第63話 止めの一撃
「よし、ビアンカ。俺達も行くぞ」
「はい!」
リッターさんとシュヴァリエさんの素早すぎる剣撃を見て、ラルヴァとビアンカも走り出す。
「ま、まだいるのか!」
デイルは自分の腹部と背部から流れ出る血液を、両腕を回して両手で押さえつつ、すぐには動けない様子だ。
少しでも動けば傷口が痛むし、地面に滴る血液の量も増えるからだろう。
「これが、私達の力です!」
「王と双子の仇だ! 存分に味わえ!」
ラルヴァの角が黒い光を放ち、ラルヴァとビアンカはデイルを真正面から斬りつけ始めた。
それも、ものすごいスピードだ。
デイルが腕でガードする隙など一切ない。勿論、剣撃を与えている二人が休む暇もない。
ドラコスを、オグルを、オグレスを、鬼騎士達を……。
今まで失った仲間の仇を討つように、彼らの痛みを体現させるかのように、次から次へと剣撃を繰り出していく。
頬から、胸部から、腹部から、足から、鮮血が飛び出て地面にシミを作っていった。
「ビアンカ、いけ!」
「はい!」
ラルヴァが叫んでビアンカの背中を押し、ビアンカがデイルの眼前に迫る。
「これは……あなたに喰われた私の両親の分です!」
「ぐっ……!」
ビアンカはデイルの体を盾で押すと、次いで剣を乱れ打ってデイルを傷つけていった。
「はあああぁぁっ!!」
乱れ打ちの直後、ビアンカは渾身の力を込めて剣を振るう。光る刃が人喰い鬼の胸部に迫り――。
「ぐわああああぁぁっ!」
絶叫とともにデイルの身体が吹き飛んだ。土煙をあげてバウンドし、地面を転がっていく。
「わ、私……戦えた……!」
地面に伏したデイルから自分の武器に視線を移し、ビアンカは信じられないといった様子で立ち尽くしている。
早朝から素振りをしていた俺に、ビアンカは自信無さげに剣と盾を見せて「わ、私も一応武器は持ってるので、少しばかり力になれるかと」と言っていたが、あの言葉は謙遜でもなんでもなかったのだろう。
本当に、戦う自信も経験もなくて、それでも周りの役に立ちたいと思ってくれていた。紛れもなく、その気持ちだけは強かった。
その気持ちの強さが、顔も知らない両親への想いが、ビアンカの内に秘めた戦闘能力を覚醒させたのではないか。
「止めだ! 出来るな、レノン!!」
ラルヴァがビアンカの肩を優しく抱いて俺達三人を振り返り、止めを刺せと目で合図を送ってくる。
俺はラルヴァと目を合わせて力強く頷き、両隣のフロラとウィンディーを交互に見つめた。
「行くぞ、フロラ! ウィンディー!」
「うん!」
「ええ!」
それと同時に、俺達は地を蹴って走り出す。
「くそっ、小賢しい女が……! なっ!」
頭を押さえて心もとない白髪を掻きむしり、震えながらも身体を起こしたデイルが目を見開く。
その眼前――デイルに迫っていたのは、ラルヴァの合図を受けた俺達だ。
デイルに止めを刺すための戦法は、もう既に決まっている。一度失敗したやり方だが、二回目は失敗するわけにはいかない。否、絶対に失敗しない。
「はあっ!」
ウィンディーがかけ声とともに両手を振り上げ、風魔法で突風を巻き起こす。そのままデイルを突風で煽らせ、しばらく空中で浮遊させておく。
前回失敗してしまった原因の一つとして考えられるのは、デイルが落ちる方向も何もかも見極めず、勢いのままに槍で攻撃してしまったことだ。
デイルが風に吹かれて煽られている方向を見定め、地上にいるラルヴァやビアンカの方に被害が及ぶことのないようにしなければいけない。
「――今だ!」
「うん!」
フロラと頷き合った俺は、地面を蹴って飛び上がった。もう一度地面に落ちることのないように、ウィンディーが小さな風を起こして空中に俺達の足場を作ってくれる。
空中にいる俺は槍に炎魔法を纏わせ、フロラは弓矢に水魔法を纏わせる。俺もフロラもこの攻撃で決めようと思っているため、それぞれの武器にありったけの魔力を注ぎ込んだ。魔力が尽きようが構わない。
「デイル! 今まで人間を喰ってきたこと、今まで人間や鬼族を殺してきたこと、地獄で後悔しろ!」
「地獄に落ちたって、あなたの罪は絶対に許されないんだけどね!」
「こしゃくなああぁぁぁ!! ただのニンゲンごときがあぁ!」
デイルはなおも突風に煽られているが、悔しげに言葉を吐く気力だけはまだまだ残っているようだ。
その憎まれ口も、叩けないようにしてやるよ――!
「「はあああぁぁぁぁ!!」」
武器に纏わせた炎と水が、激しくデイルの身体を打つ。
俺とフロラは十七才、デイルからすれば一呼吸をするくらいの短い年数だろう。だが、俺達は確かに十数年を生きてきた。短いようで長い、その人生を。
その十数年ぶんの魔力が込められているのだから、なかなかデイルへの攻撃は終わらない。
デイルの方もウィンディーの突風に煽られているため、地面に落ちることがなくずっと空中で浮遊している。
突風の影響で空気が圧縮され、身体を軽く板挟みにされているような状態なので、俺達の攻撃から逃げようと思っても逃げられないのだ。
「レノンくんー! フロラちゃんー! 決めちゃってー!」
下からウィンディーの叫び声が聞こえてきた。
――勿論、決めてやるよ。この一撃で……!
平和が脅かされることのない、当たり前の日常を、楽しくて幸せだったあの日々を、取り戻すんだ!
「レノン、また二人でデートしようね」
フロラがそう言って、手を差し出してくる。俺は頷いてその小さな手を握り返し、
「って、フロラ、俺と手を繋いだら矢が引けなくなるぞ」
「大丈夫大丈夫! レノンの槍みたいに、直接ぶっ叩くから!」
二カッと歯を見せて笑い、片手で弓矢を掲げるフロラ。
――フロラの味方で本当に本当に良かった。これからは絶対に死んでも怒らせないようにしよう。弓矢で殴られたら、どちみち死ぬか生きるかの瀬戸際だろうけど。
俺は心の中でそっと決意をしてから、
「わ、分かった! じゃあ行くぞ!」
「了解!」
デイルの胸を、槍の切っ先と矢の先端が貫いた。




