姉の代わりにVTuber 99
「久遠先輩ッ!! そのアングル良いッ!!
最高ですねッ!!」
久遠の3D配信は撮影会の様な流れになり、久遠がひたすらポージングを取らされ、ポージングを取らされるたびに、コメント欄とリムが盛り上がるという構図が出来上がっていた。
「――こ、この体制キツイッ…………」
「何言ってんですか? 久遠先輩!!
いくら何でも体固すぎですよ~!」
久遠はもはや、リムやコメント欄の言いなりになりつつあり、完全にリム達の操り人形と化してしまっていた。
「――――久遠先輩……、知ってますか??
3Dのモデルも出来た事ですし、今後、『チューンコネクト』のライブイベントとかにも、先輩はこれから参加するんですよ?
ダンスの練習も、もちろん久遠先輩はする事になりますし、しかも、噂によると、『チューンコネクト』のダンスの先生は、めちゃくちゃ厳しいらしいですよ?」
「――リ、リムちゃん……? その話は、一周年記念を祝う、今する話じゃないよね……??」
怯えた口調で話す久遠に、リムが手が限する事も無く、続けて辛辣な言葉を久遠に投げる。
「今からポージングで、キツイキツイ言ってるなんて……。
先輩……、ご愁傷様です……」
「まだ分からないからねッ!? 実は優秀かもしれないじゃん!!」
「――そうですねぇ~~、まだ分からないです……。
でも、六期生は先輩の事、ちょっと期待してたりするんですよ??」
話の流れから、キツイ言葉ばかりが投げかけられていた久遠だったが、リムの一転した物言いに、驚きながらも、声色を少し明るくさせる。
「――え? ホントッ!?」
「はいッ! 先輩は運動神経の悪さに定評がありますからねぇ~~。
私達六期生がダンスレッスンを受ける前に、大きく落ちぶれた生徒がいれば、ハードル下がるじゃないですか~~!
何かミスしても、まぁ、久遠よりはマシかって、免罪符が出来るんですよ!!」
「どこに期待してんねんッ!!
リムちゃん?? 私、先輩だよね?? 一応」
草ッ!!
ダイエットゲームでも、その運動音痴さがにじみ出てたからなぁ~~
一周年記念なのに、コラボ相手があまりにも酷いッ!!ww
昨日のモーリアとのコラボだと、煽っても上手く流されてたからなぁ~、その意味では、腹いせが久遠に来てるんだろう……
久遠! ダンスが下手っぴでも、俺は推すぞッ!!
リムのまさかの発言に、久遠は思わずエセ関西弁が飛び出し、リムのあまりの失礼さに、コメント欄は様々な賑わいを見せた。
「――容赦ねぇ~~、姉貴……」
久遠とリムのコラボ配信を頭から視聴する穂高は、思わず部屋で独り言を零した。
(よくもまぁ、ここまでズカズカと失礼な事が言えるよ……。
信頼関係あってのものなんだろうけど……)
穂高は美絆のリムを見て、もし昨日のモーリアとの配信を、美絆が担当していたら、どうなっていたんだろうと、無意識に想像し始めた。
(俺も姉の真似をしてる分結構、ズカズカと物を言ってるとは思うけど……、姉貴だったら、モーリアがむきになる様な、煽りも出来たりするんだろうか……。
――でもまぁ、相手はあのthe人畜無害でド天然のモーリアだからなぁ~~。
姉貴も過去何度かいなされてるし、結局プロレスみたいな事にはならなそう……)
穂高は今の美絆とモーリアとのコラボを思い浮かべながら、純粋に一視聴者として、そのコラボが見たいと心からそう思った。
そして、楽しい時間はあっという間に流れ、久遠の一周年記念も終盤へと差し掛かる。
「――いや~~、今日の3D配信で、久遠のガチ恋勢増やしちゃったかな~~」
「久遠先輩ッ! 心配ないですよ!
ライブでの久遠先輩のダンスできっと減りますんで、帳尻は合います!!」
「リムちゃんは何の心配をしてるの……??
