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姉の代わりにVTuber  作者: 下田 暗
第一章  成り代わりVTuber
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姉の代わりにVTuber 10


 ◇ ◇ ◇ ◇


「アンタ、正式にあたしの代わりを認められたらしいじゃんッ!」


堕血宮おちみや リムの復帰配信を明日に控え、休養していた穂高ほだかに、着信が入り電話に出ると、そこには入院中だというのに、相変わらず元気な美絆みきの声が聞こえて来た。


「姉貴……。

すげぇ大変だったぞ? とうゆうかこれからの方が大変だろうけど……。

不安しかねぇよ」


「はッはッはッ!

大丈夫だよ~~! リムのリスナーは優しい人多いし。

アタシが振り回しに振り回したのに、きちんとついてくれる辛抱強い人たちだよ……」


美絆の声はとてもやさし気で、どこまでも自分のリスナーを信用し、またリスナーの事をよくわかってもいる様にも穂高は感じた。


そして、まだデビューして間もないというのに、ここまで自分のリスナーと信頼関係ができているのかと感心し、そんな関係を持っている姉を羨ましくも思った。


「あんたさぁ、普通に復帰配信しても面白くないんだからなんかやりなよッ!

ホラーゲームとかさ、ほら、アンタ得意じゃんッ!」


「はぁ~~、するわけねぇだろ。

配信内容は事前に決まってんだよ。

っていうか、姉貴俺がホラー死ぬ程苦手なの知ってんだろ??

普通にビビって素が出て終わりだわ!」


人の気も知らないで、楽しそうに他人事のように話す美絆に、穂高は若干イラっと感じながら答えた。


「えぇ~~、面白いと思うのになぁ~~……。

お化け屋敷とかも絶対入らないもんね~?」


「うっせッ! てか、そんな事は話す為に電話かけたのかよ……」


「拗ねるなよ~~~。

もちろん別件でだよ!

まぁ、今後本格的にリムを任せるわけだし、一言と思ってね……」


からかいに来ただけのように思える美絆に穂高が呟くように答えると、途端に美絆は真面目な声色で話し始めた。


「こんなことになって、穂高を巻き込んでごめん。

でも、こんなことを頼めるのは穂高だけしかいないと思ってる。

それは姉だからではなく、落血宮おちみや リムの中の人として…………。

だから、よろしくね? リムとリムのリスナーを」


「――――わかってる……」


美絆のリムに対する強い思いを改めて穂高は実感し、配信前日にして再び気合が入った。


「――――まぁ、姉贔屓なのかもしれないけど、穂高の配信に関してはそんなに心配してないよ!

昔からあんたはなんでも器用にこなせたしね~~」


「姉貴ほどじゃねぇよ。

なんか俺が新しいこと始めるとすぐに追いついて、追い越していくじゃねぇか。

ちょうど今やってる動画配信だって……」


「まぁねぇ~~、穂高の姉だからねぇ~~~」


嫌味っぽく聞こえる明るい姉の声に、穂高は若干イラっと感じたが、嫌悪感はなく、自然と笑みも零れた。


昔の穂高であれば、完璧超人に近い姉の出来に嫉妬することもあったが、いつしか姉に対しての嫉妬はなくなり、自分がハマり始めたもので例え負けたとしても、少し悔しいと思うだけで、昔ほど大きく嫉妬することもなかった。


「あッ! そういえばさ、ちょっと伝えておかないといけないことがあってさ。

今後、配信をするにあたっての注意事項みたいなの」


「おい……、そういう大事なことは、事前に連絡しとくって約束だろ」


「ごめんごめん!

6期生の同期にかんなぎ サクラっていう同期がいるんだけど、ちょっと仲が良すぎるというかなんというか……。

佐伯さんとの話にもあったようにコラボは、基本控える形でお願いされてるとは思うんだけど、ちょっと彼女には難しいというかなんというか…………」


美絆はしどろもどろに、お茶を濁すように話していたが、もちろんその話題の人物を穂高も把握しており、姉がなんと言わんとしているかは理解できた。


「俺もジスコードに入れるようになったからな……。

とゆうか、俺のとこにも来たぞ? 個人チャットで返信が…………」


「えッ!? なんて来たの!?

なんて返したのッ!?」


穂高の返事に美絆は驚いた様子で、少し取り乱した。


「え……? 姉貴が休んでることは発表してただろ?? ファンに対してもメンバーに対しても……

その件で、体大丈夫か~~とか、復帰頑張って~~程度だったけど……」


美絆の取り乱しように不審に思いながら、正確ではないにしろ、当時のことを思い返しながら話し、それでもそこまでおかしいと思える所も見当たらず、気にする理由が穂高にはわからなかった。


「あぁ~~そう……。なるほどねぇ~~…………。

分担した通り、裏での連絡の取り合いはこれからも私が取るつもりだけど、今、私は病院だし、夜遅くの時間の返信とかは穂高に任せることになると思うんだ。

緊急の連絡ですぐに返信を返すような状況じゃなければ、次の日の私に返信を任せちゃってもいいと思うけどね……。

その裏でのやり取りでの注意なんだけど……、自分で言うのも何なんだけど、サクラに結構好かれてる節があってね?

頻繁にコラボの誘いとか連絡とか、コラボとかでも結構ゲリラ的に起こってたりしてたんだ。

その場の雰囲気とかノリとかで……」


「メンバーとの関係ができてるってことだろ? いいことじゃねぇか」


穂高は少し他人事のように答え、美絆の話をそこまで重要視はしなかった。


穂高の気持ちが声と態度から伝わったのか、美絆はすぐさまそれを指摘した。


「そんな悠長な事言ってる場合じゃないのッ!!

急に凸配信かけてもいいか聞いてくるんだよ!?

家が近い友達に、今日遊びに行ってもいいか聞くような感覚で……」


「えぇ…………」


穂高は予想以上に厄介な話へと変わっていき、顔をしかめ思わず声が漏れた


「私もサクラのことはもちろん嫌いじゃないから、蔑ろとかにはしたことないけど、反応気を付けてね?

特に『ピクセルクラフト』の配信をするのであれば……。

あのゲームは仕様上突発的にコラボも起こりやすいゲームだから……」


「――わかってるよ……。

極力俺も関わりたくないから、あのゲームの配信はやらないし、裏での返信にも気を付ける」


「頼んだぞ~~~。

あッ……、それと私が入院する前にサクラとのコラボの予定をいれてたの。

今週の木曜日に」


「はぁッ!? 聞いてねぇぞッ!?

木曜日ってことは……、一昨日じゃねぇか」


「実は、それの埋め合わせをする約束とかも取り交わしててぇ~……。

まだ、日付は未定だけど断ったら変に思われるからさ…………」


「――まさか…………」


穂高はここまでの話の流れで、姉が何を言わんとしているのかが薄々感づいてしまった。


そして穂高は恐る恐る姉に話の続きを伺う。


「ホントに頼んだぞ! 続報は追って連絡する。

ノシッ!!」


そういって美絆は、穂高との通話を一方的に打ち切った。


「切りやがった……。

――あの野郎、協力したいのか邪魔したいのかどっちなんだ…………」


穂高は切れてしまった電話を握りしめ、姉に恨み言を呟くと、サクラとの一件と存在に気を付ける事を心掛けた。



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