第68話 ◯◯◯(ビアンカ)の気持ち②
ヒルス村長や村の皆さんが作ってくださったという夜ご飯は、とても美味しかった。
お肉は『鶏の丸焼き』と言うらしく、噛む度に肉汁が口の中にじゅわっと広がっていく感覚がたまらなかった。
鶏の丸焼きの下に敷かれていた野菜(緑色の野菜はレタス、赤色の野菜はトマトと言うらしい)も、レタスはしゃきしゃきでみずみずしく、トマトは噛んだらプチッと弾けるような食感でほどよい酸っぱさが癖になりそう。
レノンさんはこのトマトの酸っぱさが苦手らしく、ウィンディーさんのお皿にこっそり移そうとしてフロラに見つかり、大目玉を食らっていた。
薄黄色のスープはコーンスープと言うらしく、ほどよい甘さがアクセントになっていてとても美味しかった。とうもろこしという野菜があれば手軽に作れるということだったので、またヒルス村長にレシピを教えてもらうつもりだ。
夕飯はこれだけでは終わらなかった。
リッターさんとシュヴァリエさんが作ってくださったという『デザート』が机に運ばれてきたのだ。
「リッターさん、顔もイケメンなのに料理もできるのか……」
と、レノンさんがあからさまに悔しがっているのが面白い。
リッターさん特製の『ひとくちアイス』は、親指サイズの比較的小さなアイスで、バニラ、チョコ、抹茶、と三種類の味が用意されていた。
シュヴァリエ特製の『ケーキ』は『ショートケーキ』と呼ばれるものらしい。
こちらもクリームたっぷりのショートケーキと、チョコレートケーキ、複数の種類のチーズがたっぷり練り込まれたチーズケーキ、と三種類の味が用意されていた。
私は見た目だけで判断し、定番そうなバニラアイスとショートケーキを頂いた。文字通り頬が落ちるほどの甘さで、とても美味しかった。これもあとでシュヴァリエさんにレシピを教えてもらおう。
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デザートも完食し、皆が休憩していたところ、
「せっかくだし、戦士達にスピーチでもしてもらおうか!」
と、おそらく私達人喰い鬼を討伐したメンバーからのスピーチを提案したのはヒルス村長だった。
「ええっ!?」
真っ先に、フロラが驚きの声をあげてしまう。そのせいで最初にヒルス村長に名指しされ、
「嘘でしょ!? 何も考えてないんだけど……」
『ヨッ! 村長の娘!』『次期村長!』などと村の皆さんから囃しな立てられながらも、眉を寄せて考え込みながら、おずおずと席を立つフロラ。
「えっと……。まずはお疲れ様でした。こうやって無事に人喰い鬼を倒せたこと、本当に良かったと思ってます。これからはより一層強くなるために特訓を重ねて、お父様みたいな村長になれたらいいなって……ちょっとだけ思ってます」
「おいおい、悲しいな。ちょっとだけなのか?」
ヒルス村長の言葉に、その場からどっと笑いが起こる。フロラも冗談っぽく笑っていた。
「まぁ、いいか。次はウィンディー」
「わ、私もですか!? ど、どうしよう……」
ウィンディーさんもまさかフロラの次に呼ばれるとは思っていなかったのだろう、心底驚いて悩みながらもスピーチをしていた。
そして、突如として始まったスピーチ大会は、リッターさん、シュヴァリエさん、言い出しっぺのヒルス村長……とどんどん進んでいき、
「じゃあ次はレノン」
「は、はい」
名指しされたレノンさんが緊張ぎみに立ち上がり、村の皆さんを見回しながら口を開く。
「人喰い鬼を倒せたのも勿論嬉しいです。一重にフロラ、ウィンディー、鬼族の皆、リッターさん、シュヴァリエさん……。この村の全員の力があったからこそ、掴めた平和だと思います。その分、失った命も少なくない……。だから彼らに恥じないよう、これからも強く生きていこうと思います」
レノンさんが一礼し、その場から拍手が巻き起こる。
「じゃあ最後に――」
ヒルス村長はそう言って、私を見つめて顎を引いた。
私も頷き返し、皆がやってきたように席から立つ。
「皆さん、初めまして。最初は鬼族としてこの村を訪れたのですが、私は鬼ではなくて人間です。赤ん坊の時に人喰い鬼に喰われそうになったところを、鬼族の皆さんに助けて頂きました」
村の皆さんの反応はまちまちだった。
私のことを鬼族だと思っていた方が多かったようで、私が人間だと言うと驚愕の声をあげたり、赤ん坊の時のことを不憫に思ってくださってか、悲しげに眉尻を下げる方もいらっしゃった。
「今回、こうして人間の皆さんと一緒に人喰い鬼を討伐できて、心の底から嬉しく思っています。人喰い鬼の討伐に尽力してくださり、本当にありがとうございます」
私は深くお辞儀をしてから、もう一度村の皆さんを見回す。長くて話の流れもめちゃくちゃかもしれない。自分では分からないけど、皆さん熱心に聞いてくださっていた。
「でも、これだけは忘れないでいてほしいです。鬼族は人喰い鬼を討伐する過程で犠牲になりましたが、決してそのために討伐に参加したわけではありません。ドラコス王、ラルヴァさん、オグルさん、オグレスさん……お一人お一人が命を懸けてご尽力された結果です」
そこまで言ってから、私は慌てて付け足した。
「も、勿論、人間の皆さんのご尽力を否定するつもりはありません。ただ、鬼族のことを風化してほしくなくて……。次の世代、また次の世代へと人喰い鬼討伐のため、尽力した種族がいたことを、伝えていってほしくて……」
私だけとてつもなく長いスピーチになっていることに気付き、急いで纏めに入る。
「と、とにかく、皆さんの応援と支えがなければ人喰い鬼を無事に討伐することができたか分かりません。本当にありがとうございました」
私がもう一度頭を下げると、その場から拍手が巻き起こった。するとヒルス村長が立ち上がり、
「当然、君の思いはわたし達全員の思いだ。誰も鬼族のことを忘れない。そして、次世代に繋げていく。そのために、村の中央に墓を建てたんだからな」
私の席まで歩み寄ってきたヒルス村長は、私をギュッと抱きしめてくれた。
――これからもラルヴァさん達のことが忘れられることはない。
そう思った瞬間に、安堵の涙がこぼれ落ちてきた。
「ヒルス村長……」
私はヒルス村長のがっしりとした腕の中で、恥ずかしくも泣いてしまった。
「安心してくれ。……おっと、最後に一つ。君の名前を聞かせてもらえないだろうか?」
ヒルス村長が私の身体から腕を離し、期待に満ちた眼差しを送ってくださる。レノンさんとフロラが、私の方を見てガッツポーズをしてくれた。
改めて自己紹介をすることに緊張が再び襲ってくるけど、それを深呼吸で何とか打ち消して、私は口を開いた。
「私の名前はアテナ。村の守護神から取って、レノンくんが名付けてくれました。アテナ・コンフォと申します。よろしくお願い致します」
再度、拍手が巻き起こった。
――アテナ・コンフォ。
それが、私の新しい名前だ。