――っていうか、私の運動音痴ネタ引っ張り過ぎぃ~~ッ!!」
「いや、引っ張るっていうか……、久遠先輩から運動神経取ったら何が残るんですか……??」
「――嘘ッ! 私のアイデンティティ少なすぎッ!?!?」
リムと久遠の雰囲気は、終始変わることは無く、勢いそのままに配信の締めへとかかる。
「――ってか、もういいよ! この流れ……。
リムちゃん、そろそろ巻きの指示がマネージャーちゃんから飛んできてるよ!」
「ですね~~。
なんか、久遠先輩の魅力をあんまり紹介出来なくて、悲しいです……」
「――いや、それ、リムちゃんのせいだよね?
一周年記念の助っ人の役割でリムちゃんは来たんじゃないの??」
結局、リムは久遠を終始弄りまくってたな……
まぁ、ポージングを沢山取ってくれてはいたから……
いやぁ~~、今から久遠の3Dライブが楽しみだなッ!w
久遠は3Dモデルを、存分に楽しんで貰ったか疑問が残っていたが、リスナーのコメントを見て、配信を楽しんでいたのは分かり、この配信を一先ず、良しとした。
「じゃあ、最後、一言感想言って締めようか?」
散々喋り通りだった久遠は、少しだけ疲れが見え、配信の予定終了時刻も迫っている事から、リムにそう提案した。
「――あッ、久遠先輩、ちょっとだけお時間貰えますか??」
(――――キタッ……!!)
久遠の提案から、リムは久遠に、配信の中で時間を貰えないか頼み込み、リムの発言から、配信を見ていた穂高は、美絆がこれからしようとしている事を感じ取った。
「――え……? うん、別に大丈夫だけど……」
「ありがとう、久遠先輩……。
――――よしッ! それじゃあ、みんな入ってきてッ!!」
久遠はリムの発言の意図が分かっていない様子で、戸惑いながら返事を返し、久遠の返事を聞いたリムは、今日の配信の中で、一番の優し気な声でお礼を告げ、次の瞬間、何かを呼び込むように声を上げた。
「わ、わわッ! なんだ、なんだッ!?」
リムの呼びかけにより、ピコピコとジスコードのVCチャットに入室した時の効果音が流れ出し、ジスコードが効果音を上げ始めた事で、久遠は何が起こったのか分からず、テンパった様子で声を上げた。
そんな、傍から見ればアクシデントが起こっているような状況で、リムは慌てる久遠を気にすることは無く、再び何かに呼びかけた。
「――揃ったね……。
よし、じゃあ行くよ? せ~~~のッ!!」
「「「チヨ~~~ッ!! いつでも待ってるからッ!!」」」
リムの呼びかけから、一気に数人の大きな合わさった声で、声が上がり、そのリム以外の声の主が、誰かわかるのにそう時間はかからなかった。
六期生ッ!?!?
え? チヨに呼びかけッ!?
!?
びっくりしたぁ~~ッ!!
重なった声がサクラ、エルフィオ、リムの物だと分かると、コメント欄は一気に、勢いよくコメントが流れ始めた。
(そりゃ、みんな驚くだろうな……。
チヨの炎上に付いては、運営からほとぼりが冷めるまでは一切触れるなってお達しが出てたし。
今はチヨの話題すらもあんまり出さないようにしてたからな……)
チヨと一番関りのあるはずの六期生が、公の場でチヨの事に触れずにいた節があった為、急な呼びかけに、『チューンコネクト』のファンは騒然としていた。
(事態がはっきりするまで、復帰するまでは待てって言われてんのに……。
まぁ、裏でいくら声を掛けられたとしても、仲間に配信で声を掛けられない事が、何より我慢できなかったんだろうな……。
姉貴も他の奴らも……)
『チューンコネクト』の運営は、騒ぎを大きくさせたり、余計な炎上を起こさない為にも、復帰をするまでは、大人しくするという方針だったが、活動できない時期の不安は、美絆にもよくわかっていた為、どうしても、声を掛けられずにはいられなかった。
(佐伯さんにも相談しないで……、誰が尻拭いするのか、姉貴分かってんのかよ……。
――たく……)
穂高は美絆達の行動が、そこまで大事には至らないと考えてはいたが、それでも、勝手な事をしている為、怒られるのは目に見えていた。
(俺も知ってたのに、黙って黙認したし、巻き込まれて説教されそう……)
穂高は嫌な予感を感じると共に、代わりの自分では、どうしたって築けるはずの無い、六期生の絆を少しだけ羨ましく思った。




