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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第十四章 代役の終わりと門出
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姉の代わりにVTuber 217


 ◇ ◇ ◇ ◇


88(ハチハチ)の卒業配信を終えた翌日、SNSでは88の配信卒業とその理由が、大きな話題として盛り上がっていた。


88は卒業配信の最後に、卒業する理由を視聴者に伝え、今後の動きとして、自分が大手事務所所属になる事、形や姿を変え、配信者としては活動していくが、新しい場所でのスタートになる為、過去の配信については今後触れる事が無い旨を視聴者に伝えた。


配信者としては、活動をやめないが、88で活動していた事については、今後言及する事が無いと宣言した為、実質的に88は配信タイトルの名前通り、配信界隈からの卒業という形となった。


88の卒業配信を終えた穂高ほだかは、後日学校である為、例に漏れず学校へ通っていた。


登校時間がそれほど早くない穂高は、教室に付くと、それなりの数の生徒が既に登校しており、いたるところでグループを作り、友達同士で雑談し、時間を潰していた。


特にいつも通りの光景である為、穂高は何も気にする事無く、自分の付くへに向かい、歩みを進めていたが、不意に一つの男子生徒達の集団の話し声が耳に入った。


「――なぁなぁ、昨日の88の卒業配信見たッ!?」


「見た見たッ、見ましたよぉ~~ッ!

もう、ちょ~~~ショックでしたッ!!」


穂高は、無意識にその会話をしている集団に、視線を向け、自分の席へ向かっていたはずの、歩みも止まってしまった。


「なんか、『チューンコネクト』に所属って言ってたけど、どうなるんかねぇ~?」


「とりあえず、配信者の活動は止めないみたいだけど、もう88での活動に関しては、言及しないって言ってたし……、普通に寂しいです」


穂高が視線を向ける、グループはよくサブカルに関して話している、いわゆるオタクと呼ばれる人達であり、配信者88の話題でそのグループは盛り上がっていた。


「そういえば、88の配信で思いましたけど、前半に出てた元配信者?、あの人達って誰か分かります??

88と同じように、顔出しはして無かったですし、名前も聞いた事無くて……」


「えぇッ!? 知らないんですかッ!?

みっちょんもAQUAアクアも、当時界隈では凄く人気を博してましたよッ!!

公式で顔出しとかは、お二人共されてませんでしたけど、動画配信サイトの大きなイベントで、お二人共呼ばれてて、そこで顔を見た事ありますよ! 私は!」


みっちょんとAQUAを知るオタクは、急にテンション高く、所々自慢気にしながら答えた。


「いや~~、思い出しますなぁ~~。

お二人共、美人でお優しくて……、とても良い思い出です……。

――あのお二人とは別に、もう一人、配信に呼ばれていた、男性の方は知らないですけど……」


「まぁ、野郎の配信なんて、見ないですからなぁ~~、我々……」


オタク達に認知されていなかったと気付いた穂高は、苦笑いを浮かべ、「まぁ、当然だよな……」と小さく呟き、それ以上の、会話の盗み聞きを止めた。


穂高はオタク達から視線を切り、自分の席へと視線を向ける途中、視界がゆっくりと流れていく中で、一人の女子生徒が目に付いた。


穂高が目に付いた女子生徒は、杉崎すぎさき 春奈はるなであり、先程まで聞いていたオタク達の会話を、彼らの話し声が少し大きい事もあってか、春奈もその会話を聞いている様子だった。


春奈の視線は、オタク達へ向けられ、穂高から見た春奈は、何故かウズウズとしているように見え、オタク達に何か、物申したい事があるようにも、見受けられた。


穂高がそんな春奈に、視線を向けていたのは僅かな時間であったが、偶然、オタク達から視線を切った春奈と目が合った。


特に気にしない穂高は、春奈から視線を逸らす事は無かったが、春奈は後ろめたい事があるかのように、すぐに穂高から視線を切った。


普段であれば、穂高はそんな春奈に、何か思うわけでもなく、気にする事無く自分の席に向かったはずだったが、直近に88の配信に出た事もあり、まだ興奮が残っているのか、配信に関して春奈と話したいと思い、穂高は自分の進路を変えた。


「――おはようッ、春奈はるな


「ッ!? ほ、穂高君ッ!?!?

