
そして私は装甲馬車で護送される事になった。
馬車が出発する時に、短い自由だったなぁとルルが黄昏ていると、ギルドマスターがいい笑顔で手を振っているのが見えて凄く頭にきました。
…………
何故私がこんな目にあうのだろう。
元勇者パーティーのミストはそう呟いた。
思えばルルを追い出した時から全てが悪い方に転がり始めたと思う。
聖女の重要性についてはミストも理解していた。
でも正直神の呪縛なんか無くても問題無いと、ミストもアンナも思っていた…旅が順調過ぎて私達は浮かれ、聖女より勇者の方が重要だと誤った認識をしてしまっていたのだ。
その結果がこれだ。
ミストは魔法学園の教員免許を取り消され、アドニス教を破門、そして魔術士ギルドを追い出された。
この数日で大事な物は全て失った。
愛する家族にも絶縁された。
最後の言葉はもう家名を名乗らないでくれだった。
極みつけについさっき、罪人を扱うように魔術都市からも追い出された。
絶望と喪失感の中、手荒に扱われボロボロなミストは歩き始める。
何の当てもなく、ただ自分を知る人が居ない所を目指して。