お、おはよう…………」


穂高は笑みを浮かべながら春奈に話しかけ、穂高から春奈に対して、教室内で話しかける事は、滅多に無かった事から、春奈は動揺しつつ、穂高に返事を返した。


春奈は照れ隠しをしながら、取り繕うようにして穂高に話しかける。


「ど、どうしたの? 急に……。

珍しいね、穂高君から話しかけてくれるなんて」


「ん~~? そうか?

――まぁ、いつも春奈の周りは人が多いし、今日は珍しく誰も回りいないから……。

というか、どうしたの? じゃないだろ??

こないだの配信、見てたんだろ?」


穂高は春奈の疑問に答えつつも、さっそく本題を切り出し、問い詰める様に春奈に尋ねた。


「えッ!? あ、うん。

当然見たよ?」


春奈の答えに、穂高はホッと息を付き、そのまま続けて問いかける。


「当然見たよ? じゃないだろ……。

約束、守ったぞ!!

忙しいのは分かるけど、感想も無しか?」


「え? あ、ご、ごめん……、何かメッセージ送れば良かったね」


不満そうな穂高に対し、春奈は「へへへッ」といった様子で、笑みを浮かべながら、申し訳なさそうに謝罪した。


「配信、凄い良かったよ!

――なんか、昔を思い出せたし、みんな、私が見てた配信者だから、凄く面白かった!」


「そ、そうか…………」


春奈の真っすぐな意見に、会話の主導権を握っていたはずの穂高だったが、何故か少し恥ずかしさを感じていた。


「約束、守ってくれてありがとね?

――全員が全員じゃないけど、穂高君を知ってる視聴者の人は、配信を止めた理由を話してくれてありがとうって、コメントしてくれる人も沢山いたよ!」


「沢山はいないだろ……」


「いたよッ! 沢山ッ!!」


88の配信を語るオタクの輪に、入れなかった鬱憤を晴らす様、春奈のテンションはどんどんと高まり、春奈を少し、揶揄うつもりで声を掛けた穂高だったが、春奈の熱量に押され、どんどんと羞恥心を感じさせられた。


「――ま、まぁ、88の配信の事はさておき、お前の方はどうなんだ??

最近は、春奈が忙しい事もあったり、俺が直接手助けできる事もないから、近況を聞けてなかったけど……。

順調か? そっちは」


穂高は、自分が振った話題ではあったが、分が悪いと感じたのか、話題を変え、春奈の近況について尋ねた。


穂高と春奈は、文化祭の一時期以降、めっきりと交流が減り、文化祭が終わってからは、顕著に会話の回数が減っていた。


そんな現状もあってか、穂高は春奈の近況はあまり知らず、応援している相手であった為、常に春奈の事は気になっていた。


「――あ、うん。

準備に関しては、滞りなく……、佐伯さえきさんは勿論、穂高君のお姉さんもフォローしてくれるしね……。

lucky先生とも、色々お話しして、キャラの方向性も決まってきたし」


「そっか……、良かった」


オーディションに受かった春奈は、完全に穂高の手を離れ、当然だが穂高の知らない所で、どんどんと新人デビューの企画は進んでいた。


穂高は、そんな春奈の状況に、嬉しく思いながらも、少しだけ寂しさのようなものも感じた。


そんな会話を、朝の登校時間に、話していた穂高と春奈だったが、教室にはどんどんとクラスメートが登校し、春奈と仲の良い、見知った生徒達も教室に入ってきた。


瑠衣るいの存在も確認した穂高は、春奈に気を使い、会話を切り上げようとする。


「――じゃ、俺もそろそろ朝の準備しないと……、鞄も持ちっぱなしだし」


穂高は登校して来て、結果的に自分の席に着く前に、春奈と話し込んでいた事から、朝の準備をろくにしておらず、一言別れを告げると、春奈から離れようとした。


「あッ、待って! 穂高君!」


席に戻ろうとした穂高だったが、春奈に呼び止められ、春奈は穂高に神妙な面持ちで話した。


「今日、放課後……、ちょっと空いてるかな?

――穂高君と、ちょっと話したい事があってさ??」


春奈の様子に、穂高は少しだけ違和感を感じつつも、春奈のそんな願いを断る理由が穂高になく、素直に頷き、春奈と放課後に会う事を約束した。

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